47.本物の『悪夢の再来』に向けて
三人の【悪夢の再来】イベントを終えたグレイスは、さすがに連日の疲れも相まって、その日は早めにベッドに横になる。
しかし燭台の火を消して真っ暗にしたにもかかわらず、眠気が訪れることはない。
――乙女ゲームのユーザーとしてこのイベントを見ていた時には、分からなかった。
ただ彼らと心を通わせ、甘くなっていく雰囲気を楽しんでいた。
けれど彼らがどういう扱いをアレクにしてきたかを、アレクから事細かに教えてもらい、三人の裏側を知ったグレイス。
そして乙女ゲームとして彼らを表側から攻略してきたグレイスだからこそ分かる。
攻略を進めていくうちに見えてくるのは、やはり初めと同じ。
三人は姿形が違えど、その本質は変わっていないということ。
ルキアは『理想の光』として。
セヴランは『正しさを図る物差し』として。
ロアンは『騎士の誇りを保たせる存在』として。
彼らは己の見たいグレイスのみを見て、グレイスの心そのものには、一度たりとも触れようとはしなかった。
その証拠に、アレクと似たような状況になり、グレイスが「大丈夫です」と言った時。
三人とも、グレイスの負担を引き受けることはなかった。
全員が、背負わせすぎているという根本から、目を逸らしている証拠だ。
結局彼らにとってアレクのことは、もう終わった話なのだ。
罪でも傷でもなく、ただ過ぎ去った作業の失敗のように。
それは、人間として扱われていたと言えるのだろうか。
同じように所詮グレイスも、ただアレクより壊れにくいというだけの違いで、彼らの自己満足を満たすだけの道具に過ぎない。
けれどアレクよりも強いと証明できたが故に、彼らのグレイスへの依存度は深まる。
そして――もうすぐ文化祭が始まる。
文化祭は三日間開催される。
その日一日誰と行動するかを選択することとなり、選んだ人物とずっと行動を共にする。
好感度を満たしていれば、その日の最後に上がる花火を見ながら、次の段階へと進むためのイベントが起こる。
好感度は既に十分溜まっている。
後はそのイベントの発生を待つだけ。
待つだけ、とはいっても、それ以外にもグレイスには生徒会の役員としてやるべきことがたくさんある。
けれどあの三人とは違い、他の生徒達はグレイスが困っていたら、積極的に手を差し伸べてくれる。
ルキア達の好感度を保つ意味でも、彼らの手助けを断ることも多いが、それでもグレイスを心配して手を貸す生徒は後を絶たない。
まさか他の生徒の存在がこれほどにグレイスの助けになるとは思ってもみなかった。
だからこそ、投げられる業務の多さにも耐え、何とかやれているのだ。
「……さすがに今夜くらいは、しっかりと眠って疲れを取っておかないと」
ここから学園祭終わりまでは、今以上に体力勝負になる。
いくらグレイスが頑丈だとはいっても、肝心な時に倒れてしまったら意味がない。
グレイスは毛布を被ると、目を瞑る。
気づけばグレイスはそのまま眠りについていた。
――その日見た夢は、孤児院でアレクと笑い合う光景で。
目覚めれば現実は冷たくても、せめて夢の中だけは幸せな気持ちで満たされたのだった。




