77話 編集さん来訪
お祭りの翌朝、僕が8時くらいに起きて作業していると、玄関でチャイムが鳴った。
「だれだろ?」
僕は2階の自室から1階へ降りていき、玄関を開ける。
「はーい……って、芽依さん」
僕の担当編集、佐久平 芽依さんがそこにいた。
朝から暑いというのに、半袖シャツにタイトスカートというカッチリとした格好だ。
「やっ、先生おはよう! 今日も暑いね~」
芽依さんは汗をかいていた。
ふわりと甘い大人の匂いが鼻腔をくすぐりどきどきする。
「中に入ってください。お茶いれますので」
「あ、ごめんね! ありがとー! 暑くってねー!」
芽依さんは段ボールを抱えていた。
なんだろう?
麦茶を入れてリビングへ行き、お茶を出す。
ごきゅごきゅっ、とすごい勢いで芽依さんが麦茶を飲み干す。
「ありがと、先生! おいしかったー!」
ちらちら、と芽依さんが僕に目配せをする。
「あ、えっと……おかわり……」
「いる!!」
結局3杯くらい飲んで、芽依さんはホッと一息つく。
冷房の効いたリビングにて。
「先生、朝早いね」
「6時には起きてますので」
「6時!? なんでそんな早くに起きてるの?」
「え、小説書いてますけど……」
僕は起きたらまず、更新用のネット小説を書く。
で、書けたらその日のうちに投稿する。
「なるほど……さすが神作家。朝活を日常の一部にいれてるとは……」
「それで、芽依さんはどんな用事? 父さんですか? 昨日は母さんと一緒に外に泊まってますよ?」
父さんと母さんはデートして、帰りは今日の朝と連絡が来ていた。
「仲が良い夫婦ですね」
「うん。結構頻繁にデートしてるよ」
むふふ、と芽依さんが楽しそうに笑う。
「これは3人目も近いか?」
「なっ、何言ってるんですか、あり得ないですよ」
ややあって。
「で、今日来たのは……じゃーん! 見本誌です! SR文庫の!」
SR文庫とは、父さんが立ち上げた新レーベル【STAR RISE文庫】の略称だ。
「出来たばかりの見本誌、先生に見せたくって!」
「わざわざ持ってきてくれてありがとうございます! 言ってくれれば取りに行ったのに」
「あはは! 神作家を見本誌のためだけに召喚なんてできないよー」
神作家って……なんか久しぶりに言われたような気がするなぁ。
まああんまり好きな呼ばれ方じゃないのでいいんだけど。
「ちなみに白馬先生と黒姫先生の見本誌も出来てます。いる?」
「いる!」
どちらも僕と一緒にSR文庫の創刊ラインナップになっている。
「はいじゃこれ。ちょいおトイレかりまーす」
白馬先生のハイファンタジー……面白そう!
黒姫先生……エリオちゃんのSF……こっちも!
「ふむふむ……うん! やっぱりどっちも面白いや!」
「え?」
戻ってきた芽依さんが、目を丸くする。
「も、もしかして……もう読み終わったの? 2冊とも?」
「え、うん」
「い、いや……あたし、トイレ行って、麦茶とってきて……って10分もかかってないけど?」
「え、10分もあれば文庫本2冊くらい、余裕で読めるよね?」
ぽかんと口を開く芽依さん。
だがすぐにはぁ……とため息をついて言う。
「さすが神作家。読むスピードも書くスピード同様に尋常じゃ無いわ」
僕は大事にふたりの見本誌のページを閉じる。
「ふたりとも売れますねこれ」
「ねー。そしてカミマツ先生の新刊も、これめっちゃ売れますよ! 絶対!」
今回ラブコメに初挑戦した。
結構苦戦したけど……でも最終的には良い感じに書けた。
「創刊レーベルどれも大ヒット間違いなし! ありがとう、カミマツ先生!」
「あはは、お役に立てたら何よりです」
と、そのときだった。
「ふぁー……勇太くんおふぁよー……」
眠い目をこすりながら、由梨恵が2階から降りてくる。
「え……?」
ぽかん……と芽依さんが目を丸くする。
し、しまった……!
「せ、声優の……こ、駒ヶ根由梨恵……さん? なんで……先生の家に、パジャマで?」
びっくりしている芽依さん。
やばいこれはまずい! と思うまもなく、ぞろぞろと美少女達が降りてくる。
アリッサ・洗馬、みさやまこう。、そして……大桑みちる。
みんな眠たそうで、パジャマ姿。
お祭りの後みんな泊まったのである。
「…………先生。ちょーっと事情聴取、してもいい?」
がしっ、と芽依さんが僕の肩を掴む。
怒ってる……のか? それとも……びっくりしてる、のか。両方……かな。
「美少女クリエイターたちと、ナニをしたのかな? 昨晩。ん? お姉さんに教えてみ? ん?」




