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11.佐渡島連続殺人事件

リーサ

「はーい、皆さま、お元気していますかー。才色兼備、羞月閉花、永遠の五歳のリーサでーす。いまリーサは『如月恭助ミステリーガイドブック』生放送中のスタジオにいるのですが、相方の『まゆゆ』こと古久根麻祐さまが、まあ、あろうことか……、まだスタジオにお姿を見せていないのです。

 ちょっとー。ディレクターさーん。生放送始まっちゃってるんですけどー。はてはて、これは困りましたねえ……。

 あっ、ただいまスタジオにご到着されたみたいです。

 ちょっと、ちょっと、麻祐さまあ。お寝坊でもされたのですかー。あれれ?」


まやぴ

「こんにちは……」


 ト書き: 黒髪ロングのうら若き女性あらわる。


リーサ

「あらまあ、これは……。リーサに負けず劣らずの美少女さんじゃないですか……」


まやぴ

「初めまして。西野摩耶と申します」


リーサ

「ほーほっほ。いまは生放送番組の真っただ中ですのよー。ド素人さんのスタジオ侵入は、禁止されています。とっとと、お帰りくださいませー」


まやぴ

「あの……、その番組のコメンテイターの古久根麻祐さんですけど、やむを得ない私的事情で、本日はスタジオに顔を出すことができないとのことでして、私が代役として番組を補佐するよう指示され、こちらへ参りました」


リーサ

「なんですってー。仮にも、如月恭助シリーズの第11弾『佐渡島連続殺人事件』が完成した記念すべき放送ですよー。最近の作者は、筆を取るのも前にも増して億劫になってしまい、前回の作品が完成してからすでに一年以上の長き歳月が経過しているのです。

 そのせいで、ごらんなさい。『如月恭助ミステリーガイドブック』のなろうHPの筆頭に、『この連載作品は未完結のまま約1年以上の間、更新されていません。今後、次話投稿されない可能性が極めて高いです。予めご了承下さい。』という、屈辱的メッセージが記載されてしまっているじゃないですか。

 そもそも、スタジオに顔を出せない私的事情って、いったいなんなんですか」


まやぴ

「それが、麻祐さんはご懐妊をされているらしいのです。現在妊娠七か月で、スタジオになんか顔出せるかー、って、居合わせたスタッフが一喝されたみたいですね」


リーサ

「ちょっと待ってください。また、妊娠されたのですかー。

 あらまあ、ご主人の忠一郎巡査部長(※ 弓削忠一郎巡査は、昨年の四月にめでたく巡査部長にご昇進されました)と結婚されてから、まだわずか三年しか経過していないにもかかわらず、まさかの三人目ですか。

 たしか、最初のお子さんは、出来ちゃった婚であることが、日数的にも証明されているはず。それに、忠一郎さんといえば、真面目一筋、一辺倒。麻祐さまとご結婚なさるまでは、まごうことなく、童貞三十年越えの達成者。たとえ警察官を首になっても、かわりに魔法使いになれる素質を有したレアな逸材――。その忠一郎さんを、ここまで子作りの鬼に豹変させた麻祐さまの底知れぬ魔性たるや、今さらながら、脱帽せざるを得ませんねえ」


まやぴ

「詳しい事情は、私には分かりませんが、くれぐれもリーサさんの足を引っ張らぬよう配慮しますので、番組を続けましょう」


リーサ

「うーむ。常に高いレベルを維持し続けてきたリーサとまゆゆのゴールデンコンビですが、とにかく生放送中ということで、ここは致し方ありませんね。

 それでは、西野さんとやら。さっそくですが、リーサの臨時相方をよろしくお願いします。ところで、西野さんとお呼びするのも味気ないですねえ。あなた、お名前はなんとおっしゃいますの」


