第65話 二学期初日の朝
ある日の朝。
「(スースー)」
僕は、布団の中で、微睡んでいた。
もう朝になった事には気付いたが、そんな事には構わずに眠っている。
「(スースー)」
そうして、また二度寝をしようとしていた所、”ガシャリ”と部屋のドアが開き。
「ゆうくん、朝だよ、起きなさい〜」
それから、姉さんの声が聞こえた。
何だろ? 夏休みなのに?
「ゆうくん、今日から、学校でしょ」
姉さんの言葉で、僕は気付く。
はっ! そうだ、今日から学校だった。
姉さんの言葉に、僕はのろのろと起き出す。
「ふふふっ、やっと起きたね、ゆうくん」
寝ぼけた様子の僕を見て、姉さんが笑う。
「ほらほら、寝癖が付いたままだよ〜」
上半身だけ起こした状態で、ボンヤリしていると、姉さんが僕の傍らに座り、頭を撫で出した。
姉さんの細くて柔らかい指が、僕の髪を掻く様に撫でて行く。
その感触の心地良さに、身を起こしたまま、眠り込もうとしていた。
「ほら、もう、ご飯の準備が出来たから、おいでよ」
しばらく僕の頭を撫でると、そう言って、姉さんが手を止めた後、立ち上がり、部屋を出て行った。
「もう少し、撫でて欲しかったなあ」
僕は、自分の頭を名残惜しそうに撫でると、姉さんが出て行ったドアを眺めていた。
・・・
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「ふあ〜」
大アクビを出しながら、僕は、台所に入った。
テーブルには、既に、皿に盛ったサラダと目玉焼きが乗っている。
「ゆうくん、今、入れるからね」
そう言いながら、姉さんがアイスコーヒーをグラスに入れてくれた。
「ゆうくん、まだ、眠そうだね」
僕の顔を見て、姉さんが苦笑した。
僕の顔を見て、しばらく思案すると、何かを思いついたのか、”ポン”と手を叩いた。
そうすると、姉さんがおもむろに、僕に近寄ると、顔を接近させる。
姉さんとの距離が次第に縮まって行く。
「(・・・姉さん、何をするつもり?)」
姉さんの顔がドンドン近づいて行き、そして、
「(ムニュ)」
突然、姉さんが、僕の両頬を摘んだ。
「痛ててて、姉さん、痛い、痛い」
「どう? 目が覚めた♪」
そう言って、姉さんが舌をチロリと出した。
「さあ、食べましょ、遅れちゃうよ」
姉さんが、冷えたコーヒーが入ったポットを持つと、グラスに注いでくれた。
僕は、そんな姉さんを見ながら、引っ張られた頬を撫でている。
「ごめんね、チョット強すぎたかな」
姉さんがそう言いつつ、ポットをテーブルに置くと、僕の頬を優しく撫でてくれた。
姉さんの手の感触に、頬に残る、痛みが次第に薄れて行く。
そうやって、僕は、姉さんの手の感触を味わっていたのであった。




