87話 引っ越しそば
僕は美少女4人と同居するために、家を買った。
今日は引っ越しの日。
作業自体は、正午にはあらかた終わった。
残りは細かい、食材などの買い出しくらい。
『ふぁー……疲れた~。こうちゃんお腹減った~』
リビングのソファにて、こうちゃんが寝転んで、ロシア語で言う。
「なんかこうちゃん疲れたみたい」
「おちび、あんたほぼサボってたじゃないの」
「記憶に、ございませんね」
こうちゃんはタブレットPCを取り出すと、ソシャゲをやりだす。
スマホはみちるに没収されているので、こっちを使うらしい。
「勇太」
「うん。こうちゃん、没収」
『あーん! かえちてー!』
僕はタブレットを回収。
冷蔵庫の上にタブレットを置く。
背の低いこうちゃんは、ジャンプして回収しようとする。
「だいたい引っ越し作業終わったけど、午後は買い出しにいくんだから。サボってんじゃないわ」
『ガチャを! せめてガチャだけでも回させてくだせえ!』
「こうちゃんがガチャ回したいみたい」
「不許可」
「のーーーーーーーーーーーーー!」
落ち込むこうちゃんを、由梨恵が回収する。
「こうちゃんソシャゲより面白いことしようよ!」
「それは……なに?」
「私とおしゃべり!」
「ふっ……」
「鼻で笑われた!?」
『ソシャゲでガチャ回すことはこの世の何者にも代えがたい愉悦である。ひとつなぎの財宝、それがソシャゲガチャ……』
こうちゃんがロシア語で、したり顔で言う。
多分そんなに意味のある言葉じゃないと思う。
「みちるん、お腹空いた!」
「そーね、お昼にしましょうか。おそばで良い?」
「そうだね。引っ越しそば。出前取る?」
みちるが首を振る。
「出前なんてダメよ高いんだから。もったいない」
「え、じゃあどうするの?」
「そばくらい、作るわよ」
「「「作る!?」」」
僕と由梨恵、こうちゃんは驚く。
ちなみにアリッサはずっと不機嫌そうに、僕の隣で黙って立ってる。
「な、何驚いてるの? おそばくらい普通に作れるでしょ?」
「あ、わかった! あれでしょ、乾麺をゆでるやつ!」
「え、手打ちおそばよ?」
「手打ちそば!? 作れるのみちるん!?」
「え、逆に作れないの?」
僕も含めて、みんな驚いている……。
みちるは料理上手だとは知ってたけど、手打ちそばまで作れるなんて。
『なるほど、かみにーさまはラノベ関係で無自覚無双して、みちる姐さんは料理関係で無自覚無双するのね。おけ、こうちゃん把握した』
うんうん、とこうちゃんがロシア語でぼそっと何かを言うけど多分意味は以下略。
「……本当に作れるのですか?」
アリッサが疑いの目を向けてくる。
だがみちるはあっけらかんと言う。
「もちろん」
「……そう」
ふ、二人が険悪なムードに……。
「あ、そ、そうだ! みんなでお昼ご飯作ろうよ!」
せっかく共同生活するんだから、みちる一人に任せるんじゃなくて、みんなでやるのがいい。
「いいね勇太くん! 私さんせーい!」
「……まあ、ユータさんが言うなら」
『こうちゃん食べるの専門だからパス』
「こうちゃんも手伝うってさ」
『かみにーさま!?』
こうちゃんのロシア語は、相変わらず何言ってるかわからないけど、こーゆーとき積極的にサボる子であることくらいは把握しているからね。
『かみにーさま! 翻訳こんにゃくちゃんと食べて! 翻訳間違ってるよ!』
「ぜひ一緒に作りたいってさー」
『うわぁあああああん! かみえもんがいじめるー』
みちるは吐息をつく。
「それじゃみんなで作りましょっか」
「「「おー!」」」
★
30分くらいで、天ざるそばが完成した。
「みちるんすごい! あっという間におそばと天ぷら完成させて……すごい!」
「みんなで手分けしたからよ。あんがとね」
リビングの隣に和室がある。
そこに大きなテーブルを買った。
みんなで一緒にご飯を食べられるようにである。
「ほらおチビ、キリキリ動きなさい」
みちるがそば皿をこうちゃんに持たせる。
『うう……こうちゃんの活動限界は3分なのに~……ろーどーきじゅんほー違反だ~』
すでにぐったりしているこうちゃん。
けど僕は知っている。
みんなでおそば作ってる間、こっそりタブレットPCを回収し、ガチャ回していたことを……。
「こうちゃん、あとで没収ね」
『うう……かみにーさまがなんだかドS……』
「クレジットカードも没収するわね」
『みちる姐さん!? ひどい! それはこうちゃんの命!』
こうちゃん、すごい嫌がっている。
「あんた金使いすぎ。一緒に住む以上、無駄使いはアタシが許さないわ」
『うう……ガチャは無駄遣いじゃないよぉ……心の栄養を補給してるんだよぉ……酸素と同じなんだよぉ~……』
「いいから出しなさい」
『……けちけちオババ』
びきっ、とみちるの額に血管が浮かぶ。
みちるは作業を中断すると、こうちゃんの背後に回る。
「ロシア語がわからなくても馬鹿にしたことくらいわかるのよぉおおおおおおおおおおおおお!」
「ぎゃー! へるぷみー!」
みちるがこうちゃんの頭をぐりぐりする。
「それくらいにしようよ。こうちゃんも反省してるし……ね?」
『かみにーさま! やさしい! 大好き!』
みちるの手を離れると、こうちゃんが僕の腰にしがみついてくる。
「勇太だめよ、子育ては甘やかしちゃいけないんだから」
『あれこうちゃんお子様ポジ? ま、まさかね……ヒロインポジションだよね?』
「でも子供のすることはあんまり頭っから否定しちゃダメだと思うんだ」
『おおい、みーはヒロインだよね? 子供ポジションいやいやよ? 3巻辺りで表紙飾るタイプのメインヒロインよこうちゃんは?』
ふぅ……とアリッサがため息をつく。
「……そろそろお食事にしませんか?」
「「「さんせー」」」
『こうちゃんはメインヒロイン! りぴーとあふたーみー!』




