69話 密室で修羅場
僕の家に幼馴染みのみちる、声優の由梨恵、歌手のアリッサ、そして神絵師こうちゃんが集まっている。
みんなで夏休みの宿題をすることになったのだけど……。
「あの……皆さん? どうして……真っ白なんです?」
彼女たちが学校から配布されている問題集は、どれも手つかず状態でおいてあった。
「あ、あはは……仕事が忙しくてさー」
由梨恵は確かに毎日すっごい忙しそう。
夏休みは特に外でのイベントが多いんだって。
お兄さんの白馬先生は『毎日マイシスターの帰りが遅くって私は心配だよ』って言っていた。
大変そう。
「……わたしも、夏フェスなど、学業に割ける時間がほとんど取れません」
この間の長野以外でも、音楽イベントが多いそうだ。
それにそろそろデジマスの第二期がスタートする。
その関係での露出や仕事も増えてきて、本当に毎日忙しいらしい。
お手伝いの贄川さんから『お嬢が体調を崩さないか心配でさぁ』とこの間相談を受けた。
大変そうである。
「わ、ワタシも……イベントで、忙しくって!」
「こうちゃんはスマホゲーのイベントでしょ?」
「あぅ……見抜かれてる……」
他2人と違ってこうちゃんは外での仕事をほとんどしていない。
「てゆーかチビ助って本当に凄いイラストレーターなの?」
みちるが懐疑的な目をこうちゃんに向ける。
「す、すごい……もん!」
「ほんとに? なんかあんたからオーラ感じないんだけど」
「お、オーラ……」
こうちゃんがショックを受けたような表情になる。
「かみにーさま……! ペン……かして!」
「う、うん。てゆーかこうちゃん、自分の筆記用具つかえば?」
「そんなものはない!」
ないんかーい。
宿題やりに来たのに筆記用具持ってないって……まあいいけど。
こうちゃんは僕から鉛筆を受け取り、白紙の問題集を前にする。
「見るがいい……神絵師の真の、力を!」
こうちゃんはもの凄い速さで問題集に絵を描いていく。
『右手で問題集をとき……左手でポテチを、食べる……!』
こうちゃんが問題集に絵を描きながら、僕が用意したポテチを食べる。
それに何の意味が……? と思ったけど片手間で凄いスピードで絵を描く彼女は確かに凄かった。
ほどなくして、こうちゃんが絵を完成させる。
「わっ。すごい……! デジマスのリョウだ! すっごい上手いよー!」
僕のデビュー作、デジマスの主人公のリョウが、そこに描かれている。
本物のイラストレーターさんが書いてくれたリョウと、同じくらい……いや、それ以上にかっこよく描かれていた。
『ま、本気のこうちゃんにかかればこんなものですよ』
ふふーん、とこうちゃんが胸を張る。
「ご、ごめん……あんた凄いのね。見直したわ」
「わかれば……よろしい」
むふー、と満足げにこうちゃんが鼻を鳴らす。
『かみにーさまー♡ 上手にかけてるー? ほめてほめて~』
こうちゃんが笑顔で僕に問題集を渡してくる。
「うん、絵はすごい上手だよ。さすが神絵師だ」
「ふへー♡」
「けどね……こうちゃん。これ……学校に提出するやつだよね?」
ハッ……! とこうちゃんが目を剥く。
「ど、どうしよう……」
「残念だけど消すしかないね、もったいないけど」
「しょんにゃぁ~……」
見るからに落ち込んでいるこうちゃん。
そうだよね、ここまでしっかり書いたのに、消されるのは辛いだろうに……。
「あ、そうだ」
僕は問題集をスマホで検索する。
やっぱり、アマゾンで同じ物が売られていた。
僕はお急ぎ便で購入する。
「明日には同じ物届くよ。どうせ一文字も書いてなかったわけだし、そっちで宿題やって提出しようか」
「! かみにーさまぁ!」
こうちゃんが僕に抱きついてくる。
幼い体型かと思ったけど……くっつくと、薄いけどおっぱいがあること気づいてドキドキする。
『うう……やっぱりかみにーさま優しい……ちゅき……大好き……♡ 結婚して養ってほしい……♡』
「ロシア語で聞き取れないけど、こうちゃん、ちょっと離れようね」
アリッサはイライラしてるのか、鉛筆をへし折った。
みちるは不機嫌そうにトントントントン……と机を指でつついている。
「2人とも仲いいな~」と由梨恵だけがのんきにそう言っていた。
ややあって。
僕らはクーラーの効いた部屋で宿題をする。
女の子4人に対して、男1人。
しかも密室……なんだかえっちぃな。
「勇太くん、ここ教えてー」
由梨恵が数学の問題集を持って、僕の真横に座る。
ぐにゅっ、とその大きなおっぱいが僕の肘に当たる!
