お花をもらいました
「十七歳のお誕生日、おめでとう。はい、これプレゼント」
そう言って親友のあっちゃんがリボンのついた紙袋をくれた。
「ありがとう! あっちゃん、開けてみてもいい」
「どうぞどうぞ」
許可を得て、袋をあけるとそこには――
「こ、これは!? 私の今の推しキャラのグッズ!」
なんと今の私の推しキャラのキーホルダーに、アクリルスタンドなどが入っていたではないか!
まだ全然グッズは持っていなくて、少しずつお金を貯めているところだったのに、まさかこんなにもらえるなんて! 嬉しすぎる!
「ふっふっふっ、結構、色んな店を探して集めたのよ」
あっちゃんが不敵な笑みを浮かべてそう言った。
「あっちゃん様! 本当にありがとう! 絶対に大事にするよ!」
私は飛び跳ねて喜びながら、お礼を言った。
「そこまで喜んでもらえて、こちらも店をまわったかいがあったわ」
あっちゃんが笑顔でそう言った。
「本当にありがとう」
私はもらったプレゼントをぎゅっと抱きしめた。
「これから帰って、家で誕生日のパーティーだっけ?」
「あっ、うん。お母さんが好物たくさん作ってくれるって、お父さんには新作のゲームをお願いしてあって、あとお兄ちゃんが会社帰りにケーキも買ってきてくれるって」
「ああ、一番上のお兄さん」
「そうそう」
「二番目のお兄さんは?」
「奴はきっとまた安い子どもの玩具をよこしてきて終わりだよ」
「ああ、そういえばそうだったね。去年は何もらったんだっけ?」
「100均のメンコだよ! 女子高生の妹へのプレゼントがメンコとか、信じられない。同じ100円なら花の一本でも買ってこいって言ってやったよ! 奴はあれじゃあ絶対にモテないよ」
私が鼻息荒くそういうとあっちゃんが口を開けて笑った。
「でも、お返しに同じようなのをお兄さん誕生日に返したって言ってなかった?」
「うん、100均の着せ替え人形をプレゼントした」
あっちゃんがお腹を抱えて笑い出した。
しばらくして笑いが落ち着いたあっちゃんと別れて家へと帰る。
ご馳走とゲームとケーキが待っているので、自然とスキップをしてしまう。
「ただいま~」
家について玄関からいい匂いのする台所へ向かうと、すでに私の好物が並んでいた。
「わぁ~、ご馳走、美味しそう」
思わず手を伸ばすと、お母さんにぴしゃりと、
「つまみ食い禁止、ちゃんと手を洗って着替えてきなさい。お父さんとお兄ちゃんたちも、もう少ししたら帰ってくるからそれまで待ってなさい」
そう言われてしまった。
「は~い」
ここでお母さんを怒らせてご馳走が食べられなくなってしまったら大変なので、素直に応じて手を洗い、制服から部屋着に着替える。
着替え終わって台所へ向かう途中で二番目の兄である奴が帰ってきた。
「おかえり」
そう言うと、
「おう、ほら」
と何かを押し付けてさっさと去って自分の部屋へ行ってしまった。
何を渡されたのか手元をみると、なんとビニールに包まれリボンでラッピングされた花だった!
