78話 昨晩はお楽しみでしたね
僕の家に編集の芽依さんが、見本誌を届けに来た。
だがタイミング悪く、みんなが寝間着姿で芽依さんのもとに姿を現した。
リビングにて。
「先生。こんな美少女4人に囲まれて、昨晩いったい何をしていたのかな? ん? 何してたのかな?」
芽依さんが実に楽しそうに聞いてくる。
あかんこれ絶対いじって楽しんでるやつだっ。
『ほぅ……こうちゃんを色物マスコット枠としてでなく、きちんと美少女ヒロイン枠にいれている……この編集、仕事ができるな』
こうちゃんがしたり顔で、ロシア語で何かを言う。
たぶん意味はそんなに無いだろうから無視する。
「別に何もしてないよ。ね、みんな?」
「えー! 勇太くん何もしてないってことはないじゃん!」
ピンクの寝間着姿の由梨恵。
現在すっぴん姿なのだが、普通に可愛い。
「昨日はあんなに激しくからみあった仲じゃん!」
「おっとっとー!」
目をキラキラさせる芽依さん。
いやまあ、たしかに絡み合ったけれどもっ。
「あ、でも先生、あれでしょ? 誤解を生むような言い方をするけど、実は全然たいしたことなかったーってパターンでしょ?」
「え、ツイスターゲームしただけだけど?」
「前言撤回めっちゃ絡み合ってたー!」
芽依さんが目を剥いて叫ぶ。
『ちなみに発案者はこうちゃんです。理由? 面白そうだからにきまってるやろ!』
「たまたま取材用に買っといたツイスターゲームがあったんです。で、みんなでやろうってことになって」
「取材用って……?」
「ラブコメ今回初挑戦だったので、いろいろ準備したんです。ツイスターゲームってほら、定番じゃないですか?」
「定番……かなぁ?」
うーん、と芽依さんが首をかしげる。
「ま、まあいいよ……。健全なことしてたみたいだしね」
僕らはさっ……と顔をそらす。
ツイスターゲームの時のことは……その……。
「え、何この雰囲気? なに、ハプニングでもおきたの?」
「「「「…………」」」」
「だんまりやめてっ! え、マジで何があったのー!?」
じっ、と芽依さんがこうちゃんを見やる。
「何か知ってる?」
『いろいろありすぎて一言では言えない……ただあえて表現するならTo LOVEるが起きた。それだけだ』
こうちゃんが訳知り顔で、ロシア語で言う。
多分意味は無い。
「ねえ何があったのっ?」
今度はアリッサに尋ねる。
彼女は頬を赤く染めると……目をそらしながら言う。
「……ユータさんのお顔を」
「顔を!?」
「……挟んで」
「どこで!?」
「……上下にぐりぐりと」
「あうとぉおおおおお!」
芽依さんが全力でツッコミを入れる。
「駄目でしょ先生! 超有名歌手に何させてるの!?」
芽依さんが僕の肩を掴んでがくんがくんと揺らす。
いやたしかにアリッサの言い方じゃ、十八禁な意味合いに聞こえる! 誤解を生んじゃうよ!
「こうちゃんこうちゃん、芽依さんは何と勘違いしてたのかな?」
『それは由梨恵ちゃん。ペイズリーだよ。ほら言ってごらん?』
「ぺ? ちょっと聞き取れないなぁ」
『ふふふ……ロシア語でぼそっとエロ単語を口にするこうちゃんですよ。これは勝ちタイトル。売れる』
こうちゃんロシア語でみんなが理解できないことを良いことに、またロクデモナイことを言ってそうだった。
最近彼女の顔を見れば言いたいことなんとなく察するようになった。
「ちょっとアリッサ、なに誤解生むようなことをワザと言ってるのよ!」
今まで黙っていたみちるが眉間にしわを寄せて叫ぶ。
「……ああ、いたんですかあなた」
「居たわよ。なにケンカ売ってるの?」
「……いいえ。ただ……勇太さんの幼馴染みという属性しかなくて、影が薄いなと思いまして」
「あ゛あ゛ん? ふざっけんなこの無駄乳女! もぐわよ!」
みちるがアリッサを押し倒してぎゃーぎゃーと叫ぶ。
「先生を巡っての骨肉の戦い! 修羅場! だめよみんな! 先生は神作家なんだから、刺しちゃだめよ!」
「芽依さん大人なんだから止めてくださいよ!」
突っ込みなのかボケなのかわからないなこの人!
でもなんか大真面目な顔してるし!
『かなーしーみのー』
「こうちゃん歌詞がわからなくてもメロディーでわかるからねそれ」
『こうちゃん知ってるよ、バッグを開けるとかみにーさまの首から上が入ってるヤツな』
ややあって。
「なるほど……じゃあ単に先生の家にお泊まりしただけだったのね」
芽依さんに事情を話したところ、納得したようにうなずく。
「よかった、先生が刺されて死んじゃうんじゃないかって心配しちゃったよ」
「だ、大丈夫ですよ……ねえ、みんな?」
僕は彼女たちを見やる。
「もちろんだよ! 勇太くんを刺すなんてあり得ない!」
『こうちゃん人畜無害キャラなのでそういう荒事はちょっと』
由梨恵とこうちゃんはすぐに否定してくれる。
「……わたしももちろん」
「どーだか。他の女に勇太取られて刃傷沙汰になるんじゃないの?」
アリッサに対してみちるが疑いのまなざしを向ける。
「……あなたと違って自制心がありますので。感情が暴走して、突飛なマネをするようなことはしません」
「ぐぬ……あ、あのときは……どうかしてたのよ……! 反省してるわよ!」
みちるに振られてから仲直りするまでの間のことを、アリッサは言っているのだろう。
確かにあのときのみちるは、普段の彼女とはちょっと違っていた気がする。
そんなやりとりを芽依さんは見つめて、得心顔で言う
「まーでも、あれだ。先生」
「な、なんですか?」
このままさっさとお帰りいただきたい……と思っていたタイミングで、彼女がこんなことを言った。
「結局だれが、本命なの?」
……そんな、爆弾を投下してきたのだ。




