表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】高校生WEB作家のモテ生活 「あんたが神作家なわけないでしょ」と僕を振った幼馴染が後悔してるけどもう遅い  作者: 茨木野
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/236

94話 アリッサ、神絵師に影響されてく



 わたしの名前はアリッサ・洗馬せば

 歌手として活動している、18歳。


 ゲームのしすぎて倒れてから、約半月後。

 9月の中旬。


 その日、わたしは収録を終えて、スタジオから帰る途中でした。


「…………」


 リムジンにはわたし、運転席には贄川にえかわさんがいます。


 わたしは深く腰を下ろし、スマホの電源を入れます。


 こうさんから、LINEが来てました。


【アリッサねーさーん。帰りにカップ麺と、ぽてーとチップス買ってきて~。あとコーラもっ】


 お願い、と頭を下げるデジマスキャラのスタンプが送られてきます。


【わかりました】


 わたしが返事を打つと、こうさんからスタンプが帰ってきます。


【あ、コーラはゼロコーラじゃなくて、ちゃんとノーマルの赤コーラね! なんだゼロカロリーって! こちとらカロリーを気にして炭酸飲んでないっつーの!】


 しゃー! と猫が威嚇するスタンプを送ってきます。


 か、可愛い……。


 わかりましたと返事を送り、そろそろ帰る旨を伝えます。


「ふぅ……」

「ふふっ」


 運転席で、贄川さんが微笑んでいます。


 ボディビルダーみたいな彼が笑うと、ちょっとすごみがありますね。


「……どうしたんですか?」

「いえ、お嬢が楽しそうにLINEしてるから、嬉しいなーって思ってだけでさぁ」


「……楽しそう、でした?」

「ええ、とっても」


 贄川さんの声が弾んでいます。

 本当に嬉しいのでしょう。


「こうちゃんさんとLINEですかい?」


 贄川さんが、【こうちゃん】さんと呼ぶ。

 ちゃんとさんって一緒に付けていいのでしょうか。


「……ええ。あ、帰りにコンビニ寄ってくれませんか? こうさん、買ってきて欲しいものがあるって」


 すると贄川さんはこう言います。


「お嬢、車内冷蔵庫、あけてください」


 リムジンには冷蔵庫がついてます。

 小さなものですが。


 ぱかっ、と開けると……。


「……こ、コーラが入ってます」


「あとお嬢の隣のソファ、ちょっとめくってくださいやし」


 わたしは言われたとおりにします。

 ソファの蓋を開けると、なかには……お菓子とカップ麺が入ってました。


「……ど、どうして?」


「お嬢が小腹が空いた時用に、常備してるんでさぁ。適当にもっていってくださいやし。あ、ビニール袋はドアポケットに」


「……LINEの内容見てないのに、その通りの物が揃っているのは?」


「あの人だけでなく、お嬢のお友達の好きなおやつや飲み物は、全部把握してますぜ。別にこうちゃんさんのためだけでなく」


 確かにコーラ以外にも、お茶とか、ジュースとかが入ってます。


 ちょっと、いやかなり、用意周到すぎません?


