84.夏の終わり、みんなで話し合い
夏休み最終日。
僕の部屋には、4人の美少女達が集まっていた。
長い黒髪の美少女声優、駒ヶ根由梨恵。
金髪の超人気歌手、アリッサ・洗馬。
ロシア系神絵師、みさやまこうちゃん。
そして……幼馴染みのみちる。
『わぉ、美少女勢揃い。かみにーさま、これから修羅場? ねえ修羅場がはじまるの? しゅらしゅしゅしゅ?』
こうちゃんがロシア語で話しかけてくる。
この子がロシア語使うときは大抵しょーもないことなのは承知ずみなのでスルーする。
「みんな、その……ごめんね。忙しいのに」
「ううん! だいじょうぶ! 私、勇太くんのためなら、いつだって時間作るよっ!」
由梨恵が笑顔で言う。
「……わたしだって、たとえ世界の反対側にいても、かけつけます」
アリッサが対抗するように言う。
「あ、アタシも勇太のためなら、用事全部投げ出すもん」
とみちる。
『こうちゃんは締め切りがあっても、かみにーさまのもとへいつでも駆けつけもん。締め切りから逃げるためじゃないよ決して』
こうちゃんはベッドの上で寝そべり、チューペット(僕の家のおやつ)を啜りながら言う。
「で? 勇太、なによ、あんたの女を集めて……」
みちるが不機嫌そうに言う。
彼女は僕の考えに、あまり肯定的でないのだ。
「その、これからのこと、話しとこうかなって」
「これからのことって……勇太くんがハーレム作るってヤツ?」
『おおう、由梨恵ねえさんストレートすぎるっす。まじぱねー』
こうちゃんの隣に由梨恵が座っている。
みちるは僕の右隣、アリッサは左隣。
「アタシは……勇太のことは好きよ。大好き。けど……ほかの、特にそこの金髪の女の子とは受け入れられないわ」
じろりとみちるがアリッサをにらみつける。
みちるは僕の右腕をギュッと掴む。
「勇太は渡さないわ」
「……何を言ってるのですか?」
ぎろり、とアリッサがみちるをにらみつける。
「……それはこちらのセリフです。由梨恵さんやこうさんならともかく……わたしはあなたを許したわけではありませんから」
ぎゅーっ、と左腕をアリッサが抱きしめる。
ど、どっちもおっぱい大きいから……その、き、気持ちいいんだけど……その……。
『ばちばちの修羅場が展開してるぞー! ひゃー! 昼ドラー! これはワイドショーより見所ぐんばつだぜひゃっはー!』
「こうちゃん、ちょっと黙ってようか」
由梨恵がこうちゃんをだきしめて、後ろから口を塞ぐ。
「……第一、あなたはユータさんを傷つけたじゃないですか? 一度振った分際で……よくまあもう一度好きと言えたものです」
「…………」
みちるがぎゅっ、と唇を噛み締める。
目を伏せて、震える。
彼女にとって深い心の傷であることを……僕は知ってる。
「アリッサ。それはもういいんだ」
「ユータさん……」「勇太ぁ……」
アリッサは不満そうに、みちるは涙目で僕を見る。
「みちるは十分苦しんだし、もうこれ以上苦しんでいるみちるをみたくない」
「……あなたが、そう言うのでしたら」
「うぐ……ぐす……勇太ぁ……」
きゅーっ、とみちるが僕の腕を抱き留める。
僕は彼女の腰に手を回して、抱き寄せる。
アリッサは頬を膨らませると、ぐいっ、と僕を力強く抱き寄せる。
そのまま正面から、アリッサが僕を強くハグしてきた。
わ、わわっ!
む、胸が! 顔に……!
や、柔らかい……しかも、なんだこのいいにおい……。
『ラッキーすけべ来たぁああああ! さすがラブコメ主人公ゥうううう! そこにしびれるあこがれるぅううううう!』
「はいこうちゃん、おかしですよー、あーん♡」
由梨恵がこうちゃんの口に、クッキーを入れて黙らせる。
「……ユータさんは渡したくありません!」
「アタシだって渡したくないわよ! 返しなさいよ勇太を!」
ぎゃあぎゃあ、と僕を挟んで怒鳴り合う美少女達。
「もうっ。ケンカはだめですっ!」
由梨恵が間に入って、ぐいっ、とふたりを引き剥がす。
「ちゃんと話し合いしないと、前に進めないよふたりとも!」
『そーだそーだ、ここまで1663文字も書いてるのに、話がまったく進んでないぞぉ』
こうちゃんがロシア語で何かを言っている。
多分意味はない。
「重要なのは、勇太くんの、そしてみんなの意思だよ。みんな勇太くん好き、それはわかった。勇太くんもみんなが好きなのもね」
でも……と由梨恵が言う。
「私たち、女の子同士での意思統一ができてない……というか、まだまだお互いのこと、よくわからない」
「そう……だよね」
考えてみれば、僕と女子達それぞれと会う機会は多かった。
けど、女の子同士での絡みはあまりなかった。
それに、僕だってみんなの全てを知っているわけではない。
「これからみんなで仲良くやってくためには、もっとお互いをより深く知る必要があると思うんだ」
「……たしかに、そうですね」
「で、何か案はあるの、由梨恵?」
みんなの注目が由梨恵に集まる。
「ふっふっふ、案はね……」
「「「案は?」」」
「わかりませんっ!」
がくっ……!
