10.黄金のアリバイ
リーサ
「みなさまから愛され続けた如月恭助シリーズですが……、このたび記念すべき第10弾の新作ミステリ―が、ついに公開されることとなりました~」
まゆゆ
「ほうほう、長き年月を重ね続けて、シリーズもいよいよ10作目となったわけですね」
リーサ
「やんや、やんや。第10回、ばんざーい。どっとはらい……」
まゆゆ
「ちょっと待ってください。勝手に話を終わらせないでくださいよ。
それに、私たちの使命は、その第10弾の新作の内容をみなさまに知っていただくための解説ではないのですか」
リーサ
「その通りです。ところで、まゆゆさま。如月恭助シリーズにおいて、リーサとまゆゆといえば、スペシャル脇役の双璧を担う貴重キャラクターであることに疑念の余地はありませんが、果たしてどちらがシリーズにとってより欠かせない存在なんでしょうかねえ」
まゆゆ
「またその話ですか? あたしは別にこの件に関してあなたと張り合う意欲は、これまでの無益な戦いを繰り広げるうちに、もはや完膚なきまでに消え失せましたから、どうぞなんなりと、あなたが勝ちということで、一向にかまいませんよ」
リーサ
「あらら、二児の母になってからというもの、まゆゆさまったら、精神年齢がご向上、いえ、いぶし銀化されましたことで……、ちっとも面白くございませんわねえ」
まゆゆ
「実際、第4作目の『小倉百人一首殺人事件』と、第8作目の『ヘイケボタルが飛び交う里』の2作にしか登場していないあたしなんか、単なる雑魚キャラに過ぎませんからねえ。
あーら。でも、もしかしてリーサさん……。あなただって、第6作目の『七首村連続殺人事件』と7作目の『人狼ゲーム殺人事件』の2作しか登場されていない、所詮は雑魚キャラじゃあなかったのかしらん?」
リーサ
「ほーほっほ……、まゆゆさま。あいかわらず詰めがお甘いこと。
リーサは『ヘイケボタルの飛び交う里』にも登場していますから、3作に登場しているスーパーヒロインなのですよ」
まゆゆ
「しまった……、どうやらみずからの墓穴を掘ってしまったみたいです。
そういえば、ヘイケボタルが飛び交う里では、私は主役として終始活躍し続けましたけど、口パク演技しかしないあなたが、ごく一瞬だけ、そうそう、『村人その一』みたいな場つなぎ的役割をしていたような気がします」
リーサ
「考えてみれば、10回に及ぶ如月恭助シリーズに複数回登場している人物は、まゆゆさまの2回、リーサとりんざぶろうさん、それに瑠璃垣青葉さまの3回、さらには、如月惣次郎警部の4回と続きます」
まゆゆ
「川本誠二なる人物が、『白雪邸殺人事件』と『人狼ゲーム殺人事件』の2作品に登場していることに気が付かれたあなたは、もはや如月恭助シリーズのS級マニアに認定いたします」
リーサ
「残念ながら、その2作品に登場した川本誠二なる人物、とても同一人物であるとは思えませんから、却下ですね。
そして最後に主役の如月恭助くんですけど、さすがに主役というだけあって、10回に及ぶシリーズ作品の中で断トツの9回出場となっています」
まゆゆ
「あれれ、ちょっと待ってください。第10弾が公開された如月恭助シリーズなのに、どうして、恭助さんの出場回数が9回なのですか?」
リーサ
「その通りです。いいところに気付かれましたね。
なぜかといえば……、じゃーん、記念すべき第10作目となった本作『黄金のアリバイ』では、恭助くんは、なんとなんと、いっさい登場しないのですう!」
まゆゆ
「ひぇー。それじゃあ如月恭助シリーズになっていないではないですか」
リーサ
「いえいえ、本作では恭助くんの代わりに、日ごろからたよりにされている父親たる、如月惣次郎警部が登場して、事件を見事に解決するんですよ」
まゆゆ
「いったいぜんたい、恭助さんは何をやっているんですか?」
リーサ
「想像するに、解決編で展開される惣次郎警部の鋭い推理は、部分的に恭助くんが事前に提供したものではなかったかと推測されますが、果たして真相はいかに?」
まゆゆ
「話を本作に戻しましょう。
なんですか、タイトルの『黄金のアリバイ』って。
鉄壁のアリバイ、ならまだしも、黄金のアリバイ、なんて、もはやダサいを飛び越して、陳腐この上なし状態、じゃないですか」
リーサ
「作者の言い分では、シリーズ第1作の『白銀の密室』のタイトルと語呂を合わせたそうです。まあ、大目に見てやってください。
ところで今回の『黄金のアリバイ」ですが、作者がこれまでの作品で、これでもかというくらいしつこく守ってきたある特徴が、ものの見事に崩れています。なんだか分かりますか」
まゆゆ
「作者が常に作中でこだわっている、とある特徴ですか。はて、なんでしょう」
リーサ
「それはですねえ。作者は作品の中にいつも絶世の美人ないしは美少女を登場させてきたのですが、『黄金のアリバイ』では美人が登場しないのです」
まゆゆ
「登場人物で女性といえば、被害者の奥さんしかいませんからねえ。だったら、奥さんを絶世の美女に仕立てて書いちゃえば良かったんじゃないですか」
