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1.春の光の中で



 新しい門出を祝うような、温かな日差しが降り注ぐ春。

 グレイスは王立学園の巨大な門の前に立っていた。


 青い空にそびえる、白亜の校舎。

 よく磨かれた石畳。

 豪奢な馬車から降りてくる、上等な服をまとった貴族の子弟たち。

 おしゃべりに花を咲かせながら歩く平民出身の生徒。

 

 ゲームで何度も見た背景。

 それが今、目の前に現実として広がっている。


 ――ようやく、ここまで来た。


 グレイスは深呼吸を一つして、門をくぐる。

 胸の奥では、誰も知らない炎が静かに燃えていた。


 入学式を終えた後、特待生として選ばれた数名の生徒は生徒会室へと案内された。

 生徒会長直々にお褒めの言葉をもらうようだ。


 これもゲーム通り。

 一年前、グレイスと同じく特待生として選ばれたアレクも経験したことだ。

 ヒロインのグレイスも、そしてアレクも、きっと期待に胸を膨らませていたことだろう。


 けれど舞台となる生徒会室は、今のグレイスにとっては、アレクが何度も徹夜した忌まわしき場所でしかない。


「失礼します」


 特待生達の先頭に立ち、コンコン、とノックをして扉を開けると、三人の生徒が視線を向けてきた。


 一人は、金と銀の混じった色合いの髪を持つ、圧倒的な存在感を持つ生徒。

 光をまとった黄金の瞳でグレイスを見つめ、明るく穏やかな微笑みを浮かべるその立ち姿はまさに、皆から慕われる王子としてふさわしいものだった。


「ようこそ、ルクシア王立学園へ。君が、特待生代表のグレイス嬢だね?」


 王立学園の生徒会長。

 この国の第一王子、ルキア・アウレリアン。


 一人は、綺麗に切り揃えられた黒紺色の髪の生徒。

 人間離れしたおそろしく整った顔立ちに感情の色は薄く、冷静な光を宿した灰色の瞳が、グレイスを上から下まで一度だけ値踏みするように眺める。


「書類はすべて事前に確認させてもらった。成績優秀、素行も問題なし。……期待している、グレイス嬢」


 生徒会副会長。

 宰相の息子、セヴラン・ヴァルデン。


 一人は、癖のある赤毛の大柄な生徒。

 人懐っこそうな琥珀色の瞳を見開き、朗らかな笑顔で気さくにグレイスへと歩み寄る。

 他人との垣根を作らない性格なのか、初対面にもかかわらずグレイスの肩をぽんと叩く


「へえ、お前が噂の特待生の子か! めっちゃ頭いいんだってな! 俺はロアン。よろしくな!」


 生徒会庶務。

 第一騎士団長の息子、ロアン・グラディス。


 彼らは、眉目秀麗で、それぞれに違う魅力を持っていて。

 多くのプレイヤーが恋に落ちた、物語の中心人物たち。


「ルノワール孤児院出身のグレイスです。お会いできて光栄です」


 グレイスは、【光の学園と救済の乙女】という、乙女ゲームのヒロインとして転生した。

 だが、この学園に来たのは、彼らを攻略するためではない。 


 色んな感情が込み上げてきたグレイスは、表情を悟られないよう、深く一礼する。


 目を瞑りながらグレイスは、アレクが手紙を携えて彼女の元へ駆けてきたあの日のことを思い出していた――。


 

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