幕間 翼の気持ち後編
おっさんの書く女子高生の恋心……まあ、現役の女子高生や中学生は読んでないと思うので大丈夫なはず?
必死に逃げながら翼は違和感を覚えていた。体の動きが鈍いのだ。
(息が切れるし、体の節々が痛い……嘘?)
川の水面に映った自分を見て驚愕する。そこにいたのは老婆。白髪で顔は皺だらけ、皮膚にはしみが浮いている。
体力も落ちており、河川敷の階段を登るのも困難であった。
(これじゃ誰も僕だって分かってもらえない。パパとママも僕だって信じてくれないよね)
自然と涙が零れ落ちる。美少女で明るい性格の翼は男女問わず人気があり、困っていると誰かが手を差し伸べてくれた。しかし、今は声を掛けてくれる人すらいない。
「うわ、汚い婆だ。どけ、邪魔だ。先輩、ボコりましょうか?」
蔑んだ目で見て来たのは中学時代の先輩であった。空手部の都大会で優勝経験がある実力者。イケメンで優しく、翼達の学年にはファンクラブもあった。
「婆なら金を持ってるだろ?それで焼肉でも食いに行くぞ」
一緒にいた大男がにやりと笑う。恐怖で震えるが、二人に怯えて誰も助けてくれない。
翼が絶望していると、一人の少年が間に入って庇ってくれたのだ。
「日中堂々とカツアゲね。お年寄りには優しくしなさいって習わなかったのか?」
(大酉君?)
庇ってくれたのは、同じクラスの大酉吾郎であった。健也と仲が良い穏やかに笑う人。この頃の翼が吾郎に抱いていた印象は、それだけであった。
「槻浪の一年が生意気なんだよ……グフッ」
「おおしょりくん、あふない……うそ?」
先輩の鋭い蹴りが吾郎を襲う。翼が注意を促そうとするも、歯が抜け落ちており上手く喋れない。
そして、それは一瞬の出来事であった。吾郎は蹴りを交わすとカウンターで、先輩の腹に一撃を加えていたのだ。
「吾郎です。分かりました。俺もトラブルに巻き込まれているので、お任せして良いですか?」
しかも、スマホで通話をしながらである。吾郎は偶然河川敷に来たのではない。援護要請を受けて、現場に向かう途中であったのだ。
「通話しながらだと?なめんな……ぐえ」
大男は吾郎に掴み掛かろうとするも、こちらも一瞬でのされていた。
「大丈夫ですか?おぶりますので、家を教えて下さい」
そういって優しく微笑む吾郎。その顔を見た瞬間、翼の鼓動が一気に高まる。
「と、止まり木という喫茶店まで……」
醜く老いた自分を見捨てず、優しく接してくれた。翼が恋に落ちた瞬間である。
◇
世の中には、その人にそれを言ったらアウトだろ?という言葉がある。
「また、女のヒーローか?俺様に勝てる訳ないだろ」
番長オーガの目の前にいたのは美樹本雪華。その額には青筋が浮かんでいた。
「アイスナックル……俺様になんだって?言ってみろよ、オラ」
ホワイトエンジェルの拳が、番長オーガの腹にめり込む。
いくら番長オーガが近接戦が得意と言っても、相手が悪すぎた。ホワイトエンジェルは、上級ヒーローでも有数の強者。
モデル稼業でストレスをためている彼女にとって、吾郎いじりは大切なストレス解消の一つである。
女性軽視の発言+ストレス解消の邪魔をされたとあって、番長オーガは遠慮のない攻撃をされたのだ。
「ば、化け物」
恐怖のあまり、番長オーガが怯えた口調で呟く。しかし、それは更なる地雷であった。
「アイスギロチン……これで、もうふざけた口はきけないよな。これは……元に戻りなさい」
アイスギロチンで首を両断される番長オーガ。その手に持っていた翼の心の力に、ホワイトエンジェルが優しく魔力を篭めた。
鷹の形に姿を変えた心の力は、持ち主目掛けて飛んでいった。
数分後、止まり木。
魔力から老婆が翼だと分かったものの、真理、智美、麗美の三人はどうすればいいか悩んでいた。
翼を元の姿に戻しには、奪われた心の力を取り戻す必要がある。援護要請はしたものの、肝心のポーチャーの居場所が分からないのだ。
「翼ちゃん、大丈夫……嘘?心の力が自然回復している?」
先輩ヒーローでもある真理は驚いていた。まだ取り戻していないのに、翼の心の力が回復してきているのだ。
「大酉君、格好良かったな……それに優しいし」
回復した理由は吾郎への恋であった。元の力を覆す様な恋の力が育っていたのだ。
「あれは翼の心の力?」
三人が唖然としている中、止まり木に翼の心の力が戻ってきたのだ。
そして奇跡が起きた。吾郎への恋で新しい心の力を得た翼の元に、番長オーガから奪われた心の力戻った事で、元の姿に戻る事が出来たのだ。
「僕、完全復活!勇気の戦士改め恋の戦士として頑張るね……まずは吾郎のSNSを全部フォローして……このイソスタに上げてる自撮り格好いい。スクショしちゃお」
麗美は思った。復活したのはいいけど、翼さん、やばくなっていませんかと?。
◇
麗美は、あの時の事を思い出して思う。翼さん、更に悪化していますよねと。
理由は想像出来る。バーディーアンとしての心の力と、大酉吾郎に対する恋心。それが互いに影響しあい、拍車をかけているのだ。
「二人とも、ちょうど良かった。お客さんから中秋小夜がでるイベントのチケットもらったんだけどいる?」
チケットの数は五枚。そしてバーディーアンは三人。
(智美の事だから健也を誘う筈。そうすると残りは一枚)
翼は瞬時に計画を練り始めた。
「いる!僕の小夜ちゃんの歌好きだもん……智美は健也を誘うでしょ?吾郎を誘っても良いかな?」
休み中会える時間が減り、翼は深刻な吾郎不足に陥っていた。パンケーキは吾郎抜きで食べる事になったので、期待していただけに失望は大きかったのだ。
何より、吾郎がコカトイエローか特定するチャンスなのである。
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