62.日常の終わり
学園の卒業パーティーを一週間前に控えた頃。
生徒会の仕事の引継ぎのために、ルキア、セヴラン、ロアンとグレイスは、生徒会室にて顔を合わせていた。
「君の評判は他の生徒達からも非常に高い。加えて生徒会での仕事ぶりは僕も良く知るところだ。これで僕達も、安心してここを去ることができるよ」
ルキアがそう言うと、セヴランも、
「一年次の最終成績も確認したが、あれだけ生徒会の仕事をこなしながらも成績を落さなかった君の努力と有能さは、これで証明された」
と、どこか誇らしげに頷く。
するとすかさずロアンも同意するようにうんうんと大きく首を縦に振る。
「さすがだなグレイス! 俺、お前がいてくれてよかった!」
「それは自分の仕事をグレイス嬢に振って楽ができたからだろう。やはり貴様の無能は、彼女がいようといまいと健在だったな」
「やっぱお前って、こんな時まで俺に嫌味言うのな」
「事実だ。しかしロアンが仕上げる代わりにグレイス嬢が報告書を作成してくれたのは、理に適っていた」
「俺だってグレイスのこと結構手伝ったんだぞ? 重いもん持ったり、誰かがちょっかいかけにいこうとしてたら追っ払ったり。グレイスって優しそうだから、荷物持つふりして近付こうとする連中が結構いたんだよなー」
「そういう意味では君が番犬代わりにグレイス嬢について回っていたのは良かったかな。僕とセヴランも、できるだけ傍にいるようにはしていたけどね」
「ああ。だが卒業した後、グレイス嬢は一人でその身を守る必要がある」
「何かあったら遠慮なく俺を呼んでくれよな! 俺が全部片づけてやるから」
「第一騎士団はそれほど暇なのか。それともそちらですぐに戦力外通告されるつもりか」
「ちゃんと結果残して、バリバリ騎士として活躍するから余計なお世話だよっ!」
「ふふっ、君たち二人は最後まで、仲がいいんだね」
「よくない」
「よくないぞっ!」
声をピッタリ揃えて同じ言葉を口にするセヴランとロアンに、ルキアがふっと目元を緩める。
三人は自分達のするべきことも終えたようで、これから卒業パーティーの日までは毎日学園に顔を出す、と伝えられていた。
しかし、ここでこうして全員が顔を合わせるのも最後になるだろう。
ぬるま湯の中で繰り広げられる会話に吐き気を感じながら、グレイスは乙女のように無垢で、清らかで、明るい笑顔を浮かべた。
◆
今のグレイスは、彼らから告げられたことに対しての返事を保留にしている状態である。
壊す順番は決まっている。
だが、その順番が大事だ。
そのために、まずグレイスが落とすのは――。
グレイスが一人、帰宅の途に就こうと廊下を進んでいると、彼女を呼ぶ声がした。
「グレイス、今から少しいいかな」
「も、勿論です!」
金銀の髪を揺らし、蕩けるような金の瞳で甘い視線を送る絶対的権力者、ルクシア王国の王太子。
全て、予定通りだ。
グレイスは表向きにはヒロインとして、内心は氷のように静かに微笑んだ。




