第30話 漠然とした不安が目の前に
今回は、華穂視点の話です。
五時限目が終わった後の、休憩時間。
私は席に座って、瑞希と由衣の三人で話をしていると、いきなりクラスの男子が顔を出してきた。
「ねえねえ、大橋さん、今日の放課後ヒマ?」
顔を出したのは、軽そうな、いかにもチャラ男ぽい感じの男子である。
「えっと、今日も家で、夕飯の支度しないといかないの」
「え〜、いいじゃん、弟なんて適当に何か食わせば良いじゃん」
あ〜、嫌だなあ。
タダでさえ、ああ言うタイプは苦手なのに、しつこいなあ。
「ねえ、だから一緒に遊びに行こうよ〜」
なおも、しつこく食い下がる、チャラ男。
そんなチャラ男に業を煮やして、瑞希が横から割り込んできた。
「って、アンタいい加減にしなさい!」
「なんだよ、お前には関係ねえだろ!」
「華穂は、私達と一緒に帰るから、関係あるわよ。
だからアッチに行きなさい!」
「チッ、何なんだよ」
”お前なんか、どうでも良いんだよ、男女”と、捨て台詞を残して、チャラ男はその場を去って行った。
瑞希は、そんなチャラ男を”しっしっ”と、まるで野良犬を追い払う様に、手を振った。
「ホントに、失礼しちゃうわね!」
「ははは(汗)」
瑞希は、男子には手厳しいので、男子から敬遠されている。
しかし、その大部分の原因は、私にある。
瑞希が、私に言い寄る男子を、追い払っていたからだ。
「でも、最近では久しぶりじゃなの」
隣で成り行きを見ていた、由衣がそう言ってきた。
「確かに、そうだね、最近の華穂は、優くんにベッタリだから。
近づく機会も、無いからね」
それに対し、瑞希がそう言った。
「まあ、それ以前に、華穂の余りのブラコンぶりに、ドン引きしたのがあるかもね?」
ニヤリとしながら、再び、瑞希がそんな事を言った。
むっ! 失礼しちゃうな
「だけど、昔は凄かったね。
一年の頃なんて、よく、放課後に告白されていたよね」
と、由衣が言った。
「だけど、結局は断り続けていたけど。
その理由が、”私には、可愛い弟がいるから”って、理由なんだから。
相手が、唖然としてたよね」
今度は、溜め息を付きながら、瑞希が言った。
「それから2年になって、かなりの人間が諦めたみたいだけど。
それでも諦め切れないのか、シツコク付き纏う男がいたよね」
そう言う風に由衣が言うと、瑞希が頷いた。
「それで私が、結構、強硬な手段で追い払っていたなあ」
遠い目をしながら、瑞希が物思いに耽っていた。
私と由衣は、その頃の事を思い出して、苦い笑いを浮かべる。
「でも、そんな華穂が執着する位の弟くんって、どんな子だろうと思っていたら、あんな子だったんだね。
あれじゃあ、華穂がブラコンになるのも分かるな」
と、瑞希がそう言うと。
「ホントに優くんは、私が欲しい位だよ」
由衣がほそりとつぶやいた。
「あれ、由衣、今なんて言ったのかな♪」
「えっ!」
由衣が言った言葉に瑞希がツッコミを入れると、由衣が自分の言葉に驚き、そして俯いてしまった。
それを見ていた私は、不安に襲われていた。
それも、昔から思っていた、漠然とした不安が。
いつか、ゆうくんの前に、恋人が現れるかもしれない、と言う不安が。
ゆうくんの事をつぶやいた、由衣の表情は、一瞬だったが、まるで恋する乙女、その物であるのを見逃さなかった。
今すぐ、そうなる訳では無いが、そうなる可能性は十分ある。
私は、俯いた由衣を呆然としながら、見ていた。




