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【完結】高校生WEB作家のモテ生活 「あんたが神作家なわけないでしょ」と僕を振った幼馴染が後悔してるけどもう遅い  作者: 茨木野
第2章

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75話 幼馴染みは、迷子になる



 上松あげまつ 勇太は、友達と一緒にお祭りに来ている。


 一通り見て回ったときのこと。


「やば……居ないじゃん、勇太たち」


 みちるは1人、ため息交じりに言う。


 先ほど、迷子の小さな子どもを見つけた。

 みちるは1人、迷子センターまで送り届けてきたのだ。


 すぐに戻れば大丈夫と思ったのだが……勇太達の姿は見えず。


 携帯に一応連絡は入れたもの、電話もLINEも通じない。


「ま、先に帰るのがベストかしらね」


 残り3人は土地勘がないから、勇太がいないと家に帰れない。


 一方でみちるは子どもの頃から何度もここを訪れたことがある。


 帰り道もだいたいわかる。


 踵を返して、みちるは来た道を戻る。


「…………」


 幼い頃、いっしょに出店を回った。

 あの頃は勇太が側に居ることが当然だと思っていた。


 側に居すぎて、気づけなかったのだ。

 自分の彼への想いに。それが、告白を手ひどく断ったという失敗へと繋がる羽目となる。


 ヨーヨー釣りの出店をふと見かける。


 ここで2人で仲睦まじく釣りを楽しんでいたのが、遥か遠くの出来事に感じられた。


「……前みたいに、また……」


 だめね、とみちるが首を振る。


 ゼロから関係を再スタートさせることには成功した。


 だがどうしてもシコリのようなものはある。


 勇太を振ってしまった事への罪悪感、そして……後悔。

 

 あのとき告白を受け入れていれば良かったと、何度後悔したことか……。


 と、ぼんやり見ていたそのときだ。


 ドンッ、と誰かが肩をど突いてきたのだ。


「おいおいおいおい! どうしてくれんのー?」


 強面の男2人組が、みちるを見下ろす。

 男はかき氷をもっていた。


 みちるがぶつかったことで、服に氷が付着し、シロップで汚れてしまっていた。


「これ高いシャツなんだけどよぉ? なぁどうしてくれんの?」


「あ……ぁ……」


 気の強いみちるだったが、こういう手合いの男は……苦手だった。


 というより、軽いトラウマになっていた。

 彼女が思い出すのは、夏休み前の体育館倉庫。


 中津川に強姦されかけた時のこと。


 ……あの日以来、みちるは強面の男に向けられる悪意に、萎縮するようになってしまったのだ。


「弁償してくれよぉ。なぁ、べんしょー?」

「もちろん、その爆乳ボディで払ってくれてもいいんだぜぇ? げひゃひゃ!」


 下卑た笑いを浮かべる2人。

 こいつらがわざとぶつかったことは明らかだ。


 だが……それに気づけぬほど、みちるは怯えていた。


 中津川と2人が重なる。

 恐怖心が頭をもたげ、体が恐怖で動けなくなる。


 助けも……呼べない。

 怖くて、怖くて……震えることしかできない。


「とりまラブホ近くにあるから、そこいこっか。ドライヤーも風呂もあるしぃ」


 無遠慮に肩を掴まれる。

 ぐいっ、とまったくこちらを気にせず、ふたりはラブホテルへと連れ込もうとする……。


 いや、助けて……勇太!

 声なき声を心の中で上げた、そのときだ。

「ん? なんだぁ……雨?」

「いや……これは……さ、札だ! 一万円札!?」


 バラバラと頭上から無数の紙幣が降り注いできたのだ。


「こっち!」


 不良達が金に気を取られている間に、誰かが自分の手を引いた。


「……ゆう、た……」


 上松あげまつ 勇太が汗をかきながら、みちるを連れて全速力で駆け出す。


 おそらく彼がもっていた金をばらまいたのだろう。


 ……みちるは泣きそうになる。


 どうして彼は、いつも自分が困っているとき、助けてくれるのだろう。


 中津川にレイプされそうになったときも、誰よりも彼が早く駆けつけてくれた。


 彼は子どもの頃からそうだ。

 ……ああ、思い出した。


 昔もここで迷子になったときがあった。

 そのとき、彼が見つけて、こうやって笑って、手を引いて帰った……。


 やがて、彼が足を止める。


 出店の少ない場所へと移動していた。


「良かったすぐに見つかって。ごめんね、ひとりにしちゃって」


「…………」


「みちる……?」


 彼女は無言で、幼馴染みの彼に抱きつく。

 ぎゅっ、と強く……強く抱きしめる。


「どうしたの?」

「…………」


 好き、と心の中でつぶやく。口にする勇気はなかった。


 彼が神作家だから、ではない。

 上松 勇太が心から好きだから。


 好きだからこそ、口に出して断られたくなかったから、言えなかった。

 

 またゼロから関係を始めようと彼は言ってくれた。


 だがとっくにみちるの中での勇太への好意は、限界突破していた。


 好きで、好きで、たまらない。

 なのに、彼の自分への好意はゼロに戻ってしまった。


 ああ、なんて……なんて自分は……バカなことをしたんだろう……。


 どうして、彼を傷つけるようなマネをしちゃったんだろう……。


 だから、彼女の口から出たのは……。


「ごめんね、勇太……」


 そんな謝罪の言葉であった。

 けれど勇太は笑って首を振る。


「気にしないで。幼馴染みを助けるのも、幼馴染みの勤めってヤツさ」


 ああ、違うんだよ勇太。

 みちるは心の中で首を振る。


 謝ったのは、勇太の心を傷つけたことに対する謝罪だ。


 さっき助けてもらったことへの罪悪感ではない。


 謝って済むとは思えない。だから伝わって無くて良かったと思った。


 みちるは彼を見上げて、笑う。

 

「ありがとう、勇太」


 好きよ……と言う言葉は、飲み込んで。

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★新連載です★



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― 新着の感想 ―
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