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【完結】高校生WEB作家のモテ生活 「あんたが神作家なわけないでしょ」と僕を振った幼馴染が後悔してるけどもう遅い  作者: 茨木野
第3章

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92話 アリッサ、寝不足で倒れる


 日曜日、僕らは各々、家で時間を過ごしていた。


 昼下がり。


「アリッサ。お昼ご飯だよー」


 僕は歌手であるアリッサの部屋のドアをノックする。


 しーん……。


「あれ? アリッサ? おーい」


 ドサッ!


「アリッサ!? 入るよ!」


 僕が慌ててドアを開けると……。


 彼女が、倒れていたのだ。


 額に脂汗をかいて、浅い呼吸を繰り返している。


 ……ぶわっ、と汗が一気に噴き出す。


「アリッサ!」

「どうしたの、勇太?」


 みちるが騒ぎを聞きつけて、台所からやってくる。


「アリッサが!」

「ッ! アタシ救急車呼ぶわ! 勇太は声かけしてあげて!」


 みちるは即座に部屋を出て行く。


「大丈夫! アリッサ! 起きて、アリッサー!」


 ほどなくして。


 救急車に乗って、アリッサは病院へと搬送されていく。


 僕、みちる、そして家に居たこうちゃんの3人で、病院へと向かう。(由梨恵は収録)


 このことをアリッサのお手伝いさん、贄川にえかわさんに連絡。


 すぐさま病院へ駆けつけてきて、僕ら4人は、先生から説明を受ける。


「寝不足ですね」


「「「「は……?」」」」


 先生が深々とため息をつく。


「最近眠れてないみたいですね。そこに歌手業も相まって、軽い過労を起こしてたのでしょう」


「は、はあ……じゃあ、アリッサはなんともないんですね」


「ええ。ただ今日一日はここで安静にしていってください」


 先生の部屋から出て、僕らは安堵の吐息をつく。


『ふぁああん! アリッサ姐さんが無事でよかったよー!』


 神絵師こうちゃんが、涙を浮かべながら、安堵の吐息をつく。


 いつの間にか、彼女はアリッサと仲良くなっていてるようだった。


「皆さん、お嬢がご迷惑をおかけして、申し訳ありやせん」


 ターミネーターみたいな大男、贄川さんが、深々と頭を下げる。


「いえいえ! 迷惑なんて思ってないですよ。無事で何よりです。ねえみんな?」


 うんうん、とみちるとこうちゃんがうなずく。


「いいお友達をもったもんでさぁ」


 にこっ、と贄川さんが微笑む。


「でも寝不足って、なんでだろうね」

「まあ仕事は夜遅くになること多かったけど、寝不足になるようなことってあったかしら……?」


 僕とみちるが首をかしげる。


『ぎくり……ま、まさか……こうちゃんの、せい? この一週間、ほぼ徹夜でゲーム一緒にしてたから……?』


 こうちゃんがロシア語で、何かをぼそっとつぶやく。


「こうちゃん何かしらない?」


『知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない』


 こうちゃんが凄い勢いで、首を横に振る。

『こうちゃんお花を摘みに行ってくりゅー!』


 だーっ! とこうちゃんがトイレへとかけていった。


「勇太。あと任せる。アタシ、あのおチビに話があるから」


「う、うん……」


 みちるはこうちゃんを追い掛けていった。

 あとには僕と贄川さんが残る。


「では、あっしはお嬢のお着替えを取りにいってきやす。それと収録が中止になった連絡もしてきやすんで、もしお嬢が目を覚ましたら、仕事は安心するようにといってあげてください」


