99話 みちる、買い物帰り
9月のある日、僕とこうちゃんは秋葉原でデートしてきた。
その日の帰り道。
夕方。
『世間ではクリスマスですがいかがおすごしでしょうか。こうちゃんはお家に引きこもってお仕事してるでしょう』
こうちゃんがロシア語でよくわからないことを言う。
あんまり意味は無いと思う。
『こうちゃんクリスマスって苦手なんですよね。外で歩くと周りカップルばっかで肩身が狭いし、かといって一人で家で作業なりSNSしてると、なんだ独り身なんだって思われるのが嫌でね~。ね、そう思いません?』
「こうちゃん、どこ見て何言ってるの?」
とそんな風に歩いていたそのときだ。
「みちる姉さん……だ」
正面を小柄な影が歩いていた。
「みちるー!」
「勇太……とおチビ」
僕と目が合うと、みちるはうれしそうに笑う。
だがこうちゃんを見た途端、なんだか嫌そうな顔をした。
「おデートかしら?」
ぴきぴき、と額に血管を浮かばせながら、みちるが笑顔で尋ねてくる。
「うんっ、そうだよ。ねー、こうちゃん」
「へぇ~~~~~~~~~~~~~~~」
『ひぅ……! こわっ! かみにーさま鈍感すぎぃ! そこにジェイソンも真っ青なモンスターがいますよぉ! 気づいて気づいて!』
こうちゃんがブルブル震えてる。なんでだろ?
「そりゃあ仲がよろしいことですね!」
「うん! 僕らは仲良しだよ、ねーこうちゃん?」
『確かに仲良しだけど、うんとうなずいたらタマとられそうだからうなずかないでおくね!』
こうちゃんがさっ、と僕の後ろに隠れた。
シャイだからかな。
「ふんだっ! まあいいわ。確か仕事の帰りだったんでしょ?」
「うん。こうちゃんと組んで新しい仕事」
僕とみちるは歩き出す。
僕らは全員で同じ家に住んでいるんだ。
みちるはどうやら買い物の帰りらしい。
両手に荷物をいっぱいにして持っている。
僕は重いだろうと思って、片方もってあげる。
う……結構重いな。
そう思っていたら、みちるが袋の持ち手を、片側だけ持ってくれた。
「ありがと、勇太」
「こちらこそ、みちる」
僕らは二人で、一つの大きな買い物袋を持っている。
『すげえ……新婚カップルみたい……さすがヒロイン……はっ! こうちゃんもヒロインですよね!? ねえ!?』
こうちゃんがロシア語で何かを主張してくる。
多分あんまり意味は無い。
『おいおいロシア語理解できないからってスルーしてると、大変な目にあうぜえ。たまにロシア語でボソッとでれるかもしれへんやん? なぁ?』
「おチビ。うるさい」
「のぉ~……」
しゅん、とこうちゃんがうなだれる。
「でも新しい仕事なんて……大丈夫なの?」
「かみにーさま、大丈夫なの?」
「あんたに言ってるのよ、おチビに」
ふぁ……? とこうちゃんが首をかしげる。
「ただでさえいつも締め切りギリギリなのに、3本もやるって大丈夫なの?」
『ふははは! 問題なしおくんですお! 大丈夫大丈夫締め切りなんてふふふふーんだ』
多分任せろ的なこと言ってるんだろうけど、なぜだろう、全然安心できない……。
「仕事数減らした方が良いんじゃない? 心配よ、あんたも……おチビのことも」
みちるが体を心配してくれる。
うれしいなぁ……。
「僕は大丈夫」
「そんなにお金欲しいの?」
「違うよ。仕事増やすのはみちるに読んで欲しいからさ」
僕は昔から、みちるのために小説を書いていた。
一番のファンなのだ。
「みちるにたくさん、色んなお話を読んでもらいたいんだ」
「……ばか。それで倒れちゃったら、元も子もないでしょ」
ぷいっ、とみちるがそっぽを向く。
耳の先が真っ赤に染まっていた。
「大丈夫。体は意外と丈夫なんで。それに今は、お嫁さんが体調管理してくれるから、毎日健康だよ、なんて」
「ばっ……! ばかぁ~……♡ もう、だ、誰がお嫁さんよ……まったく……まったくもぉ~……♡」
みちるが照れたようにふにゃふにゃと笑う。
「笑った姿もかわいいなぁ」
「ば、ば、ばかぁ! もうっ! 外でそんなへ、変なこと言わないでよねっ!」
「じゃあ家の中ならいいの?」
「そ、それはぁ~……………………うん」
ふふっ、やっぱりみちるは可愛いなぁ。
「…………」
こうちゃんがみちるをじーっと見ている。
「な、なによ?」
『これがメス顔か。ヒロインはこういう表情しなきゃいかんのか……こうちゃんもちゃんとヒロインアピールしとかんと、読者の人がヒロインって認識してもらえなくなるからな』
こうちゃんがふんっ、とそっぽを向く。
「ば、ばかーもうへんなこといわないでよねー」
「……おチビ、それは、誰のまねかしら~?」
「ひぃ……! こわぁい!」
だっ! とこうちゃんが逃げていく。
「勇太、これお願い。まてごらぁ!」
みちるから買い物袋を受け取る。
彼女はこうちゃんを追いかけていき、後ろからキャッチ。
『ひぃ! おかんべん! かんにんしてくださーい!』
もちもち、とこうちゃんのほっぺを餅のようにこねくり回す。
「うらやましいのよ二人でデートいってもぉ!」
『私情入ってません!?』
ぎゅーっとほっぺを伸ばすみちる。
「まあまあそれくらいに」
「ふんっ……!」
みちるがこうちゃんを解放する。
『今時暴力ヒロインは流行らないよ! 今はロシア語でボソッとでれるヒロインが望まれてる……つまりこうちゃんが時代に望まれてるヒロインなんですよ!』
「ほらこうちゃん行くよ」
「あーん、かみにーさまー。扱いざつぅ……」
僕らは笑って家路につく。
みちるもあきれていたけど、でも、微笑んでいたのだった。
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