第67話 ただ一人だけ
今回は、由衣視点の話です。
二学期初日の朝。
・・・
前の日に、それまでの三つ編みを止め、美容院に行き前髪を切り揃えると、それに合わせるよう髪型を変えた。
眼鏡を外し、コンタクトに変えた。
・・・これで少しは、野暮ったくなくなっただろう。
ついでに、眉毛も少しゲジゲジだったので、ちょっとばかり手を入れる。
・・・
翌日になり、瑞希、華穂に会うと、最初、私だと気付いてくれなかった。
自分としては、それほど、変えたつもりはないんだけども・・・。
でも、優くんを、良い意味でビックリさせたみたいで、とても嬉しかった。
だって、私が綺麗になりたかったのは、優くんに振り向いてもらいたかったから。
なんだか照れている様に見える、優くんを眺めながら、嬉しい気分で歩いていた。
・・・
教室に入ると、一瞬、みんなが不思議そうな顔をしていた。
”誰、この人?”と言う風な、視線をヒシヒシと感じる。
「おはよ、瑞希、華穂さん」
「おはよ、蓮」
「それで、こちらの人は誰?」
「ふふふっ」
「はははっ、蓮も分からなかったのね」
「へっ」
「由衣よ、由衣」
「「「「「ええええっーーーー!」」」」」
クラスのみんなが驚いた。
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それから、一時間目が終わり、休み時間になった。
「ねねねえ、平尾さん、スッキリすると以外に可愛いんだね」
「ホント、俺、知らなかったよ」
休み時間になったと同時に、チャラチャラした男の子2人が近づいてきた。
以前は、私を見向きもしなかった癖に。
それどころか、私を歯牙にも引っ掛けなかった。
それが、綺麗になった途端に、手の平を返した様に、態度を変えてきた。
「そうだ、今日の放課後、どこに行かない?」
今までの事を忘れたかの様に、私にナンパをしてくる。
心の奥底から、ドス黒い物が湧き起こってきた。
「そうね、良いけどそれなら、三つ編みに、眼鏡を掛けて来ても良いよね」
私は、ニッコリと微笑みながら、そう言った。
「えっ、この方が可愛いのに」
「そうそう、何で、前のダサい格好なんで」
その男の子達の言葉を聞いて、わたしの中で何かが切れた。
「でも、そのダサいのも、私なんですけど」
「「へっ!」」
私は、笑みを浮かべたまま、そう言った。
人間、怒りでも、微笑む事が出来るのですね。
「前は、私の事を視界にも入れてなかった、それどころか、私を馬鹿にしていたよねぇ〜」
「「・・・」」
「結局、あなた達は、可愛い娘なら、誰でも良いんでしょ」
私は、鼻で馬鹿にしたように言った。
「「ングググ〜!」」
その二人は、顔を真っ赤にさせて、唸り声を上げる。
「コイツ、調子に乗るんじゃねえーーーー!」
「キャッ!」
男の子の一人が、私を殴ろうとした。
「バキッーーーーン!」
「何、女の子を殴ろうとしているのよーーーー!」
その瞬間、瑞希のパンチがソイツの頬にクリーンヒットした。
「アンタ達、たっぷりと教育的指導を施してやるわよ〜!」
「「ひえ〜〜〜っ!」」
「覚悟しなさい!」
「「助けてーーーーー!」」
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瑞希は、空手の有段者で、全国大会の優勝候補の常連である。
本人は、その事を普段表に出すことのを嫌がるので、滅多に口にする事も無く、その為、みんなその事を忘れているのだけど。
その瑞希が施す教育的指導だから、男の子達は、教室の隅でボロボロになっていた。
瑞希と華穂は、廊下から教室に入る所で、私の様子を見て、急いで駆けつけたのである。
「どうしたのよ、由衣、あんな連中、マトモに相手しない方が良かったのに。
ああ言う手合は、逆切れすると手が付けられなくなるのよ。
どうしたのよ、急に?」
「ホント、由衣らしくないよ」
瑞希と、華穂がそう言った。
「本当の私を知らないで、上っ面だけ見て、近づいてくる。
しかも、それが、表面を取り繕う以前は、馬鹿にしていた連中にだと思うと、怒りがこみ上げてきたのよ」
瑞希と華穂の言葉に、私はそう答えた。
私は、本当の私を知らない人間、特に表面だけしか見ない、そんな人間の側には居たくない。
私の側に居てほしい人間は、ただ、一人だけだ。
ねえ、優くん。