「花! 今年はおもちゃじゃないの!」
驚きに声をあげると、お母さんが台所からひょこりと顔を出した。
「あら、素敵なプレゼントじゃない」
「いや、そうだけど、まさかこんなちゃんと花を買ってきてくれるなんて……去年はメンコだったんだよ!」
「それであんたが、女子高生にメンコはありえない花でも買ってこいって言って怒ったじゃない。だからでしょう」
「そうだけど……」
本当にちゃんと買ってきてくれるとは思っていなかった。
「それにその花も、ちゃんと考えて選んでくれたんじゃない。まさにあんたの花でしょう、それ」
お母さんがそう言ってにこにこした。
私は手に持った花を見つめた。
「おはようございます。カタリナ様、朝ですよ。起きてください」
そう声をかられ、目をあけるとそこは立派な家具がおかれた大きな部屋の中。
先ほどまでみていた夢のせいもあり、一瞬、自分がどこにいるのかわからなかった。
だけど、私のために支度を整えてくれているメイドのアンを見ているうちに頭が動いてくる。
ここは私、カタリナ・クラエスの自室だ。
そう私はもう―――ではないんだ。
「今日は朝から皆、はりきっていますよ」
アンがにこにことそう言った。
私が頭にはてなを浮かべるとアンが、
「忘れていられるのですか、今日はカタリナ様の九歳の誕生日ですよ」
そう教えてくれた。
そうだった。今日は私の九歳の誕生日だ。
八歳で前世の記憶を取り戻し、そして私は今日、九歳になるのだ。
記憶を思い出した直後はだいぶ混乱したけど、少しずつ今の世界になれてきている。
だけど、先ほどのような前世の夢をみるとまだ心がざわざわしてしまう。
前世の十七歳の誕生日、親友や家族にいっぱい祝われて、はじめて花をもらって。
あの花のお返しのプレゼント、結局できなかった。
「カタリナ様、どうされました?」
アンに心配そうに覗き込まれ、私は首を横に振る。
気持ちを切り替えよう。今の私はカタリナ・クラエスだ。
「ううん、なんでもない。少し寝ぼけただけ、よし、誕生日パーティーのために早く支度するわ」
「はい」
そうしてアンに手伝ってもらい支度を整えて、パーティーの準備ができたという知らせを受けて会場へ向かう。
今回のパーティー、お父様が盛大なものにしようと目論んでいたが、私の拒否とお母様の助言により、ごく身内だけのこじんまりとしたものになった。といってもそこはさすが公爵家、大きな一室が飾りつけられ、私が考えていたよりすごいパーティー会場になっていた。
使用人に家族、それから婚約者のジオルドもそろって笑顔で、
「お誕生日、おめでとうございます」
と私を迎えてくれた。
夢の影響で胸に残っていたモヤモヤも薄れていく。
「九歳おめでとう!カタリナ」
お父様がものすごい数のプレゼントを差し出してくる。
とりあえず一つ受け取り、お礼を言う。
「カタリナ、おめでとう。これを読んでしっかりしたレディになるべく頑張りなさい」
お母様がものすごい量のマナー本を差し出してくる。
受け取りたくなかったが、凄みのある眼差しで押し付けられる。
「カタリナ、おめでとうございます。これプレゼントです」
ジオルドがなんか高そうな箱を差し出してきた。
受け取って中を確認してみると、すごく高そうな宝石つきネックレスだったので、お気持ちだけいただきますとお返しした。
だけどしょんぼりして『どうしても何かプレゼントしたい』と言われたのでスイカの苗を頼んだ。
ジオルドは目を丸くした後、クスクスと笑って了解してくれた。
「義姉さん、お誕生日おめでとう、これプレゼント」
そう言ってキースが花束をくれた。
「これ……」
「これは早咲きのものなんだけど、夏に太陽に向かって咲く花なんだって、すごく義姉さんに合う気がしたから」
「ああ、この花、カタリナと初めて会った日、城の庭にも咲いていましたね。この明るい黄色、確かにカタリナに似合いますね」
ジオルドもそんな風に言った。
『その花も、ちゃんと選んでくれたんじゃない。まさにあんたの花でしょう、それ』
前世のお母さんの言葉が脳裏に蘇った。
「義姉さん、どうしたの?!」
「カタリナ、大丈夫ですか!?」
二人の慌てた様子にふと我に返ると、目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちていた。
「どこか痛いの?」
「何か、嫌なことがあったんですか?」
心配そうな二人に向かって私は首を横に振った。そして、
「ううん、花束が、この花が似合うって言われてすごく嬉しかったの。嬉し涙だから大丈夫」
そう言ってほほ笑んだ。
二人はほっとした顔をした。
私はもう―――ではなくて、カタリナになったけど、でもまたあの時と同じ花をもらえた。
そして似合うと言ってもらえた。
私は手にもっていたひまわりの花束をぐっと抱きしめた。
なんだか懐かしい香りが胸の奥を刺激した気がした。
拙作を『小説家になろう』様サイトに投稿させていただいてから、早いもので10年がたちました。そして書籍化、コミカライズ、アニメ、映画とたくさんの展開をさせていただきました。この作品がここまでこられたのも応援くださった皆様のお陰です。本当にありがとうございます!




