93話 こうちゃんとお母さん
ぶんぶん、へろー、ゆーちゅーぶ。
どうも、こうちゃんです。
実はゆーちゅーばーでもあるんで、わたし。
でも最近かみにーさまに、「こうちゃんめっきり配信しなくなったね」って言われてしもーた。
ちゃうねん、かみにーさま。
忘れてないよ、決して、自分にVちゅーばーって設定がついてること。
まじよまじ。
さて、今日は天才イラストレーターみさやまこうちゃんの、華麗なる一日を紹介しようと思う。
決して、新しい話を思いつかなかったので、ヒロイン視点の日常会でお茶を濁そうとか、そーゆーことしてるわけじゃあないよ。ほんとだよ?
今日は、金曜日。
イラストレーターのみさやまこうの、朝は早い。
「ふっ……13時か」
壁に掛けてある時計を見て、わたしはニヤリと笑う。うん、完全に遅刻だ。
かみにーさま、どうしたんだろう?
こうちゃんを起こしに来ないなんて、おかしい。
はっ! まさか、愛想をつかしたとか!
ヒロインのくせに、主人公とまったく恋愛的な絡みしてなかったから、ヒロイン失格って思われたとか!?
うわああああん。薄情だー!
だめでしょ、かみにーさまは、こうちゃんを養ってもらわないとー!
一度拾ったら、責任もって、養ってもらわないとー!
「ぬ……? Lineが……」
枕もとのスマホをてにとって、通知を確認してみる。
かみにーさまからだった。
『今日創立記念日でお休みだからね』
あ、なーるほど。
おやすみなのね!
どうやら一回、かみにーさま起こしてくれたみたい。
ふふ……そうそう、かみにーさまは、このダメ女を一生養わないと、いけないんだからね(暗黒微笑)
「あれ……? じゃあ、かみにーさま、どこ?」
確認すると、どうやらみちるねえさんと由梨恵ねえさんと、お出かけらしい。
なぬー! ヒロインを置いて、他のヒロインとデートだってええ!
「ま、いっか」
人混み苦手だからね、こうちゃん。
おうち最強。
主人公とデートイベントに絡まないからって、ヒロインとして終わってるとか言わないでマジで。
こうちゃんだってヒロインでしょ!? ねえ!?
「おなかすきましたな……」
朝ごはんも食べてないので非常におなかがすきました。
とりあえずリビングへ行って、ご飯がないか確認。
「みちるねえさん、ナイスぅ~」
テーブルにラップして、朝ごはんが置いてありました。
ふふっ、やっぱりこの生活、やめられませんな!
だってこうちゃん何もしなくても、自動でごはんでてくるし。
しかもみちるねえさんのごはん、バリ美味いからね!
さてさて朝ごはんは……ぬぬ!
「お野菜……」
こうちゃんの苦手な緑黄色野菜が、たっぷりとお皿に入ってますな。
これは、いけませんねえ……。
「腐らないように、しまっとこ」
朝食のお皿を、手つかずのまま、冷蔵庫にしゅーと!
ちょー、えきさいてぃんぐ! ばとるどぉおおむ!
これで手つかずの朝食が腐ることはありません。この気遣いですよ。いやぁ、ヒロインムーヴしてますね。
「さてカップ麺をたべよう」
こうちゃんの好物トップ3、第一位はカップ麺、第二位はポテトチップス、第三位はハンバーガー!
それをコーラと共に食べるのですよ。
いやぁ、体に悪いねえ!
だが、それがいい。
わたしはお湯を作って、カップ麺をずるずる食べます。
みちるねえさんは、わたしがこれ食べてると、鬼のように怒ってくる。
体に悪いからってさ。
なんか、お母さんみたい。だから好きなんだ。えへへ。
天に召します、マイマザー……わたしのこと、見ててくれますか?
こうちゃんは、元気です……
と、そのときだった。
ぷるるるるっ♪
手に持ってるスマホに着信がありました。
「もしもし、マミー?」
『こう、あんた、あたしの事、死んだ扱いしてない?』
マミー、鋭い!
あ、別にうちのマミー、死んでないよ。
天に召しますとはいったが、死んだとは、一言も言ってない!
これぞ叙述トリックってやつよ。
まーミステリとか読んだことないけどね。
ちなみにマミーはロシア人だ。
だからわたしもロシア語で通話する。
『こう、こんな平日に電話でて、大丈夫なの? 学校は?』
う、マミーが説教モードだ。
「きょーは創立記念日、ですぞ。保護者のくせに、知らないのですかな?」
『あんただってどうせ忘れてたでしょ?』
鋭いマミーさすが鋭い。
『毎日ぐーたらしてない? 上松くんに迷惑かけてない?』
「大丈夫だ、問題ない」
毎日ぐーたらしてるし迷惑かけてるけど、馬鹿正直に報告すると怒られるので黙っとくこうちゃんマジ策士ですね。
『嘘つくんじゃないわよ。どーせうちにいたときと同じで、周りに介護してもらってるんでしょ?』
うう、鋭い……。
こやつ名探偵なのか? コナンくんなのか?