「はい、わかりました。ありがとうございます」


 僕が頭を下げると、贄川さんは目を丸くする。


 けれどニコッと笑う。


「お嬢が良い旦那にもらわれて、あっしは安心しやしたよ」


 ぽんっ、と贄川さんは僕の頭をなでる。


「お嬢が倒れたのは、まあ自己責任的な意味合いがあります。だから若旦那が気に病む必要はございやせんぜ」


 贄川さんは、僕の心の中を、覗いたみたいに言う。


「いや……でも、一緒に住んでて、気づけなかったんだし……」


「だとしても、今はそんな暗い顔するより、明るい顔で、目を覚ましたお嬢を元気づけてくださいやし。それが一番お嬢のためになりやすから」


 ぽんぽん、と肩を叩くと、贄川さんは笑顔で手を振って、去って行った。


「……いい人だなぁ、あの人」


 僕も贄川さんみたいな、頼れる男になれるよう……がんばらなきゃっ。


 彼と別れたあと、僕はアリッサの病室へと向かう。


 仰向けに眠る彼女は、ふと、目を覚ます。

「ここは……?」

「アリッサ! 良かった、目覚めて……」


 彼女は困惑している様子。

 そして壁の時計を見て、さぁ……と顔が青ざめた。


「い、いけない! 今日、収録が!」


 がばっ、と立ち上がろうとする彼女。

 僕は肩を掴んで、ベッドに押し倒す。


「ダメだよ! 今日は安静にしてなきゃ!」


「で、でもっ! 収録が……デジマスの、ユータさんのアニメの、仕事なんですっ!」


 そろそろ二期が放映される。

 それ関係の収録なのだろう。


 プロ意識は凄いと思うけど……でも、体調を崩されちゃ困る。


「アリッサ、落ち着いて。贄川さんは、仕事のことは気にしないで、休んでって言ってたから」


「……………………はい」


 彼女は観念したように、ベッドに横になる。


 けれどやっぱり気になるのか、そわそわ、と時計を気にしていた。


 寝て欲しいのに……。 


 どうしよう……そうだ!


「アリッサ。眠れるように、何かお話してあげるよ」


「……お話? 寝物語ってこと?」


「うん!」


 僕は即興で、思いついたことを口にする。

 お姫様と王子様の、シンプルなストーリーにした。


 すると……。


「………………すぅ」


 あれだけ慌てていたアリッサが、ぐっすりと眠ったではないか。


「ふぅ……良かった。寝てくれて」


 彼女は熟睡していた。

 僕はホッとして、病室を出たんだけど……。


「な、なにこれ……?」


 病室の前で、看護師さんが倒れてた。


 それだけじゃない、病室の近くに居た子供達や、スタッフ、患者達……。


 彼らが、みんな眠っていたのである。


「ど、どうなってるのこれ……?」


 近くを探索してると、看護師さんと出会う。


「あ、あの! これ、どうしちゃったんですか? 集団催眠とか……?」


 すると、看護師さんは首を振る。


「ち、ちがいます……ただ、眠った人たちはみな、口をそろえて、心地の良いお話を聞いたと」


「は、はあ……」


 お話? なんだろう……。


「倒れてる人たちは、この病室の近くに居た人たちばかりでした。なにか、知りませんか?」


「う、ううーん……わかんないや」


 まさか僕がアリッサに聞かせた、寝物語のせいなんてことないだろうし……。


 結局犯人は見つからず、その日からその病院では、【聞いたものを深い眠りに誘う幽霊】の七不思議が出来たという。


 不思議なこともあったもんだね!