『由梨恵ねえさんあの流れでまさかの無策とは。これが天然か……おそロシア』
でも由梨恵の言ってることは一理ある。
みんなとこれからずっと一緒にいたいのなら、今よりもっと深く知り合っていかないと。
「でもさ、どうするのよ。これから夏休みが終わるのよ?」
みちるは由梨恵とアリッサを指さす。
「これから学校が始まる。それにこの二人なんて、声優と歌手よ? 今まで以上に時間とれなくなるでしょ?」
「う……確かにぃ~……収録もあるし、レッスンもあるから……ど、どうしようみちるんっ」
由梨恵がみちるに抱きつく。
ここの二人は結構仲良いのだ。
抱きつかれても、しかしみちるは拒まなかった。
「それは……勇太、なんかないの?」
「そうだね……こうちゃんも仕事あるだろうし、ねえ?」
こうちゃんはベッドに寝そべって、ソシャゲしていた。
『え、なにー?』
「うん、なんでもない」
『ちょちょ、こうちゃんも会議に参加させてくださいよっ』
寝そべった体勢で、ロシア語で何かを言うこうちゃん。
「それに勇太だって、学校にプラスして、ラノベの仕事やアニメの仕事だって増えてくでしょ?」
『かみにーさまは神ラノベ作家で、メッチャ売れてるひとなんですぞ、みんな、覚えてるかなー?』
「僕はまあ別に……でも、みんなが時間取れなくなるのは、困るね」
さてどうしたもんか……。
「……いっそ、みんなで住む、とか?」
こうちゃんが、ふと、日本語でぼそっと何かを言う。
「え? こ、こうちゃん今なんて?」
僕は立ち上がって、こうちゃんの肩を抱く。
『ひゃー♡ だめよ~♡ まだ結婚前の男女なんだからぁー♡ 押し倒しちゃだめだね、だめよー、だめなーのよー♡』
「こうちゃん!」
「……あ、えと、みんな……住む、とか?」
住む……住む……そうか!
「みんな……一緒に住もう!」
「「「「え……?」」」」
なんで考えつかなかったんだ!
そうだよ、単純なことじゃないか。
「一緒に居られる時間が減るなら、一緒に住めば良いんだよ、普段から!」
「お、落ち着いて勇太……住むってどこにすむのよ?」
「……まさか、ユータさんのお家にですか?」
ううん、そうじゃない。
僕は……言う。
「僕が家を買うから、そこでみんな、住もう!」
「「「「い、家を買うぅ!?」」」」
ものすっごいびっくりした顔のみんな。
「いやいやいや! 何言ってるのよあんた! 家を買うって……」
「この近くに中古の一軒家があるんだ。そこを僕が買うから、そこでみんなで住もう」
「ちょっ……! ちゅ、中古だって結構値段するのよ? そんな金……………………………………あるわね」
みんな、なるほど、とうなずく。
「あんた、人気ラノベ作家だったわね」
「……家を買えるくらいの貯蓄はあると」
『印税がっぽがっぽ。ここで神作家要素を回収するわけですね』
僕の銀行口座には少なくないお金が振り込まれている。
でも僕は、それらに一切手をつけてなかった。
ここが、使い時じゃあないだろうか。
「僕が全額出すから、みんなは住むだけで良いよ」
「で、でも勇太くん……悪いよ」
「……そうです。わたしたちも、それなりにかせいでますし、お金出します」
『それなりにってあんた、メッチャ稼いでますやん……』
いいや、ダメなんだ。
それじゃ……ダメなんだよ。
僕はみちるを見る。
由梨恵やアリッサ、それにこうちゃん。
この三人はお金を持っている、社会的な地位もある。
けれど……みちるは普通の高校生だ。
稼ぎなんて、ない。
もしみんながお金を出し合うってなったら、みちるはお金を出せなくなる。
そうすると、彼女は遠慮してしまう。
だから……僕が全額払う。
女の子達はお金を払わないで統一する。
それが……一番なのだ。
「言い出しっぺは僕なんだから、僕に払わせて。大丈夫、金は……ある!」
『おおー! かみにーさまかっけー! ひゅー素敵ぃ!』
僕はみんなを見渡す。
「一緒に住もう。それで……よりみんなを、理解しよう。ね? どうかな?」
僕は女の子達を見渡す。
「はいはーい! 私は賛成! だって楽しそうだもん!」
由梨恵が誰よりも先に、笑顔で手を上げる。
ぴょんぴょんっ、と飛び跳ねて……楽しそうだ。
『こうちゃんも賛成ですね。かみにーさまとのラブラブライフ……あこがれるぅ……! ……決して実家だと、親や姉たちが小言うるさくて、自堕落に過ごせないからじゃないよ? ほんとだよ?』
こうちゃんも手を上げる。
目をそらしているのはなんでだろうか?
「……わたしも、ユータさんが、そうしたいというのなら……我慢します」
アリッサはちょっと否定的みたい。
ちらっ、とみちるを見て言う。
みちるのこと、あんまり好きじゃないからかな。
でも……これから、好きになって欲しい。
「みちるは?」
「うう……うう~~~~~~~~!」
「僕は……君にも来て欲しいな」
「あーーーーもうっ! ずるいわよ! あんたにそんなお願いされたら、断れないじゃないっ!」
「じゃ、じゃあ!」
みちるは顔を赤くして、腕を組み、そっぽ向きながら言う。
「アタシも、参加するわっ」
よし、これで決まった……!
『神作家……第三章、美少女4人同居編、スタートです!』
こうちゃん、どこ見ながら言ってるの?




