95話 神作家、久々の無双(打ち合わせ)
9月下旬に入った頃。
僕は担当編集、佐久平 芽依さんのもとを尋ねていた。
父さんが編集長の新レーベル、SR文庫の編集部。
その会議室にて。
「ごめんなさい、カミマツ先生! お待たせ!」
カミマツとは僕のペンネーム。
部屋に入ってきたのは、茶髪の、できる女感のある編集さんだ。
芽依さん。僕のデビューからの担当編集さんである。
今は夏だから、袖なしシャツにパンツスーツというスタイル。
「ううん、僕【たち】も今きたとこです。ね?」
「…………」びくびく
僕の隣には、銀髪の少女が座ってる。
こうちゃん。神絵師にして、僕の恋人。
家では自由人の彼女だが、今は借りてきた猫のように大人しくしてる。
「あらあら、おあついわね~♡」
きゅーっ、とこうちゃんが、僕の腕を掴んで放さない。
『こうちゃん陰キャなので、外が怖いのです……かみにーさま、離れちゃいやだよ?』
ロシア語でぼそっとつぶやくこうちゃん。
意味はわからないけど、ニュアンスは伝わってくる。
「大丈夫。大丈夫だよ」
『ぬへへ……♡ かみにーさま、こうちゃんに腕をぎゅっとされて、ドキドキしてるかも~。ほら、メインヒロインですし? ヒロインからのはぐでドキドキなんて、定番の定番ですからなっ』
こうちゃんは娘とか妹とかみたいなので、ぎゅっとされてると、なんだかほんわかした気分になるなぁ。
「さてさて、じゃあ打ち合わせしちゃいますかー」
芽依さんが僕たちの前に座る。
「てゆーか、びっくりしました。父さんの出版社が、いつの間にこんなでっかくなってて」
前は雑居ビルの狭いスペースだった。
けれど今は、見上げるほどの大きなビルの中にある。
てゆーか、TAKANAWAブックス(デジマス出していたレーベル)のビルじゃんここ。
「まあ色々ありまして。あ、それと移籍の話了承してくれてありがとね!」
デジマスは元々、TAKANAWAブックスで出していた。
けれどレーベルがなんでだか知らないけど倒産することになった。
で、SR文庫で、文庫版として、リスタートすることになったのである。
「僕は小説が書ければなんでもいいんで。こっちこそ、ワガママ言ってすみません。イラストレーターの変更を申し出て」
デジマスは元々は別の絵師さんが書いていた。
だがその人もTAKANAWAグループ所属のイラストレーターさんだった。
会社が倒産にともなって退社した次第。
『そこでこうちゃんが僕心と同様、デジマスのイラストレーターとなったわけですぜ! 読者の皆さん、別にデジマスの絵師の名前を考えるのが面倒だからこうちゃんにしたんじゃないよ? ほんとだよっ?』
こうちゃんどこ向いて何をしゃべってるんだろう……?
芽依さんは笑顔でうなずく。
「みさやま先生なら、安心して絵を任せられますからね」
『えっへん、神絵師ですからな! ばるんっ!』
ロシア語で何かをつぶやきながら、胸を張るこうちゃん。
『おっとみさやまこう大きなきょぬーに、かみにーさまが注目してる! おっぱいぷるんぷるんすぎて打ち合わせに集中できないかなっ?』
しかしこうちゃん、僕の1個下なのに、見事にストーンとしてるよね、胸。
それがまた愛らしいというか……うん、かわいらしいなぁ。
「でもこうちゃん。僕心とデジマス。あと開田るしあ先生の【きみたび】も担当って……3作品も引き受けて、大丈夫なの?」
確かにこうちゃんは手が速い。
乗ればすぐに絵ができる。
でも……乗らないと全く書かないのは、同棲をはじめてすぐに気付いたことだ。
『まっかせなさい! だいじょーぶ! 3作品なんてよゆーですよ! こうちゃん神絵師ですぜ? 3本担当なんてよゆーのよっちゃん以下ですよ!』
こうちゃんが得意げに語っている。
うーん……大丈夫かなぁ。不安だ。
「文庫版1巻は、アニメ2期放映に合わせて発売されます。締め切りはまだ余裕がありますけど、がんばってくださいね、こう先生」
ふふん、とこうちゃんが鼻を鳴らす。
『大丈夫だ、問題ない』
心配だ、問題しか無い気がする……。
「ところで先生。今日はですね、デジマスのアニメ2期についての簡単なご説明と、お願いがあっておよびだてしたんです」
「あ、2期放映もうすぐでしたね!」
デジマス。
デジタルマスターズ。
僕がなろうで投稿していた小説だ。
アニメ映画が放映されて、今度テレビで2期が開始される。
楽しみだなぁ!
