表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】高校生WEB作家のモテ生活 「あんたが神作家なわけないでしょ」と僕を振った幼馴染が後悔してるけどもう遅い  作者: 茨木野
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/236

67話 幼馴染、アイドル声優と友達になる



 上松あげまつ 勇太の幼馴染み、みちる。


 彼女の家にアイドル声優・駒ヶ根こまがね 由梨恵ゆりえが訪れていた。

「ふぅー! さっぱりしたー!」


 黒髪の美少女、由梨恵が風呂場を出てリビングへと戻ってきた。


「おかえり」


 みちるは台所に立って夕飯の用意をしている。


「着替えのシャツありがとー! 下着とかも助かっちゃったっ」


「別に良いわよ」


 由梨恵が着ているのはみちるの部屋着だ。

 由梨恵の方が背が高いため、シャツのサイズが若干あってなさそうだ。


 タオルで髪の毛をふく由梨恵は、おへそがチラリと見えている。


「みちるちゃん何作ってるの?」


 由梨恵が興味深そうに、みちるの手元をのぞいてくる。


 ふわりとシャンプーの甘い香りがした。

 振り返ると彼女は、みちるにくっついて肩越しにのぞき込んでいる。


「ちょっ、ちょっとあんた近いわよ距離が……」


 みちるのパーソナルスペースはかなり広い。

 だが由梨恵はそんなの気にする様子などいっさいなく、ぐいぐいと近づいてくる。


 苦手だ……とみちるは内心で吐息をつく。


「わっ! カレーだ! おいしそー!」


 ぐぅ~~~~~! と由梨恵のお腹が大きな音を立てる。


「あんた……アイドル声優なんでしょ……?」


「アイドルでもお腹は減ります!」


「ま、まあそうね……うん」


「わぁ……おいしそうだなぁ~……」


 たらり……と由梨恵がよだれを垂らす。


(本当にアイドルなの……いや、アイドル声優か。まあどっちでもいいや……)


 なんだか由梨恵に対していろいろ考えるのが馬鹿馬鹿しくなってきた。


「夕飯食べてく?」

「いいのっ? わーい! みちるちゃん大好きー!」


 由梨恵が後ろからギュッ、と抱きついてくる。


「ちょ、ちょっと! ちょっと離れて! 危ないじゃない! 火使ってるんだから」


「あ、そっか! ごめんごめん!」


 ぱっ、と由梨恵が笑顔で離れる。

 本当に素直であった。


「みちるちゃん手伝うよ!」

「いや……良いわ。もうできてるし」


「むぅ……でも何もしないのは申し訳ないよ!」


 住む世界が違う女だと思ったけど、なかなか気さくな……普通の……というか普通に良い子だった。


「……そう。じゃ、そこの棚から食器取り出して」


「了解だよっ!」


 ややあって。

 みちると由梨恵はリビングのテーブルを挟んで座っている。


「いただきまーす!」


 由梨恵はスプーンを持って笑顔で言う。


 ハグハグ……と凄い勢いでカレーを食べていく。


 どことなく子犬感があって可愛いなと思った。


(……可愛いって、いや相手は女よ)


「おいしー! みちるちゃんっ、これすっごくすっごくおいしいよー!」


 夏の太陽のように眩しい笑顔。

 さらに勇太以外の他人(会ったばかり)からストレートに褒められたことで、みちるは照れてしまう。


「あ、あっそ……どうも」


 この子相手だとどうにも調子が狂う……。

  

「前に勇太くんの家に泊まったときも思ったけど……みちるちゃん料理上手だよね。すごいなぁ」


 そこに裏があるようには思えなかった。

 純粋に彼女は思ったことを口にしている感がある。


「別に……普通よ」

「ううん、普通こんな美味しい料理は作れないよ! すごい! みちるちゃん料理上手! 天才だ!」


 口の周りにカレーをつけて、子供みたいに思ったことを口にする彼女を見て……。


(ああ、この子……そういう子なんだな)