まやぴ

「摩耶です」


リーサ

「まやさん……。では、『まやや』とお呼びしましょう。

 いえいえ。それでは、古久根麻祐さま、いえ、もとい、弓削麻祐さまの『まゆゆ』という愛称と、完全にかぶっちゃっていますね。さあ、どうしましょうか……」


まやぴ

「呼び名など、なんでもかまいませんけど……」


リーサ

「あらまあ、なかなか挑発に、いえ、おだてに乗って来られないお方ですこと」


まやぴ

「私、冗談とか、そういう類が嫌いですから」


リーサ

「そうだ。『まやぷう』なんてどうでしょう。なかなかかわいらしい呼び名じゃないですか」


まやぴ

「絶対にだめーーぇぇぇ。

 はあはあ……。いったいどうして、そんな呼び名になるんですか」


リーサ

「あらら。はじめて感情をあらわに……」


まやぴ

「『まやぴょん』とか、『まやぴい』ならまだしも。『まやぷう』なんて、あり得ません」


リーサ

「どれも似たり寄ったりとは思いますが、時間もありませんし。

 そうだ。あなたの愛称は、『まやぴ』としましょう」


まやぴ

「異論はありません」


リーサ

「それでは、まやぴさん。さっそくですが、今回の新作『佐渡島連続殺人事件』 について、何かコメントをお願いします」


まやぴ

「本作ですが、前作の『七首村連続殺人事件』に拮抗する大作を書き上げたい、との作者の決死の覚悟から執筆されました」


リーサ

「『七首村連続殺人事件』といえば、内容の充実度といい、ボリュームといい、謎解きの難易度といい、愛らしきリーサが初登場した記念すべき作品といい、なにからなにまで非の打ちどころのない名作なんですけども(※ あくまでも、作者が執筆した作品の中で、です)、よもや、それに太刀打ちできる作品を創ろうなどと、あらまあ、神をも恐れぬたいした野望ですこと……」


まやぴ

「なんでも作者は、佐渡島に親戚がいたらしく、島内に多少の知識があるみたいですね。ですから、佐渡島を舞台にしてミステリーを書いてみたいという願望は、前々から抱いていたらしいです」


リーサ

「とはいっても、『七首村連続殺人事件』に対抗するには、謎解きであっといわせる大トリックを用意しなければなりませんね。果たして、本作でその辺はどうだったのですか」


まやぴ

「それが浮かばなかったから、これまで踏み出せなかったわけですが、今回作者は、佐渡島の四端にランドマーク的な灯台があることに気付き、それを使ったトリックがパッと思い浮かび、ついに本作の執筆を決意したということです」


リーサ

「ほうほう。四つの灯台が謎解きの鍵を握ると……。して、そのトリックとは?」


まやぴ

「番組内ではこれ以上のコメントはできません。詳しくは、作品でお楽しみください」


リーサ

「あらまあ、初心者のくせに、なかなか落ち着いた応対ですわね。

 ところで、佐渡島といえば、島ミステリ―の名作、横溝正史の『獄門島』が思い浮かびますが、本作もそんな感じのクローズドサークルミステリーでしょうか」


まやぴ

「獄門島をお手本にしたい気持ちは山々だったそうですけど、佐渡島という島は、日本で第二の面積を誇る離島でして、人口が五万人ほどいます。それだけ多くの人がいると、さすがに、クローズドサークルという印象は受けません」


リーサ

「獄門島なら、島民の中に犯人がいるぞー、さあ大変!、となりますが、佐渡島では島民の中に犯人はいるけど、その全員に訊き込みをすることは事実上不可能ですから、たしかに、街で起こったミステリーと、さほどの違いはありませんね」


まやぴ

「でも、島独特の風習や雰囲気というものはあります。獄門島のように不気味な閉鎖社会を描写してもらいたいですね」


リーサ

「本作においてその辺はうまく行ったのでしょうか」


まやぴ

「ミステリーの舞台設定の基本技の一つに、『過去に起こった忌まわしき事件』という手法があります。

 本作ではそれが、かつての小学校で起こったとある出来事、という設定で話が進みます。そして、川茂小学校というかつて実在した小学校が、その舞台に選ばれました。もちろん、作品内で書かれてあることはすべてフィクションです」


リーサ

「小学校の思い出といえば、誰だってノスタルジックにひたれますからねえ」


まやぴ

「小学生目線で物語を描写していきたいと、作者はなにかと気を配ったそうです」


リーサ

「そういえば、佐渡の伝統芸能を匂わせる『鬼の面』も、謎解きにおける重要アイテムとなっていますね」


まやぴ

「ただ作者は、書き始めた当初、『鬼の面』は思い付いていなかったらしいです」


リーサ

「ええっ。じゃあ、どんな構想で20万字を超える本作を書き始めたのですか」


まやぴ

「どうやら、あまり細かいことまでは考えていなかったようです。四つの灯台を利用した謎解きにすることくらいで、見切り発車したらしく、書いている途中で、佐渡の伝統芸能である鬼太鼓の記事を見ていた時に、犯人が鬼の面をかぶって向こうから走って来たら、さぞかし怖いじゃん、って閃いたそうです」


リーサ

「相変わらずの行き当たりばったりですねえ」


まやぴ

「第二の殺人でもっとも怪しい容疑者とされた若林航太が、犯行時刻に対岸のホテルで宿泊をしていたという鉄壁のアリバイが、事件の鍵を握っていますが、そのホテルをラブホテルにするというプチアイディアも、執筆中に突如浮かんだそうです」