『こう。あんた見た目が幼いんだから、そんなふうに迷惑ばっかりかけてると、上松君に捨てられちゃうわよ』
「HAHA! 冗談きついぜマミー! 言っとくけどね、かみにーさま、こうちゃんにぞっこんラブよ?」
かみにーさまがこうちゃんを見る目、あれは、メスを狙うオスの目だ!
『手のかかる子供を見る目の間違いじゃないのー?』
「そ、そそ、そんなわけあるかい! ねえ!」
あれでも、かみにーさまがこうちゃん相手に、ドキドキしてる場面ってほとんど見たことないような……。
え、え、うそ?
もしかしてわたしのヒロイン力……低い?
『ヒロイン力たったの5か。ゴミめ』
「うわぁあああああん! マミーのあほー!」
くすくす、と電話口で、マミーの笑い声がする。
『よかった。元気そうで』
なんか、マミー、心配してたみたいだ。
そりゃそうか、急に同棲はじめたーって、娘が言い出したら、心配するよね。
そんな余計な心配しなくても、いいってーの……ふふっ。
「こうちゃんはいつだって元気ですぞ?」
『小学校の時不登校だったのに?』
「う……記憶にございませんな」
イラストレーターになる前のことは、あんまり思い出したくない。
暗黒時代編ですから。
わたしも暗い闇を抱えてるんですぜ。
『友達ができて、彼氏が出来て、あなたは変わったわ。お母さんうれしい』
マミーが優しい声音で言う。
変わったかなぁ~……自分じゃわかりませんね、そーゆーの。
「第一、マミー、わたしの顔最近見てないじゃん。どうして変わったってわかるの?」
『わかるわよ。声と、それに……あなたの絵を見ていればね』
マミーは、ちょっと特殊な環境にいる。
長くマミーとわたしは会ってない。
でも、わたしは寂しくなんてない。
マミーは、わたしの心の中にいる。
わたしの【絵の中】に、いつだって、いる。
「ちょっとは、マミーに近づけたかな」
『んー、まだまだね~。あたしのような神絵師の神……神絵神になるには、まだまだ修練が足りないかなー』
「くっ! 調子に乗りよって! みてろー! こうちゃんいつか、マミーの絵を超えるイラストレーターになるから!」
いつの時代も、師匠キャラは、主人公に乗り越えられる存在なんだ。
わたしも、いつか。
この手が神に届くまで、わたしは絵を描く。
……お仕事はだるいけどな!
『楽しみにしてるわよ、あたしのかわいい弟子』
「うむ、せーぜー首を洗ってまっとるんだね!」
それじゃあ、といってマミーが電話を切る。
一抹の寂しさを覚えちゃったりする。
と、そのときだった。
「ただいまー」
かみにーさまが帰ってきた!
リビングに現れたのは、もうひとりの神。
わたしにとっての神は、二人いる。
絵の神であるマミー。
そして、文章の神である、かみにーさま。
「お、かえ、り」
「うん、ただいま」
かみにーさまは微笑むと、わたしの頭を撫でてくれる。
ふぉおおお、心地よい!
「お寝坊さんだね、こうちゃんは」
『えぺが楽しすぎるのが悪い。こうちゃん悪くない』
わたしはよくロシア語でしゃべる。
昔、これは、人を寄せ付けないための、予防線だった。
外国の言葉で話せば、みんなわたしに、声を掛けてこなくなるから。
外国人って偏見で見てくれて、それは、楽だったから。
でも、今は、ちょっと違うんだよなぁ。
「こうちゃんまーたえぺしてたの? もう、だめだなぁ」
わたしのロシア語を聞いても、かみにーさまは、避けずに聞いてくれる。
内容は、伝わってない。言葉が違うから。
でも、わたしが甘えているってことは、伝わってくれてる。
それがとてもうれしいんだ。
だから、こうちゃんはロシア語でぼそっとつぶやくんだな、これが。
別にキャラ付けでやってるわけじゃないよ! ほんとだよ!
「ちょっとおちび! あんたまーたカップ麺食べてたのね!」
一緒に帰ってきた、みちるねえさんが、目じりをきゅっと釣り上げていう。
「しかも伸びきってるしこれー! もったいないじゃないの!」
ねえさんにほっぺをつねられながら、わたしは笑う。
だって今が、最高に楽しいから。
マミー、天国で見てるかい?
わたし今、笑ってますぜ……。
青空を見上げちゃったりして、ここで空にマミーの顔が大きくどーん!
なんちゃってね。
まあ、今が楽しいのはホント。
だから、まあ、マミーは安心していいよ。