 純粋無垢な美少女。

 それはみちるが最も憧れるものだ。


 彼女はかつて動画配信者をやっていたことがある。


 それは自分に対する承認欲求があったから。

 裏を返すと、自分に自信のなさがあったから。


 けれど目の前の少女は、違う。

 自然体にしているだけで、誰からも愛されている。


 本当なら羨ましくて仕方が無いと妬むところだけど……。


「あんた、口にカレー付いてるわよ?」

「えっ、どこどこっ」


 わたわたと慌てる彼女が可愛らしくて、みちるはつい微笑んでしまう。


 箱ティッシュから1枚手に取る。


「動くんじゃないわよ」

「はーい!」


 由梨恵の口元を拭いながら、くすり……とみちるは微笑んでしまう。


「どうしたの?」

「あ、いや……なんでもないわ」


 妹が居たらこんな感じだろうか……と思ってしまったのは胸に秘めておこう。


 見た目麗しく素直で、しかも巨乳な妹がいたら……自分だったら劣等感で潰れてしまっていただろうから。


 ほどなくして、カレーを食べ終えた。


「いやぁ、みちるちゃん本当に料理上手だね! 尊敬しちゃうなぁ」


 食後の麦茶を2人で飲んでいる。

 いつの間にか由梨恵は自分の隣に座っていた。


 距離が近い……と拒むことはない。

 こういう子なのだと思えば、なれるというものだ。


「みちるちゃんはいいお嫁さんになるよ!」


「……なれないわよ」


 好きだった幼馴染みと微妙な間柄になってしまったからだ。


 ……あの日、勇太からの告白を断ってしまったことを、みちるはずっと後悔している。


 今でこそ許されたけれど、でも勇太の自分への本当の気持ちはどうなんだろうと考えることが多々ある。


 ……いや、彼の周りには由梨恵を初めとした、自分よりも人気もあってスタイルも良い美少女達が居るのだ。


 自分の入り込む余地なんて、ない。


「そんなことないよっ」


 由梨恵がずいっと顔を近づけて言う。


「みちるちゃん可愛いし、優しいし、お料理も上手だし……男の子がほっとかないよ!」


 大きな黒い瞳がすぐ側にある。

 ……ああ、なんて澄んだ眼をしているのだろう。


「そ、そんなことないわよ……男の子は、あんたみたいな、明るくて性格の良い子のほうがいいって思ってるわよ」


「誰かにそう言われたの?」


 ジッと由梨恵が自分を見てくる。

 その透き通った瞳には悪意は全く感じられなかった。


 単純に聞いてきている。


「いや……言われたことないけど」


 だからこそ、ストレートに返すことができた。


「じゃあそれ勝手にみちるちゃんが思い込んでるだけでしょ? もったいないよ、せっかくみちるちゃん可愛いのにっ。もっと自信持って!」


 ねっ、と由梨恵が微笑む。

 出会ったばかりの頃なら、気休めの言葉だと断じて耳にしなかっただろう。


 しかし彼女のキャラクターを知った今なら、彼女の言葉に裏表がないことを知った今なら……。


「……そう、かな」


 少しだけ、信じてみてもいいかもしれない。


「そうだよ! 知ってる? みちるちゃんみたいなの、ロリ巨乳っていって、今でも根強い人気ジャンルなんだよ!」


「いや何よジャンルって……」


 おかしくって、みちるもまた笑ってしまう。


 由梨恵と一緒に居るとこちらまで心が浄化されるようであった。


    ★


 21時くらいに来客があった。

 由梨恵の兄を名乗る、青年がみちるの家を訪ねてきたのだ。


「って、白馬(はくば) 王子じゃない!」


「おや、私のことを知ってくれてるのかね。ありがとう、レディ」


 白馬 王子といえば、ルックス抜群の天才ラノベ作家だ。


 そこまでオタクでない自分でも、AMOの作者であることは知っている。


 彼は顔出ししているうえに、読者モデルまで兼任しているのだ。

 認知度が高いのである。


「我が妹が大変お世話になったね。これ、ツマラナイものだが受け取ってくれたまえ」


 白馬は菓子折を手に持って、みちるに渡してくる。