「アニメは来年1月スタートです」
「結構先ですね」
「もうすぐ10月なんで、三ヶ月なんてあっという間ですよ」
そうか……もう10月かぁ。
みちるに振られてから、半年が経とうとしてるんだね。
色々あったなぁ。
「そこでカミマツ先生にお願いしたいことが2つあります」
「2つ? なんでしょう?」
芽依さんが1本、指を立てる。
「アニメの注目度をあげたいので、なろうでの更新頻度を、もう少し、上げて欲しいんです」
デジマスはなろうに投稿している。
今も投稿は続いてるけど、ペースは最近少しセーブしていた。
移籍の話があったからね。
でも……。なんだお願いってそんなことかぁー。
「もちろん、投稿ペース上げますよ。てゆーか、もうできてます」
「へ……? ど、どーゆーこと?」
『あ、こうちゃん知ってる。神作家さまによる、無双シーンだ! このパターン……進言○ミで見た!』
僕はスマホを電源を入れて、なろうの作品ページを見せる。
「なっ!? なんじゃこりゃぁあああああああああああああ!?」
芽依さんが、なんだか驚いてる。
あれ、どうしたんだろう?
「こ、これ! あ、あの! 先生!? なんか……デジマスの話数……めっちゃ増えてません!?」
なろうには予約投稿の機能がついてる。
「しかも1月まで毎日予約されてる……!? しかも! 1日三話更新!?」
「はい。書きためしてたんです。投稿ペース落としてっていわれた時から」
「そ、それ言ったの……9月頭なんですけど……」
1日三話分。それが1月までの約三ヶ月。
つまり90日×3で、270話じゃん。
「え、たった270話書きためしたくらいで、何に驚いてるんですか?」
『で、で、でたー! かみにーさまの無自覚おれなにかやっちゃいましたー!』
こうちゃんがロシア語で、何かを言う。
ふがふがと鼻息荒くしてる。
『最近とんとごぶさたでしたが、この人こーゆーひとでした! ヤバい人なんですよこのひとぉ!』
戦慄する芽依さん、とあとこうちゃん。
「さ、さすがカミマツ先生……仕事が相変わらず神ですね」
「あ、ちょっと遅すぎますかね。もう少しペース早められますけど」
「速すぎるって意味ですよ! ここまでして下さいとは言ってませんー!」
芽依さん何に怒ってるんだろう……?
『かみにーさま相変わらず出演する物語ジャンル間違ってる……。ここ現代恋愛ジャンルですぞ? こと小説に関して、かみにーさま異世界ファンタジーなんだよなぁ言動が』
はぁ~とこうちゃんが呆れたようにため息をつく。
ロシア語だったので、たぶんあんま意味は無い。
「それで、二つ目のお願いは?」
「えっと……ブルーレイ特典の小説をお願いしたいんです」
昨今のラノベ原作では、ブルーレイを買ってくれた人向けに、原作者が書き下ろす小説がある。
「いいですよ」
「良かった。で、ページ数ですが」
「1000ページくらいですか?」
「ぶーーーーーーーーーーーー!」
芽依さんが白目をむいてふきだす。
え、僕なにかしちゃいました……?
『やっぱ世界観間違ってるよかみにーさまのとこだけ! 恋愛ジャンルだっつってるだろ!』
芽依さんは震えながら言う。
「や、やっぱりこの人おかしいよ……」
「おかしい? あ、少なすぎますかね?」
「多すぎるって意味ですよぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
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