リーサ

「そうそう、あの鉄壁のアリバイですよねえ。もしも、それが崩せれば、事件も早期解決をしていたことでしょうに」


まやぴ

「その鉄壁のアリバイですが、私、崩せましたよ」


リーサ

「ええっ。佐渡島の沢崎鼻灯台での犯行を、その時刻に対岸の新潟市にいた若林航太が、どんな手段で行えたというのですか?」


まやぴ

「ここでは明かしませんが、このアリバイは決して鉄壁ではありません。若林航太は物理的に第二の犯行を実行できました」


リーサ

「恭助さんが気付かなかった答えを、ド素人の、いえ、アシスタントのあなたが見つけたと。それでは、主人公の恭助さんの立場がなくなってしまいますねえ」


まやぴ

「だと思います。今回の事件の解決がここまで長引いたのは、単なる『虫除けくん』のていたらくに過ぎません」


リーサ

「あらまあ、お厳しい。まるであなたがこの場にいらっしゃれば、さも事件はもっとスムーズに解決していた、とでもいいたげな、強気のご発言ですわ」


まやぴ

「私もいちおう別の作品で探偵役をまかされておりますので……」


リーサ

「『紅茶喫茶店のペルセフォネ―』ですね。でも、たしかあの作品は連載が終了したと伺っておりますが……」


まやぴ

「そうなんです。一話完結の短編を集めた連載でしたけど、この前のエピソードを書き終えた直後に、作者がうっかり、『連載を終了しますか』の質問に、イエスとクリックをしてしまったみたいで、それで作品が完結してしまったのです……」


リーサ

「あららら。それであなたは仕事を失ってしまい、現在は食いっぱぐれ状態ということですね」


まやぴ

「否定はしません」


リーサ

「でしたら、あらたに『ペルセフォネ―2』を、作者が手掛ければ良いのではありませんか」


まやぴ

「いうのは簡単ですが、前作のクオリティを維持する自信がない、との理由で、作者は私の第2弾シリーズの執筆をいまのところ考えていないとのことです」


リーサ

「あらまあ。あなたとしては唯一無二であった、まるでお釈迦様が垂らしてくれた蜘蛛の糸のごときレギュラー番組を、無念の降板させられてしまった、というわけですね」


まやぴ

「そこまで大げさに表現されることでもありませんけど」


リーサ

「いえいえ、ご謙遜を……。

 それで現在、天下無双のプー太郎であらせられるあなたは、藁にもすがるお気持ちで、このゴールデンタイムの人気沸騰番組の華のレギュラーコメンテイターの座を、まゆゆさまがご体調を崩されたこの千載一遇のチャンスを機に、乗っ取ってしまおうという、窮鼠猫を噛むのごとき大それた意気込みで、今この場に居らっしゃるということですね」


まやぴ

「違います。私がここへうかがったのは、番組ディレクターからの緊急要請に、渋々ながらも従ったまでのことです」


リーサ

「なるほどー。だから先ほど、プー太郎であらせられるあなたは、ご自分の愛称に『ぷう』の文字が入ることを、極度に嫌ったというわけですね」


まやぴ

「違います」


リーサ

「ほーほっほ。まあいじりもこの辺にしておいて、本題へ戻しましょう。

 本作の売りはなんでしょうか」


まやぴ

「『七首村連続殺人事件』を彷彿させる個性的な登場人物たちが繰り広げる壮大な謎解きと、『ヘイケボタルが飛び交う里』にも負けないくらいの数多くの伏線を仕込んだ、作者の現時点での集大成ともいうべき大作に仕上がっています。あくまでも、作者の主観に従ったコメントであることを、あえてここでお断りさせていただきますが……」


リーサ

「まあ、大層な自信ですこと。それに関する何かエピソードはありませんか」


まやぴ

「作者は執筆中にも、思い付いた伏線を片っ端から書き込んでいったみたいですが、いざ解決編を手掛けようと思ったら、伏線のあまりの多さに、そのすべてを解決編に論理的に記すことが不可能であると悟り、せっかく仕込んだにもかかわらず、解説されずに知らんぷりをされている伏線もあまた存在するとか……」


