テスト勉強と寒気
アラームの音で目が覚める。今日は日曜日だけど、テスト期間って事で仕事がお休み。
それでも、メールやヒーローサイトをチェックしないと不安になる。
まずは自分充てにメールが来ていなか確認した後、大きな事件がなかったかチェック。
最後にハザーズの目撃情報を確認していく。
(またブリーディングウィードの目撃情報があったのか。デストラックスの目撃情報が減ったのと関係あるんだろうか?)
ブリーディングウィードの目撃情報が昨日だけで2件もあったのだ。
ハザーズにも縄張りがあるのか、一つのハザーズが弱体化すると、その隙をついて別のハザーズが進出してくる。
(デストラックスは短期間で二体ハザーズを失っているでも、ブリーディングウィードもこの間二体倒されているんだよな)
俺にとってハザーズは敵だ。でも、そんな俺でもハザーズに同情する事がある。
この間獺川さんが戦ったのは、ドクダミ型のハザーズだったらしい。
動くドクダミ……研究対象兼薬効に注目した獺川さんは部位ごとに切り分けて倒したらしい。
……そう切り刻むのではなく、切り分ける。文字通り生きたまま解体されたのだ。
背中に寒い物を感じながら、個人用のライソをチェック。
仕事を先にチェックするのは、義務感とかではない。単純に俺個人にくるライソが少ないからだ。
届いてたライソは三つ。
鷹空 “今日は勉強。頑張ろうね”
健也 “智美と鷹空と一緒に行くぞ……赤点回避しようぜ”
月山 “多分、健也達より先に着くから、一緒にジュースでも買いに行くぞ”
そう、今日はうちでテスト勉強をするのだ。鷹空さんが家に来てくれるなんて夢の様なシチュ
朝飯を食べて、片付け物をしていたら、インターフォンが鳴った。
「今、開けるから待ってろ」
最初にやって来たのは、月山。ライソで行った通り、集合時間から四十分位早い到着だ。
「ヒーローさんよ。もうちょっと物を増やす気はないのか?寂し過ぎて泣きそうになるぞ」
月山の言う通り、俺の部屋には物が少ない。別にミニマリストを気取っている訳じゃないぞ。
「週の半分は泊り仕事なんだぜ。鍛錬に行っている日も多いから、本気で寝るだけの部屋なんだよ。それとも何か?ぬいぐるみでも置けってか?」
訓練所の一階には、ヒーローグッズも売っている。当然、ぬいぐるみも売っているけど、全員顔見知りである。
「……ヒーローって、もう少し充実した生活を送っていると思っていたんだけどな。甲2級なら、ファンも多いだろ?彼女とか直ぐに出来るんじゃないのか?」
充実した生活?ある意味充実しているぞ。スケジュールびっちりだし。
「そんなの勝手な想像ですー。マスク脱いで素顔を見せたら、振られるってのは、ヒーローのあるあるなんだぞ。試しにコカトイエロー素顔予想で検索してみろ」
ありがたい事に俺にもファンはいる。学校の中では、ファン数なら断トツでトップだと思う。
でも、それはあくまでヒーローコカトイエローのファン。大酉吾郎の事を好きになってくれるとは限らないのだ。
「……いや、なんかごめん。これを妄想してお前が出てきたら、えらい空気になりそうだな」
月山が何度もスマホと俺を見比べる。そしていたたまれない空気に。
何故なら検索して出てくるのは、俺とはちっとも似ていないワイルド系イケメンや強面イケメン。中には正統派美少年もある。ファンの皆様、ごめんなさい。コカトイエローは正統派のモブです。
「それにファンと付き合っても上手くいかないんだよ。ファンが求めているのは、清く正しい正義の味方。そんな事言っていたら、大惨事になっちまう」
ファンと付き合うヒーローは少なくない。でも、大抵失敗する。
現実と理想のギャップもそうだけど、俺達の仕事はクリスマスも正月も関係なし。
恋人が側にいて欲しい時程、忙しかったりする。
中には彼女の浮気が発覚して問い詰めたら“貴方の告白、怖くて断れなかったんです”って嘘泣きされた人もいたのだ。
結果……悲しい話だけ、後輩の所に集まると。
「ヒーローも芸能人も大変だな。とりあえず飲み物買いに行くぞ」
どうなんだろう?護衛はするけど、芸能人ってあんまり関わった事ないんだよな。
◇
不思議だ。あれだけ寂しかった部屋が、一瞬で華やぐのだから。
「ここが吾郎の部屋かー。うん、綺麗にしているね」
そう、鷹空さん達が部屋に来てくれたのだ。鷹空さんと副郎さんは校内有数の美少女。基本男しか来た事がない俺部屋にはもったいないゲストなのだ。
「好きな所に座って。今、お茶を出すから」
テーブルを出して勉強を始める。がちて嬉しいけど気持ちを切り替えて、勉強に集中するんだ。
「月山、ここのとこなんだけど」
頑張って、どうしても分からない時、月山に頼る。お陰で大分自身がついてきた。
「智美、この計算どうすれば良いの?」
そして鷹空さんは副郎さんに聞いている。確か同じ中学だった筈。仲が良いのも頷ける。
「智美、ここどうすれば良いんだ?」
意外だったのは、健也。俺と同じで月山に聞くと思っていたら、副郎さんに質問していた。幼馴染みだけあり、妙に距離が近い感じがする。
(鷹空さんの反応は……無関心?)