リーサ
「その手もあったのですが、奥さんを美女にすることが本作のストーリーにおいて必然性が何もなかったので、作者は泣く泣く、今回は美女を出さない作品に仕上げたということらしいです」
まゆゆ
「作者が美女を出さなかった作品が、かつてあったのですか」
リーサ
「なろうサイトで公開している作品の中では、『ツキに見放された日』という短編の一つだけがありました。本作は2作目ということで、かなり稀有な作品ということです。
そして、この事実を知ったあなたは、もはや如月恭助シリーズのA級マニアに昇格したといっても過言ではないでしょう」
まゆゆ
「そういわれてみると、たしかに『小倉百人一首殺人事件』と『ヘイケボタルが飛び交う里』では、美少女で名女優の古久根まゆゆさんが登場していましたね。なるほど、納得です」
リーサ
「その2作品にはたしか、瑠璃垣青葉さんも登場されていたような気がしますが、まあそのつっこみは止めておきましょう……」
まゆゆ
「では、本作の中身の議論にうつしましょう。黄金のアリバイというからには、犯人のアリバイ崩しが主眼となりそうです」
リーサ
「その通りです。本作は、第3作目の『宗谷本線秘境駅殺人事件』のように、犯人がはっきりしている記述下で、アリバイ崩しが進行する、倒叙ミステリーです。
そして、今回の真犯人は、一人称の語り手が、みずから自分が犯人であると宣言します。物語は、語り手と如月惣次郎警部の二人だけの対話形式で進行するのです」
まゆゆ
「惣次郎警部の犯人をさりげなく追い詰めるしたたかさが印象的ですね」
リーサ
「されど、犯人も狡猾極まりない知能犯ですから、ちっとも負けていませんよ」
まゆゆ
「まさに、ガチンコ対決でまったく目が離せませんが、今回の犯人の黄金のアリバイとやらを崩さなければ、犯人逮捕には結び付けられないとのこと。いったい、どんなアリバイなんですか」
リーサ
「それでは本作の犯人が用意した黄金のアリバイがいかなるものなのか、要点を簡潔にまとめてみましょう。
まず、犯人は午前十時五〇分まで、新潟市で開かれた学会で公演をしていました。
一方で、愛知県の一宮市でとある豪邸が火災となり、鎮火された建物の中から被害者の遺体が発見されます。時刻は午後六時前でした。
午後三時三五分に火災現場へ駆けつけた消防隊員の証言によると、火の燃え広がり具合から判断して、火災が生じたのは午後三時一〇分よりは前でなければならないとのことでした。
以上のことから、被害者を殺害した犯人は、少なくとも三時には現場の一宮市にいなければならなかったことになりますが、議論が進んでいくと、新潟市に午前十一時にいた人物が、常識的に考えられる移動手段、新幹線、車、飛行機のいずれでも、午後三時に現場へ到着することは無理ではないか、との結論に達してしまいます」
まゆゆ
「なるほど。しかし実際に犯行は成し遂げられたのですから、犯人はなんらかのウルトラC的トリックを用いたことになりますね。さあさあ、そいつをあばき出せ、ということですね」
リーサ
「まさにその通りです。本作も、従来の如月シリーズで伝統的に行われてきた『読者への挑戦状』がたたきつけられています。
ではここで、謎解きでお困りの、熱心な読者の皆さまに、スペシャルサービス――。ちょっとだけヒントを出しちゃいましょう!」
まゆゆ
「えー、それはダメです。私たちの役割はあくまでも解説に限定されていて、推理のヒントを出す権限はありませんから」
リーサ
「まあまあ、お固いことをいわず。ちょこっとだけですから。
それでは、リーサのあなただけに教える『黄金のアリバイ』の謎解きヒントー。
今回の犯人が用いたアリバイトリックですが、実は、前作『平山明神山殺人事件』で登場した犯人が用いたアリバイトリックと、本質的には同じで、やっていることは真逆、のトリックだったとのことです」
まゆゆ
「なんですか。前作のトリックと、本質的には同じで、やっていることは真逆、のアリバイトリックって。さっぱり分かりません……」
リーサ
「ということで、謎解きに行き詰まっている読者のみなさまは、第9作目の『平山明神山殺人事件』をもう一度読み返して、犯人が用いたアリバイトリックを確認してみてください。それが、第10作目の『黄金のアリバイ』のヒントにもなるのです」
まゆゆ
「ただでさえ、難易度★二つの作品なのに、破格のプラチナ情報を提供してしまうとは……。私生活ではケチで有名な作者がしたとはとうてい思えない大盤振る舞いですね。して、その魂胆は……」
リーサ
「ついでに第9作目も再度読者に読んでもらえないかと……?」
まゆゆ
「やはり、せこいだけの魂胆でした。期待した私がばかでした……」
リーサ
「それでは、記念すべき第10弾となった『黄金のアリバイ』。
純然たる本格謎解きに特化した、読みやすくてパンチの効いた短編作品となっておりますから、ぜひご一読を……」