「お嬢がいつお友達と遊びに出かけても良いように、備えておく。これもあっしの仕事でさぁ」


 わたしはこうさんに頼まれていた品物を、ビニールの中にいれながら、言います。


「……贄川さん。ありがとう」


「? どうしたんですかい、急に?」


「……わたしのために、色々準備してくれて。その……」


 わたしは、言うか迷って、でも……。


 脳裏に、ノーテンキな、こうさんの笑顔を思い浮かべて言います。


「……この間、ゲームのやり過ぎで、倒れてしまったでしょう。そのとき、贄川さんが、色々手続きとか、してくださったって。……ありがとう」


 思えばいつも、贄川さんは、わたしのために色々やっててくれた気がする。


 それを当然のように享受してて、感謝の意を伝えてなかった。


 いや、感謝はしてました。


 でも、口に出せなかったのです。


 けれど……。


 いつも、欲望をすぐに口に出す、こうさんを見ていると……。


 なんだか、とても羨ましく思うんです。


 思いは、胸に秘めておいても、意味ないのかなって、こうさんを見ていて思うんです。


「ふふっ、お嬢……変わりましたね」


「……え?」


 贄川さんはステアリングを回しながら、優しい声音で言います。


「良い傾向だと思いやす。こうちゃんさんの影響でしょうか?」


「……そ、そこまでわかってしまうのですか?」


「ええ。プロでございやすから」


 何のプロなんのでしょうか……。


「そこはほら、何のプロなんやねん! ですよ、お嬢?」


「……あ」


 わかりやすく、ツッコミ所を用意しててくれたみたいだ。


 未熟だなぁ、わたし。


「こうちゃんさんなら、いち早くツッコんでやしたね」


「……そうですね」


 わたしたちは苦笑し合います。



「……贄川さんって、こうさんのことヤケに詳しいですが、どうしてですか?」


「ネトゲで同じギルメンなんでさぁ」


「……ねとげ? ぎるめん?」


「えーっと……」


 そこで贄川さんは答えず、笑って言う。


「お嬢。それはこうちゃんさんに聞いてあげてくださいやし。話題が一個増えますぜ」


 キッ、とリムジンが止まります。


 贄川さんがドアを開けて、荷物を持ってくれます。


「コーラとか、中に運びやすぜ?」


「……ううん。いいの。これは、わたしが頼まれたものだから」


 贄川さんは微笑むと、ドアを開けてくれます。


「……ありがとう。おやすみなさい」


「ええ、お嬢。お休みなさい」


 そう言って贄川さんは車に乗って、さっていきます。


 変わってきてると、あの人は言ってくれました。


 ずっと側で見てくれていた、彼が言うのなら、そうなのでしょう。


 本当に、嬉しそうにしてくれてました。


 わたし……今まで、結構心配させてたのかもしれません。


 反省しないとな……。


「……ふう。よし」


 わたしは部屋の中に入ります。

 今日も深夜まで収録でした。


 家の中の電気は完全に消えてます。


 みちる……さんには、お夕飯はいらないと伝えてあります。


 わたしはこうさんの部屋へと向かいます……。


 ガチャッ。


『くぬっ! くぬっ! よーし! 部位破壊きたー! へっへーん! どうだぁ!』


 こうさんは椅子に座って、携帯ゲーム機をいじってます。


 また……深夜までゲームしてるこの人……。


『ナルガなんてハンターこうちゃんに掛かればよゆーですよっ! って、ぎゃー! こらっ! 落ちてるんじゃねえ! くそっ! なんで避けない! モーションで次の攻撃わかってたでしょーがー! んもー!』