「ちょっと勇太ぁ。あ、アタシもわからないところあるんだけどぉ?」
みちるもまた問題集を持って逆側に座る。
由梨恵に負けず劣らずの大きな胸が逆の肘に当たる!
『かみにーさまが美少女2人に挟まれて……おっぱいサンドイッチになってる……ぐぬぬ……こうちゃんの胸があと数センチあれば……ぐぬぬ……』
こうちゃんは完全に勉強やる気無いのか、顎をテーブルの上に乗っけて何かをつぶやいていた。
「……ユータさん。鼻の下がのびてますよ?」
アリッサが不機嫌そうに言う。
「い、いや決してやましい気持ちなんてこれっぽっちも……」
「えー? それはそれで……ショックだなぁ~……」
しょんぼり、と由梨恵がうつむく。
「あ、いやその……」
「勇太……アタシのじゃ……足りない?」
ぎゅっ、とみちるが僕の腕を掴んで、潤んだ目で見上げてくる。
ひぃい! 柔らけえ! でも……地獄ぅ! アリッサから針のような視線を感じるよぉ!
『おっとかみにーさまを巡っての修羅場が発生だー! 三つ巴の巨乳戦い! しかしわたくしこうちゃんは残念ながらぺちゃぱいなので参戦できずー! ちくしょー!』
こうちゃんはなんだか楽しそうだっ。
「……どいてください」
アリッサが立ち上がって、みちるの隣にやってくる。
「嫌。絶対に譲らないから」
「……では由梨恵さん、どいてくださらない?」
「私も……やだっ! 勇太くんの隣は、アリッサちゃんでも譲りたくないもんっ!」
ジッ……と3人の視線がぶつかり合い、なんだか剣呑な雰囲気になってきたっ。
『やれやれ~修羅場れ~巨乳は潰し合って絶滅するがよい~』
こうちゃんは肘をついて横になり、ポテチをむさぼりながら僕らを見ている。
絶対楽しんでるでしょこの状況をっ。
「さ、3人とも落ち着こう。今はほら、勉強の時間だから……ね?」
不承不承といった感じでアリッサが僕の正面に座り直す。
ホッとしたのもつかの間……。
「……ふぅ。ここ……暑い、ですね」
アリッサがシャツを脱いで……キャミソール一枚になる。
「「「なっ……!?」」」
『おっとっとー? アリッサ選手まさかのおはだけだー! 彼女のとんでもなくでっっけえパイパイがまろびでるー! これは思春期男子にはたまらないー!』
こうちゃんのロシア語が耳に入らないくらい……キャミソール一枚のアリッサから、目をそらせなかった。
薄い布の向こうでは、彼女の形の良い胸がうっすらとだけど見える。
え、え、うそ? ブラジャーして……ないの!?
「……ええ、してませんよ♡」
「そんな……」
ふらふらと彼女の胸に吸い寄せられそうになる僕……。
「勇太! あんなの見ないのっ! あ、アタシを……見なさいよ!」
ぐいっ、とみちるが負けじとタンクトップを脱ぐ。
スポーティなタイプのブラがっ、え、これブラじゃないの? ブラじゃないの!?
「わ、私も……えいやっ」
由梨恵は肩からかけていたカーディガンを脱いで薄着になる。
ああもう、みんな何してるのさこれー!
『ふっ……こうちゃんは1人高みの見物ですよ。なぜなら……貧乳のおはだけシーンなんて需要無いですからねー! けー!』
こうちゃんがなんかやさぐれてるしっ。
ああもう、メチャクチャだよ!
こんなところ誰かに見られたりでもしたら……。
と、そのときだった。
「ゆーちゃん♡ みーちゃん♡ アイス買ってきたわ……よー……」
「か、母……さん……」
僕の部屋に、買い物にでかけていた母さんが入ってきたのだ。
『OH……息子の部屋。上半身裸の美少女3人……これは気まずい……』
母さんはいつもの笑顔を保ったまま、無言ですすす……と引っ込む。
「待って待って母さん待って!」
僕は由梨恵達を押しのけて、母さんの元へかける。
「あのね母さん違うんだ!」
「あらあらゆーちゃん、良いのよ♡」
「やめて! それ多分誤解だから!」
「孫の顔……早く見られそうで、お母さんうれしいわ♡」
「だから違うんだってばもぉおおおお!」




