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0.全てが終わる場所へ

ヒロインが、乙女ゲームのイベントをゲーム通りなぞりながら、復讐するお話です。


良ければどうぞ。




 グレイスの前で、三つの影がゆっくりと崩れていく。

 

 ――理想を作り出すはずだった王太子の光。


 ――未来を導くはずの知と理性。


 ――人を守る剣として生きるはずだった騎士の誇り。


 それらが、ひび割れ、軋みを上げながら、静かに崩壊していく。



 

「……どうして、こんな……」


 黄金の瞳は、まるで光を失った星の残骸のように曇り、完璧と呼ばれた王子の姿は、どこにも残っていない。


「僕は……光を手に入れるはずだったんだ。君が——君だけが、僕を理想の世界へ導いてくれる光で……」

「光?」

 

 グレイスは淡く微笑む。

 その微笑みには、優しさも、救いも存在しない。


「あなたは光なんて掴めません。だってあなたは『――――――』なんですから」


 その言葉が落ちた瞬間、彼は膝から崩れ落ちる。


 ようやくすべてを理解した顔。


 ――彼の瞳から、最後の光が消えた。



 

「……ありえない。私の判断が、誤るはずが……」


 床には、彼が積み重ねてきた書類の束が、雪のように散乱している。


 計算し尽くしたはずの人生を支えていた正しさが、灰になる。


「君が……君がいなければ、私は……」

「……では、認めますか? あなたが『――――――』だったと」


 その瞬間、彼は言葉を失う。


 彼の世界は完全に沈黙する。


 ――理性も、矜持も、彼自身を形作るすべてが音を失った。




「違う……違うんだ……俺は、守りたかっただけで……! アレクも、お前も……全部……っ」


 彼は必死になってそう叫ぶ。


 血が滲むほど握りしめた拳。


 誇りだった力は、いまや彼を縛りつける枷と化し、大きな体は小さく縮こまって震えている。


 グレイスは彼の前に静かにかがみ、囁くように告げた。


「だから言ったでしょう? あなたは『――――――』だって」


 その言葉に、彼の顔から血色が引いていく。


 崩れ落ちる音は、もう聞こえない。


 ――けれど、確かに彼の内側で何かが壊れた。



 

 三人が震える声で彼女の名を呼んでも、グレイスは振り返らなかった。


 彼らは壊れた。

 もう、元には戻らない。


 あの日、アレクが崩れ落ちた瞬間と同じ――いや、それ以上に深く、鋭く、残酷な形で。


 春の風が吹き抜ける。


 白、紫、黄色の花弁が舞った。


 ゲームのオープニングと同じ景色。


 ――だがその景色は、どこか歪んで見えた。


 グレイスにとって、ゲームが用意した救済など最初から必要なかった。


 彼女が選んだのは——救う物語ではなく、壊す物語。


 グレイスは薄紫の瞳を開き、三人の影を見下ろす。


 その瞬間、グレイスの影は三人の影よりも深く、長く、地面へと静かに伸びていった。




 そして世界は巻き戻る。


 ——物語の始まり。

 グレイスがまだヒロインとして、優しい笑顔を演じていた頃へ。



グレイスが三人に伝えた伏せ字の台詞は、復讐の最後に実際にグレイスが彼らに囁く言葉です。

読み終わったあとに、またこの序章を読んで、なんと言ったか予想していただければと。

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― 新着の感想 ―
じんわりと染み込んでいくグレイスちゃんの復讐を堪能させていただいておりましたが、ここで先出し絶望ファンサをいただけるとは!!ありがとうございます!! 3人の好感度が上がるたびに「破滅にまた近付いたぞぉ…
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