「や、そんな……悪いわよ」

「いいから受け取ってくれたまえ。妹から聞いたよ、お風呂まで借りて、料理まで食べさせてもらったそうじゃないか」


「ごちそうになりましたー!」


 何の悪びれもない妹を見て白馬が苦笑する。


「さすがに世話になりすぎた。これを受け取ってくれないと、かえって申し訳がなさすぎる。どうか私を助けると思って」


「はぁ……じゃあもらうけど……」


 みちるは白馬から菓子折を受け取る。


「まったく、タクシーにサイフとスマホを忘れるなんて、なぜすぐに私に連絡しなかったんだい?」


 ふぅ、と白馬がため息をつき妹を注意する。


「仕事が終わったはずなのに連絡が何も無いからとても心配したんだよ?」


「うう……ごめんねお兄ちゃん……」


 しゅん、と由梨恵が肩を縮める。


「ま、元気そうで何よりだ。次から気をつけるのだよ」


 きらっ、と白い歯を見せて、白馬は由梨恵の頭をなでる。


「あ、そうだ! バッグをタクシーに置いてきちゃったの!」

「安心したまえ。バッグは回収しておいたさ」


「ほんとっ? ありがとー!」

「お礼は私ではなく、無償であれこれ世話してくれたみちるくんに言うのだよ」


「言いましたー! もうめっちゃお礼いったもーん!」


 仲睦まじい兄妹を見て、うらやましがるのではなく……純粋に微笑ましく思っていた。


「みちるちゃん、本当にシャツ借りてっていいの?」


 由梨恵が着ているのはみちるのシャツだ。

 洗濯物はビニール袋の中に入って、由梨恵の手にある。


「いーのよ。気にしないで。お古だし」


 濡れた服で由梨恵を帰すことのほうが嫌だった。


 それくらいには……彼女のことを気に入っているのだろうとみちるは自覚する。


「そっか。うん、じゃあまた今度来たときに返すね!」


「こ、今度……?」


 突然のことに戸惑うみちるをよそに、由梨恵がぐいぐいと来る。


「うん! また遊びに来てもいい……?」


 距離の詰め方がオカシイ……と思いつつも、また彼女と会いたいなと心のどこかで思うみちる。


「そう……ね。良いわよ……別に」

「ほんとー! わーい!」


 由梨恵はみちるの手を握って、ニコッと笑って言う。


「約束だよっ!」

「え、ええ……」


 ぱっ、と手を放すと由梨恵は外で待っているタクシーの元へ行く。


「夜分にすまなかったね」


 1人残った白馬がみちるに頭を下げる。


「あの子はちょっと人との距離感が独特なんだ。でも……嫌いにならないでくれるとうれしい」


 さりげなく妹のフォローを入れるこのイケメンに対して、いいお兄ちゃんだなと思った。


「別に。アタシも……たのしかったんで」


 フッ……と白馬が微笑む。


「それでは失礼する。夜も遅いから、戸締まりをちゃんとして寝るんだよ」


 では、といって白馬もまたみちるの元を去り、タクシーが走り去っていく。


「変な兄妹だったわ……」


 そのとき、ぽこん♪ とみちるのLINEに通知が来た。


 由梨恵からだ。さっき連絡先を交換していたのだ。


『またねー!』


 みちるはシュシュッ、とフリック入力して返事をする。


『またね』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★新連載です★



↓タイトル押すと作品サイトに飛びます↓



『キャンピングカーではじめる、追放聖女の気ままな異世界旅行』

― 新着の感想 ―
もしかして二重人格?
[一言] ある意味みちるは辛いね!破鏡・覆水盆に返らずと言うが みちるは自身の鏡と器の水を地ベタに放棄したので、勇太との16年間の全て投棄してしまったのは誰でもなく、自身の恩知らずな行動で、今後勇太と…
[一言] 由梨恵さん最初からイメージずいぶん変わったなあ。 前はしっかり者のお姉さんって感じがあったのに。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