    ★


 夜、アリッサが病室で目を覚ます。


「大丈夫? 具合、どう?」


「……問題ありません」


 彼女の顔色も、すっかり元通りだった。


 よかった……ほんとに。


「あの……ユータさん。ごめんなさい」

「え? なにが?」


「……だって、わたしのせいで、迷惑かけて。せっかくの日曜日なのに?」


 え、っと……アリッサは、何を気にしてるのだろうか。


「迷惑? 迷惑なんて思ってないよ」


「……え?」


「アリッサは大事な女性ひとだもん。迷惑かけられたなんて思ってないよ」


「……ユータさん」


 青い瞳に涙が溜まる。

 彼女が震えているのを見てられなくて、僕は彼女の細い肩を抱く。


「元気になって良かった」

「……ありがとう」


 と、そのときだ。


「勇太! アリッサ! 犯人とっつかまえてきたわよー!」


 病室に、みちるが入ってくる。

 その手には、こうちゃんが襟首をつままれ、まるで猫のようになってた。


「犯人?」

「このおチビ、アリッサとこの一週間、ずぅっと寝ずにゲームしてたらしいのよ」


「ほんとなの、こうちゃん?」


 こうちゃんは頭を垂れながら、こくりとうなずく。


『ごめんなさい……こうちゃんいくら徹夜してもヘッチャラなんですが、素人には5徹はきびしーって、知らなかったの……』


 しゅんっ、とこうちゃんが反省した様子で、ロシア語で何かを言う。


「アリッサ、あのね……多分だけどこうちゃんは……」


 するとアリッサは首を振る。


 そして……。


『こう、さん。気にしない、でください』


「! あ、あんた……今、日本語じゃなくて……それ……」


「ロシア語……?」


 みちるも僕も、アリッサがロシア語を話したことに、驚く。


『あ、アリッサ姐さん、なんでロシア語を!?』


 アリッサは小さく、僕らに言う。


「……習ったんです。贄川さんの……奥さんが、ロシア人だから。こうさんと、話せるようにって、あの人に頼んで、教えてもらったんです」


「アリッサ……」


 彼女はこうちゃんを見て、微笑む。


『倒れたの。勉強してたせい。こうさん。気にしないで』


『で、でも……こうちゃんが無理にゲームに誘ったから、倒れたんでしょ?』


 こうちゃんたちがロシア語で会話している。


 でも、アリッサは微笑んで、首を振る。


『否定。わたしはうれしい。あなた。またゲーム。一緒。したい』


 たどたどしいロシア語だった。

 でも……こうちゃんには伝わったようだ。

 じわ……とこうちゃんの目に涙が浮かぶ。


 それだけで、彼女たちの会話は、意味が通らずともわかった。


『うわわーん! ごめんよーアリッサ姐さーん!』


 こうちゃんはみちるの手から離れると、彼女の体に抱きつく。


『今度からゲームはほどほどにするよー! 20時間くらいに!』


「……こうさん。まだ完全にロシア語、わからないですよ」


『とりあえず10時間やったら1時間休むようにするから! 徹夜もほどほどにするからー!』


 泣きつくこうちゃんを、優しくアリッサがなでる。


 うんうん、よかった、仲良くなって。


「まったく、心配かけさせるんじゃあないわよ」


 みちるがため息をついて首を振る。


「ゲームのしすぎて倒れるなんてね。子供かっつーの」


「……ごめんなさい」


 アリッサが頭を垂れる。


『こりゃー! アリッサ姐さんをいじめないでっ! 悪いのはこうちゃんですっ! でも怒るのは怖いのでかみにーさま助けてへるぷみー!』


 すごい、こうちゃんがアリッサを庇ってる!


 でもなんだろう、僕の方をチラチラ見てくるのは……?


「ま、次から気をつけなさいよ」


 ぽんっ、とみちるはアリッサの頭をなでる。


「心配したんだから、まったく……」

「………………………………はい。すみません」


「きゅ、急に殊勝な態度とらないでよ、困るじゃないのよ……」


 みちるは照れながら、頬をかく。


 そこへ……。


「りっちゃーん!」


 病室のドアが開いて、由梨恵ゆりえが入ってくる。


「……由梨恵さん」

「ごめんね遅くなって!」


 由梨恵はアリッサの体に抱きつく。


「大丈夫!? ケガはない!?」

「……ええ、問題ありません」

「そぉっかぁ~……よかったぁ~……」


 心からの安堵の表情を浮かべる由梨恵。


 アリッサは僕らを見て、頭を下げる。


「……みなさん。ご心配おかけしました」


 僕らはアリッサを見やる。

 でも……前みたいな、暗さは、なかった。

「……これからは、気をつけます。……ほんとうに、ありがとう」


 アリッサの笑みを見て、僕らもまた笑顔になる。


『うんうん。丸く収まった! これぞ、ホームドラマってやつだね!』


「おーちーびー……」


 がしっ、とみちるがこうちゃんの頭を鷲づかみにする。


「そもそもあんたが、毎日徹夜で、ゲームしてたのが原因でしょうがぁ~!」


 ぎりぎりぎり、とみちるがこうちゃんの頭を手でつかんで力を込める。


『ふぎゃー! ちがうの! アリッサ姐さんが軟弱ボディなのがわるいの!』


「5日も徹夜でゲームしてたら倒れるっつーの!」


『でもでもっ、こうちゃん倒れてませんがっ?』


 たぶんこうちゃんが、ロシア語で反論しているのだろう。


「こうちゃんは、学校で寝てるでしょずっと」


「にゅふん……」


 こうちゃんががっくりと、あきらめたようにうなだれる。


「おチビ、あんた、当分ゲーム禁止!」


『そ、そんな! おいらに死ねと申すのでおじゃるか!?』


「あんたのせいで電気代もバカみたいにかかるのよ!」


『でもでもっ、ゲームできないとこうちゃん、じゃあ何して生きてけば良いのっ!』


 多分ゲームがなくなったら死ぬ的なこと言ってるんだろうなぁ。


「大丈夫。ゲームしなくても、人は死なないから」


『他人はそうでもこうちゃんは死んじゃうの!』


 僕らのやりとりを見て……。


「ふふ……あははははっ!」


 アリッサが、大きな声で笑っていた。


 それは僕と出会ってから今日まで、見たことのない、大輪のバラのような笑みだった。


「……ユータさん。ありがとう」


「え? 僕……?」


 こくりとアリッサがうなずく。


「……わたし、今、すごい……幸せです!」

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★新連載です★



↓タイトル押すと作品サイトに飛びます↓



『キャンピングカーではじめる、追放聖女の気ままな異世界旅行』

― 新着の感想 ―
[良い点] アリッサちゃんが無事で良かった!…みんな仲良しで良かった! …そして、二郎太さんの出番が増えてきて良かった!…カミマツ先生の父親!アゲマツさんの次に好きなキャラクターです!!…まぁ二人と…
[一言] 5轍出来るとかすげえわ!w
[気になる点] >病室の前で、看護師さんが倒れてた。 ついに主人公の能力が覚醒して異世界に行ける?わけではないけど、どんな話なんだろう? 新たな新作へのヒントになりつつかも? [一言] 更新、あり…
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