 こうさんの話しているのは、ロシア語です。


 最近贄川さんに教えてもらって、少しずつですが、こうさんの言ってる言葉が理解できるようになりました……。


『かーっ! ナルガ相手に1乙とかまじありえないー! きー! あーもう! 報酬へったー! あーあーんもー、野良はこれだからやーねぇ』


 こうさんはゲーム機を放り出して、ベッドにダイブします。


 最近わかったのですが、ゲームが上手くいかないとき、こうさんはゲームを辞めます。


「あ、姐さん。おか、えりー」


 ぱたぱた、とこうさんがベッドで仰向けに眠りながら、足を垂直にあげて振ります。

「……それは、なに?」


『特に意味はない。きりっ』


 ……ロシア語でしたが、たぶん意味はないのでしょう。


『コーラとカップ麺はっ? 買ってきましたー?』


 ぴょんっ、と立ち上がるとこうさんが近づいてきます。


 たぶん、頼んだもの買ってきたか、といいたいのでしょう。


「……はい」

『姐さんありがとー! ふへへっカップ麺だ~。お湯作るねー!』


 こうさんの机の下には、小型の冷蔵庫があります。


 そこから2リットルのペットボトルを取り出す。


 電気ケトルでお湯を沸かす間、カップ麺の準備をします。


「……なぜケトルとか、冷蔵庫とか、この部屋にはあるんですか?」


『みちるマッマにカップ麺を禁止されてるからです』


 そういえばリビングにはケトルがありませんね。


 こうさんのためでしたか……。


「……禁止されてるのに、なぜ食べるんです?」


『ふっ……』


 こうさんは格好よく笑うと、


『食べたいからです!』


 ……ロシア語でしたが、わかりました。


 食べたいから、食べる。


 なんとシンプルな回答でしょう。


『なぜ人は我慢しなければいけない。健康? うるせーしるか! どうせ人は死ぬんだ! なら好きなもん食って死にたい、ってこうちゃんは思います。健康を気にしてマズいものを食べるより、よっぽど体に良い気がしますな。読者の皆さまもそう思いません?』


 こうちゃんが明後日の方向を向いて、ロシア語で何かを、訳知り顔でいいます。


 たぶん……意味はないのでしょう。


 ぱちんっ、とケトルがお湯を沸かします。

 こうさんがお湯を注いで、そわそわしながら、カップ麺ができるのを待ってます。


 その間に、わたしは気になっていたことを聞きます。


「……こうさん。ネトゲ、とはなんでしょう」


 きらんっ、とこうさんの目が輝きます。


『それ、こうちゃんに聞いちゃいます?』


 ものすっごい良い笑顔の、こうさん。


 好きなものを語るとき、だいたい、彼女はこういう顔になります。


『こうちゃんネトゲ歴ながいよー。語らせたら、うるさいよー。え、聞いちゃう? もしかして、姐さん興味ありけり~?』


 興味があるのか、と聞かれてる気がします。


「……ええ、とっても」


 だって、お友達と、大事な人が、好きなゲームなんですもの。


 わたしも、興味もちます。


『しゃ! ではこれ食べ終わったら、天才こうちゃんのぱーふぇくとネトゲ講座やっから!』


 どうやら教えてくるみたいです。


 ぺりっ、と蓋を剥がし、どこからか割り箸を2本、取り出します。


「……え?」


「はんぶん、こ!」


 ……こうさんは、変なひとです。

 平気で仕事をさぼるし、ゲームばっかりしてるし、禁止されてるのに普通にカップ麺もお菓子も、深夜に食べるし……。


 でも……そんな彼女を見ていると、少しずつ、何かが良い方向に行ってる気がするのです。


「……それでは、ご相伴にあがります」


『ふっ……君も深夜カップ麺の魅力にはまっていくがよい。こうちゃんはこうして人を堕落させていく……ましょーのおんななのだー! わっはっはー!』


 こうさんは笑顔で、ラーメンを啜ってます。


 わたしも、なにも気にせず、彼女と一緒にカップ麺を食べて……そして……。


「こーーーーらおちびぃ! アリッサぁ! 深夜にカップ麺食べるんじゃないわよぉおおおおおおおおお!」


 ふたりして、みちる……さんに、怒られて、笑うのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★新連載です★



↓タイトル押すと作品サイトに飛びます↓



『キャンピングカーではじめる、追放聖女の気ままな異世界旅行』

― 新着の感想 ―
[一言] 『なぜ人は我慢しなければいけない。健康? うるせーしるか! どうせ人は死ぬんだ! なら好きなもん食って死にたい、ってこうちゃんは思います。健康を気にしてマズいものを食べるより、よっぽど体に良…
2022/06/11 14:25 退会済み
管理
[一言] こうちゃんわかるぞ!
[良い点] …次郎太さんのスパダリ! [気になる点] …こうちゃんさん先生は…そろそろドギツイ雷を食らうかもな…フフフ(ゲス顔)…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