「吾郎、どうしたの?僕に聞きたい所あるとか?僕、英語ちょー得意だよ」
チラ見し過ぎていたら、勘違いされたようだ。
「そ、それならここ教えてもらえるかな?さっき分からないで飛ばしたんだけど」
なんとか誤魔化す事が出来た。もしかして鷹空さんが健也の事を好きだって言うのは、ただの噂?
(でも、俺の事を好きなってくれる確率はとんでもなく低い訳で)
「この単語は、こう訳すのが正解。分かった?」
笑顔を浮かべた鷹空さんが確認してくる。今はこの小さい幸せを大事にしよう。
「ありがとう。もう昼だね。デリバリーでも頼む?」
東京って、色んなご飯をデリバリーで頼めるから便利だ。うちの田舎なんてピザ喰らいしかないのに。
「……いや、作るとしてもお前の家で食材じゃ無理だぞ。パスタも米もないって、普段何を食べているんだ」
健也君、ナイスつっこみ。苦情はバグズファイブに言って下さい。
「最近バイトが忙しくて買いに行けなかったんだよ」
重い物を持つのは苦にならないけど、家事をするのが苦手でついつい後回しに
動画見ても揃える物が多いし。
「今日はデリバリーで済ませるとして、一回買い物に行こう。吾郎の家も分かったし。ちゃんと僕が使いやすいやつ選んであげるから」
鷹空さん、優しいな。でも、あまり気を使わせるのはアウトだと思う。
◇
俺の名前は大酉吾郎。クラスではしがないモブだけど、実はヒーローなんだ……なんだけど。
「ブリーディングウィードの目撃情報おかしくないか?」
勉強が終わってサイトをチェックすると、ブリーディングウィードの目撃情報が6追加されていた。
テスト期間中は呼び出しがないけど、終わった後が怖いんですけど。
(ま、守さん達に任せて俺は勉強に集中しよう……マジで?)
守さんのスケジュールを確認にいったら、仲待小夜の護衛に変わっていたのだ。
守さんが動くって事は、ハザーズ絡みだと思う。芸能人はハザーズの標的される事が多い。
特に異性に人気がある芸能人が狙われる事が多いのだ。
ライソの音がしたので見てみると美樹本さんからだった。
美樹本“ショーで忙しくて、しばらく本部に行けないけど、赤点取ったら分かっているよな”
なんでも、美樹本さんは本業のモデルで大きいファッションショーに出るらしい。
(前に美樹本さんを狙ったハザーズがいたよな。飛んで火にいる夏の虫って、ああいう奴の事なんだろうな)
そいつは美樹本さんのモデル仲間を異空間に閉じ込めたらしい。そこまでは良かった。何を考えたのかそいつは美樹本さんが一人になった所でハザーズに変身して、襲おうとしたのだ。
当然激怒した美樹本さんは、そいつを足元からじわじわと凍らせた。
俺が駆けつけた時には、顔だけ残されて、足や腕を砕いている最中だったのだ。
背中も寒くなった事だし……本気で勉強しよう。
◇
同時刻、鷹空翼はご満悦であった。
(吾郎ったら、僕がいないと駄目なんだから……家も分かったし、ご飯でも作りに行ってやるか)
そう、翼は吾郎の家を特定する為に、勉強会に参加したのだ。さらに買い物の約束も取り付けた。ポーチャーは幹部が2体も倒され、活動停止中。
正に楽しむチャンスなのである。
背筋を寒くしている吾郎とは真逆にポカポカな翼であった。
感想、☆で頑張ります 文字数おおくないですか?最近は少ないのが流行らしく