リーサ

「相変わらずの無計画、能天気、見切り発車の作者ですねえ。その中の一つが、あなたが先ほど指摘した、第二の殺人における若林航太のアリバイ崩しということですね」


まやぴ

「若林航太のアリバイ崩しについての説明に力を入れると、肝心の真相の説明がぼやけてしまうから、苦渋の決断で、省略されてしまったそうですね」


リーサ

「まあ、たしかに解決編では、複雑に絡み付いたかなり多くの謎が解かれていますからね」


まやぴ

「それに、読者への挑戦状と掲げておきながら、最後の解決編では、いくつかの別解を論理的に否定しきれずに、『犯人の自供』という応急処置で、作者が用意した真相に強引に行き着くよう誘導されています」


リーサ

「その手法は、結構多くのミステリーで使用されている常套テクニックですので、もはや責めるつもりはありませんが、やはり多数の容疑者たちが入り混じる中で、探偵が唯一無二の真相を解明するというのが、理想的ですよね。作者にはもっと執筆力を付けてもらいたいものです」


まやぴ

「今回は『リアルタイム正解者募集』の応募数も極端に少なかったことをかんがみますと、かなりの難問だったみたいですね」


リーサ

「誰からも読んでもらえなかったということですか」


まやぴ

「そうではないと思います。アクセス数を見る限り、たくさんの方々に読んでいただけたことは間違いありません。どうもありがとうございました。作者に代わって、お礼申し上げます」


 ト書き: まやぴ、ぺこりと頭を下げる。

      長い黒髪がさらりと彼女の小顔を覆い隠す。


リーサ

「ところで、まやぴさん。私生活では、恭助さんとお知り合いなのですか」


まやぴ

「私は彼のことを『虫除けくん』と呼んでいます。以前、大学で講義を受けている最中に、気が付いたらとなりに座っていて、のこのこと私に話しかけてきたことがありまして、会ったのはその時だけです」


リーサ

「そういえば、『人狼ゲーム殺人事件』の時に、お二人は共演なさったらしいですね」


まやぴ

「『人狼』という言葉は、私の前では禁句です。あの事件は私にとって、思い出したくない出来事でした……」


リーサ

「あらまあ。たしか、人狼館で繰り広げられたあの猟奇的な事件では、あなたも恭助さんに負けず劣らず、名推理をご披露されたとか……」


まやぴ

「やめてください。人狼館のことは二度と思い出したくありません」


リーサ

「美人に、やめてください、などといわれると、増々いじりたくなってしまいますわね、

 人狼館で、たしかあなたは……」


まやぴ

「わーあー。聞こえな―い」


 ト書き: まやぴ、両耳を手で押さえている。


リーサ

「ほーほっほ。冷静なようで、意外と性格の分かりやすいお嬢さまですこと」


まやぴ

「からかうのはやめてください。

 ということで、屈指の超大作『佐渡島連続殺人事件』を、心ゆくまで、どうぞお楽しみください」


リーサ

「かの名作『人狼ゲーム殺人事件』にも負けず劣らぬ謎解きが面白い作品ですよ。

 ですよねえ、かつて人狼館にいらしたまやぴさーん」


まやぴ

「わーあー。聞こえなーい。

 ちょっとー、ディレクターさーん。これって明らかなコミュニケ―ションハラスメントですよー。

 なんとかしてください。番組の進行が滞ってもいいのですかー」


リーサ

「ふふふっ。いくらわめいても無駄です。あなたに逃げ場はありません。

 まやぴさまは、もしかして、お気づきになられなかったのですか。実は、当番組のディレクターですが、なんと、彼も人狼館の生き残りの一人なのですよ……」


まやぴ

「ふぇっ。どっ、どういうことですか……」


ト書き: まやぴ、顔が蒼ざめる。


リーサ

「彼は番組のことなど二の次なのです。彼の目的は唯一つ。それはあなたです。そして、リーサは、ディレクターの指示に忠実に従って発言をするだけの単なるマリオネットに過ぎません。

 さらに付け加えれば、ディレクターはあなたの熱烈なる大ファンです。彼があなたを番組に抜擢した理由は、あなたが困っているお顔をただ傍観したいという、サディスティック的かつエゴイスティックな欲望のためだったのです」


まやぴ

「……」


リーサ

「ディレクターの名前は、川本かわもと誠二せいじ――。

 ほーほっほ……。この名前は、一度はお耳にされたことありますわよねえ。

 おや、まやぴさん……。どうかなされましたか?」


 ト書き: ただ今画像が乱れ、ご迷惑をおかけいたします。今しばらくお待ちください。


リーサ

「相方のまやぴさまが失神されてしまいましたので、本日はここまでとさせていただきます。

 『佐渡島連続殺人事件』、まだお読みになられていない方は、ぜひご一読を……。

 こらー、ディレクター。まやぴさんのお身体に手を触れちゃ、だめえー」

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