クリスマスは連戦?
今日はクリスマス・イブ。俗にいう恋人達の聖夜って日だ。
多くの恋人達は瞳を閉じて、二人っきりの夜に思いを馳せていると思う。
でも、俺は目を瞑ると鶏のコミカルな動きがちらつく。
(動画、何時間も見ていたもんな。お陰で動きは完璧だ)
見過ぎて夢の中にまでポンズ・ターキーが出てきた。仕事だから手は抜けないけど、ロマンティックのロの字もない。
ただいま朝の六時。大酉吾郎、既に会場入りしています。ちなみに場所は都内にあるショッピングモール。外に屋台とかが並ぶらしい。
「はい、ごろちゃん。今日はこれを着てね」
美影さんのろ指さす先にあるのは、ポンズ・ターキーの着ぐるみ。かなり、しっかりとした造りで冬でも暑そうです。
「お、ごろじゃないか。今日、頑張れよ」
ポンズ・ターキーの着ぐるみを見ていたら聞き慣れた声が聞こえてきた……今日はクリスマス・イブ、芸能人は絶対に忙しい筈なのに、なんでいるんだ?
「美樹本さん?……いや、俺こっちですよ」
美樹本さんは俺をスルーして、ポンズ・ターキーの着ぐるみに話し掛け始めた……会って数秒で弄りが始まるとは。
「今日、大変だけど頑張れよ。まあ、俺達もきちんと協力してやるから、ちゃんと雰囲気作るんだぞ。照れ隠しで笑いとるのは厳禁だからな」
俺の言葉をスルーして、ポンズ・ターキーに話し掛ける美樹本さん。雰囲気か……作り方分からないし、場合によっていたたまれない空気になるんですが。
「俺はこっちですって。てか、なんでここにいるんですか?」
確かイブは本業だって聞いていたんだけど。
(俺をからかう為に来た?……それはないか。きっと、美影さんの激励だろう)
そうであって下さい。美影さんも俺をからかってくるけど、美樹本さんは、その比じゃない。
「ごめん、ごめん。あまりにもそっくりで……ごろ、今日はよろしく頼むぞ。イベント、俺達も参加するから。ほら、二月にでかいイベントやるだろ?その告知も兼ねているんだよ」
え?……聞いてないですけど。
そして美樹本さん、物凄くニヤニヤしています……達?美樹本さんだけだったら俺もって言うよな。
「鶏君、着ぐるみを着るのなら、しっかり水分補給をしないと駄目だぞ」
獺川さんまで来たの?確かにイートブレスを使えば脱水のリスクが高まる。
でも、俺の中では別のリスクが急上昇中なんですが。
「せ、獺川は激励ですよね?」
獺川さんはお医者さんだ。イベントとは無縁だ。お願いですから、そうであって下さい。
「大規模なイベントには医療従事者は必須じゃないか。まあ、私の一番の役割はヒーローのメディカルチェックだけどね。連戦が続けば、上級ヒーローでも疲労は蓄積するし、怪我のリスクも高まる。鶏君、私がここにいるから安心して仕事に励め」
マジで!サンサンクが揃い踏みです。
(これでイベント会場は安全になったな)
物凄く心強い。戦力も倍増だ。だけど。俺への弄りも倍増なんですが。
「まだ時間はあるな。ごろ、設置を手伝ってこい……すいません、アルバイトの子が一名増えました。イベント中はポンズ・ターキーに入ってもらいますけど、力仕事も出来るので手伝える事があったら指示してあげて頂けますか?……はい、ありがとうございます。頼りにしていますね」
別人のような優しい声で電話かける美樹本さん。後輩にも、その優しさを分けて欲しいんですけど。
◇
前日に大分出来ていたらしく、設営は無事完了。後は商品の搬入や細かな装飾をつけていくそうだ。
「大酉君、お疲れさん。助かったよ。見た目と違って力持ちなんだね」
職員さんが笑顔で褒めてくれた。見た目はモブ、でもその正体はヒーローですから。そしてただ今の時刻は八時。ヒーロー開始時間は九時。つまりまだ余裕がある……鷹空さんに挨拶に行けるのでは?
「いた。吾郎、急用だ。急げ」
そう思った瞬間、職員さんに捕まりました。
そのまま、時医務室と書かれた部屋までダッシュ。ドアを開けると、獺川さんが待っていたました。
……顔が強張っていて、緊張感が嫌でも伝わってくる。嫌な予感しかしないんですが。
「来たな、鶏君。時間がない。まずは変身してくれ……よし、行くぞ」
そのまま引きずられる様にして、関係者以外立ち入り禁止と書かれた部屋に来ました。
「あの……何があったんですか?最初の援護は九時の筈ですけど」
いや、何かあったから慌てていると思うんだけど。せめて何があったか教えて欲しい。
「まずは転移装置に入って……功を急いだヒーローが、戦闘員に奇襲を仕掛けたらしい。結果、ハザーズが強硬策に出た」
まあ、良くある話だ。手柄をたてられないで、焦る気持ちは分かる。
「分かりました……転送をお願いします」
手早くハザーズを倒せれば、鷹空さんに会いに行ける。
(確か最初は富山だったよな。月山のお土産買っておくか)
「行先は黒部ダム。直接転送するから、絶対に動くな。念の為、第二、第三形態に変身出来るようにしておけ………転送開始っ!」
なんで形態変化と聞こうとしたら、既に転送させられていました。
◇
踏んだ石が転げ落ちていく。うん、飛べなきゃ俺もああなっていた可能性があると。
俺が転送させられたのは黒部ダム……のアーチ。足がすくむような高さで、落ちたらひとたまりもない。
「お前等、ヒーローが来ないから見張っていろ。ここに俺様特製爆弾を落とせば、電力不足になりイルミネーションは中止だ」
……声のした方を見ると、ボーリングの玉から手足が生えたようなロボットがいた。
その手には爆弾を持っており、今まさに落とそうとしている。
「イルミネーション中止の為だけにダムを壊すなっ!石化ブレスッ」
このダムを作るのに、先人がどれだけ苦労をしたと思っているんだ。
ロボットハザーズ、爆弾、戦闘員全部まとめて石化してやった。
(確か売店があったよな……え?)
ハザーズを倒した瞬間、転送が始まったんですけど!
◇
……臨時設置だからなんだろうか?それとも直接転送した所為なんだろうか?
転送で滅茶苦茶体力を消費しました。
(次は十時の大阪だよな……少し休める……かな?)
転移装置の前には美樹本さんがポンズ・ターキーの着ぐるみを持って待っていました。
「うし、ごろ。ポンズ・ターキーになれ。動きをチェックした後、写真撮影だ。それが終わったら養護施設にクリスマスプレゼントを届けに行くぞ」
養護施設は総司令からの指示との事。プレゼントの中身はヒーローグッズ。
(子供のパワーって凄いな)
ちなみに一番人気は守さん。
そして今の時刻は九時三十分……転移装置に向かいます。
◇
今回は直接転送ではなかった。なかったけど……。
「コカトイエローさん、お願いします。昨日からハザーズが川の水を通行人にかけているんです」
俺がいるのは道頓堀川の遊歩道。正直、川はかなり臭い。
「ここの水を掛けられたらクリスマスどころじゃありませんもんね。それでそいつは、どんなハザーズなんですか?」
バケツか何かを持ったハザーズなんだろうか?
「半魚人タイプのハザーズでして……コカトイエローさんは着衣水泳が得意だと、ピースガーディアンさんが推薦してくれたんです」
道頓堀川で泳げと?クリスマス・イブに?




