70話 上松家の夕飯時(+美少女4人)
僕の家に由梨恵達が集まって、夏休みの宿題をしていた。
その日の夕方。
僕んちのリビングにて。
「勇太ぁ! 孫が生まれたって本当かいー!?」
リビングに入ってきたのは僕の父さん。
出版社に勤めており、今度新しいレーベルを立ち上げたばかりだ。
「誰だよっ、そんなデマ流したのっ!」
「あらあら、一体誰かしらね~」
母さんが後ろ手にスマホを持っていた。
犯人……!
「わぁお! 美少女クリエイターが勢揃いじゃないかぁ! ひょー! なになに、今日は何か特別な日なのかい?」
「いや……みんなで夏休みの宿題やっててさ」
人数が多いからと場所をリビングに移動させたのである。
まああの部屋に五人は確かに狭いよね……。
「くぅう! いいなぁ勇太。ぼくも夏休みほしいぃいいい!」
父さんはリビングの床に寝転がってジタバタと手足を動かす。
「あなた、みっともないマネは辞めなさいな」
はぁ、と母さんがため息をつく。
じーっ、と母さんのスカートの中を覗いている父さん。
「ふっ……黒……ぷぎぇええええ!」
母さんが父さんのお腹を踏んでぐりぐりとする。
「スカートの中を見るなんて、今日日小学生でもしませんよあなた♡」
「ま、マイハニぃいいいいぐりぐりやめてぇええええ中身でちゃぅううううう!」
その様子をこうちゃんが神妙な顔つきで見ている。
『この夫婦いつもDVしてるけど……どうやって付き合い始めたんだろう……SとMな関係?』
「こうちゃん……ロシア語で何言ってるかわからないけど、多分違う」
『かみにーさまはSなお母様と、Mなお父様のどちらの遺伝子を引き継いでるのか……わたし、気になります……!』
「こうちゃんロシア語で」以下省略。
ある程度宿題が進んでいくと、夕方になった。
「みなさんお夕飯ができましたよ~。勉強は一旦おやすみしましょー♡」
母さんが僕らのもとへやってきて言う。
『うぉっしゃー! めしだー! 勉強なんてやめやめぇい!』
光の速度でこうちゃんが台所へ向かった。
きみ勉強マジでなんもやってなくない……?
「疲れたわぁ~……」
「ほんとだねぇ~……」
みちると由梨恵が机に突っ伏している。
ふたりはわりと真面目に宿題やっていた印象。
「……………………」
「アリッサ? 起きて、アリッサ」
びくんっ、とアリッサが体を痙攣させる。
ゆっくりと目を覚まして……ハッ……! と青い目が大きく見開かれる。
「おはよう」
「……お、おはようござます……すみません」
顔を赤くして体を縮めるアリッサ。
「仕事で疲れてたんだよね? おつかれさま」
「……ユータさん♡」
目を♡にして、アリッサが僕の隣に座る。
ぴったりと寄り添って、頭を載せてくる。
「……子どもは何人がいいですか♡」
「いやあのアリッサさん!?」
「お母さんは三人くらいが良いかしら♡」
「いやあの母さん!?」
なにさらっと会話に混ざってきてるの!?
「勇太」
「父さん……?」
父さんが真面目な顔で僕の肩をぽんと叩く。
「女の子5人くらいがいいな。一つ屋根の下五人の可愛い孫に囲まれての介護ライフ希望」
父さんェ……。
欲望に忠実すぎないこの人!?
「大丈夫よあなた♡ ボケたら山の中の老人ホームにすぐにぶち込んであげますから♡」
母さんがボウルに入ったざるそばをもってやってくる。
今日はじいちゃんの家からもらったおそばらしい。
「母さん!? 死ぬまで一緒に居ようよねえ!」
「トリカブト……青酸カリ……」
「不穏なワード混ぜないで!? え、夕飯に変なもの混ぜてないよね!?」
「そんなことするわけ無いじゃない♡ ちなみに生命保険には入ってますよ♡」
「要らないよその注釈ぅうううう!」
ややあって。
『ふぃー……信州おそばうまかった~……』
夕飯の後、リビングでこうちゃんが仰向けになって眠っている。
由梨恵がお腹をぽんぽんとさすっている。
「アリッサさん、勇太くんの実家行ったのってほんと?」
「……ええ。二人きりでホタルを見に行きました♡」
「いいなぁー! 私も実家いってみたかったなぁ~」
アリッサと由梨恵が和やかな会話する。
みちるは母さんと一緒に洗い物をしていた。
「ところで勇太ぁ。いつ四人と結婚するの-?」
父さんが横になりながら僕にそんなことを聞いてくる。
「いやここ日本、重婚できないから」
「いーじゃん。なんかさぁ。こう、みんな仲いいじゃない? みんなでここ住んじゃおうよぅ」
ぴきーん、と由梨恵とアリッサが目を光らせる。
「お、おじさま……いいんですかっ?」
由梨恵がずいっ、と身をのりだしていう。
「ああもちろん! 開いてる部屋を使うと良いさ!」
「……よろしいのですか、お父様」
「おとうさまきちゃーーーーーー!」
父さんが一人大興奮している。
いやいや、何をバカなこと言ってるんだろうか……?
『こうちゃんも、かみにーさまと同居希望。ほら、最近は美少女と一つ屋根の下系ラブコメ流行ってるじゃん? 流行にのっていこうぜ~』
はいはい、とこうちゃんが手を上げている。
まさかいっしょに住みたいのかな……?
「あらあら、楽しそうね~♡」
「バカなこと言ってんじゃないわよまったく」
みちると母さんが台所から帰ってくる。
その手にはお盆が、そしてその上にはカットされたスイカが載ってある。
『すいかぁ! 夏の定番デザートぉ! お母さんわかってるぅううううう!』
こうちゃんがコロコロ転がって、誰よりも早くスイカをゲット。
子リスのようにしゃくしゃくしゃく……とかじりだした。
「勇太。ん」
みちるが僕に食塩を渡してくる。
「ん。ありがと」
それを受け取って、僕はスイカに振りかけて食べる。
「勇太くん……なにそれ?」
「え? お塩」
由梨恵が目を丸くしている。
「し、塩? 塩なんてかけるの……?」
「そうだよ。甘くなるんだ。かけてみる?」
「みるみるー!」
こういうとき由梨恵は躊躇しないよね。好感が持てるよ。
ぱっぱっ、と由梨恵は塩をかけてスイカをかじる。
「ん~♪ あまくておいしー!」
どうやら塩かけてスイカ食べるのが気に入ったようだ。
『ふっ……こうちゃんは塩はかけません。素のままのスイカが一番美味しいのです。ちなみに酢豚にパインは入れない派閥』
こうちゃんが寝転びながらスイカをかじってる。
「あースイカのしる垂れてるわよ。ちびすけ」
みちるがティッシュでこうちゃんの口の周りを拭っている。
その様子を見ていた父さんが……うん、とうなずく。
「あ、これそう遠くないうちに同居する流れだわ。今でも十分仲いいし」
うんうん、と父さんがまたおかしなこと言い出す。
「いやぁ、美少女四人に囲まれて同居生活とか、どこのラノベの主人公ですか、ちくしょう勇太! うらやましいぞ!」
『ところがどっこい、かみにーさまはすでにラブコメラノベの主人公なのでした』




