62話 子供達で遊びに行く
お盆の時期、僕たち母さんの実家である田舎までやってきている。
「家に居ても暇でしょう? ゆーちゃん。アリッサちゃんと一緒にどこかへ遊びに行ってきなさいな」
子供部屋にて、切ったスイカをもってきた母さんが、僕たちにそう言った。
「遊びに行くって……どこに?」
母さんの実家がある場所は山奥も山奥。
近くにレジャー施設なんてほとんどない。あってもイオンとか。
でも移動には車が必須になるんだよね。父さんには今日めちゃくちゃ運転してもらったから、また車出してもらうのは気が引ける。
「川釣りでもしてきたらどうかしら」
「なるほど……それなら自転車でいけるね」
ということで、僕は妹とななおちゃん、そしてアリッサの4人で、川釣りへにいくことになった。
庭先にある自転車置き場までやってきた。
「どれでも好きなの乗って良いよ」
ずらりと並ぶ自転車を指さして僕が言う。
じいちゃん、子供のためにと、やたらと自転車買いまくってるんだよね。
「……すみません。自転車、乗ったことがなくって」
金髪の美少女、超有名歌手のアリッサがおずおずと言う。
「えっ!? おねーちゃん自転車乗れないのかや?」
イトコのななおちゃん(男の娘)が目を剥いて声を張る。
「……ええ。子供の頃から、移動は贄川さんが送り迎えしてくれてたので」
なるほど……乗る機会がなかったのか。
「はいはーい! あたし良い提案があるよ!」
詩子がニシシと笑いながら手を上げる。
あ、これは何か企んでるなっ。
「おにーちゃんの自転車の後ろに、アリッサおねーちゃんが乗るのっ!」
「ええっ!? ……いや、それは……どうだろう?」
お金持ちのお嬢様が、僕ごときの運転する自転車に乗りたがるだろうか……?
「……のりますっ! ぜひ、ぜひとも!」
アリッサが目を輝かせながら、何度もうなずく。
ま、まあ……アリッサが良いっていうならいいか。
僕は年季の入ったママチャリにまたがる。
「……失礼します♡」
アリッサが後部座席にちょこんと座った。
そして……背後から手を回して、ぎゅーっと抱きついてくる。
す、すごい……生温かくて、もの凄い柔らかいおっぱいがくっついてる!
しかも夏で薄着だからかな、いつも以上にリアルな感触が……ええい、ダメだぁ! 邪念を振り払うのだっ。
「んじゃいこっか。しゅっぱーつ」「おー!」
僕らはチャリンコに乗って田舎のたんぼ道を走る。
「ほんと何にも無いでしょーここ」
妹の詩子がアリッサに言う。
「……そうですね。田んぼばっか。山ばっかりです」
見渡す限りのたんぼ道がどこまでも続いている。
僕らのいるこの田舎町は、さらに四方を山で囲われていた。
北側を見ると、雪が掛かったアルプスの山が見える。
夏なのに雪が残っているそれを見てアリッサが目を丸くしていた。
「あたし都会住まいで良かったーってここ来るたびつくづく思うよー。こんな何にもない場所じゃ、つまらなくて死んじゃうもーん」
「そんなことねぇだに! ねーちゃんっ! 遊ぶ場所あるもん!」
地元民のななおちゃんが頬を膨らませる。
「ほーん? たとえば?」
「ジャスコでしょ……あと……ジャスコ!」
田舎の何もなさっぷりが露呈してしまった……。
しかしアリッサは微笑んでいる。
「……でも、いいですね。ビルも何もなくて。風がとても、気持ちが良いです」
アリッサが目を閉じて風を感じる。
ふわり……と彼女の甘い髪の毛のにおいが、鼻腔をくすぐった。
「わさび農場寄ってこうよ。久々にわさびソフト食べたーい!」
母さんの実家の近くには、観光地にもなっているわさび農場がある。
このあたりで見る場所なんて、そことちょっと離れたお城くらいだ。
チャリで東へと進む。
ほどなくしてだだっ広い駐車場が見えてくる。
「あそこがこの田舎の唯一の観光スポットのわさび農場でーす」
「いや唯一ってそんなことはないよ……」
入場料を払ってわさび農場へと入る。
その名前の通りわさび畑が広がっている。
でも観光客用に水車とかあって、そこそこ都会の人からは人気があるらしい。
入り口のお土産売り場でわさびソフトとバニラソフトを4人分買う。
「……ユータさん、買ってくださってありがとうございます」
「ゆう兄ーちゃんサンキュー!」
ソフトクリームくらい、どってことないよ。
年長者はおごってあげないとね。
「……わさびが練り込んであるんですか、これ?」
手に持ったわさびソフトを見て眼を丸くするアリッサ。
「ううん。わさびの粉が掛かってるんだ」
抹茶だと思って食べる人も多い。
ぺろ……とアリッサが一口舐める。
美女がペロペロしている姿は……え、えっちぃな。
「味は、どう?」
「……か、からひです」
舌を出しながら、涙目になってアリッサが言う。
なんだろう……こう、エロいな!
「無理して食べなくて良いよ。はい、こっちのバニラ食べたら」
僕はわさびソフト苦手なので、最初からバニラソフトを頼んでいたんだ。
「っ!?」
くわっ、とアリッサが目を剥く。
「……よ、よろしいのです?」
「え? ……あっ!」
し、しまった……これ、間接キスになっちゃうじゃん!
「ご、ごめん……嫌だよね、僕の口つけたヤツなんて?」
けどブンブン! とアリッサが首を振る。
「……いただきますっ」
彼女が嬉々として、僕の食べかけのバニラソフトを舐める。
「……んっ。……はぷ。……ちゅる……ん……」
目を閉じてアリッサが、僕のアイスを一心になめる。
な、なんだろう……さっきより一心不乱にペロペロしてる……妙な気分になってくるなっ。
「ど、どう?」
「……ん。……あまい、です」
彼女が蕩けた表情で、頬を赤く染めながら言う。
「……ユータさんも、食べないのです?」
「え、えっとぉ……」
僕の手には、アリッサの食べかけわさびソフトがある。
これ……彼女が口をつけていたわけで。
「……とけてしまいますよ♡」
「いやでも……」
「……間接キスくらいどってことありませんよ♡ だって……本番も、したじゃないですか?」
ぽっ、と頬を染めながらアリッサが言う。
いや、確かに二回ほど本番キスしましたけどっ。
「……それとも、わたしの食べかけでは、お嫌ですか?」
しゅん、とアリッサが肩を落とす。
嫌なわけがない。でも……は、恥ずかしいというか……。
でも、拒んだらアリッサが気を落としてしまうし……。ええい、男は度胸だっ。
「い、いただきます」
僕はわさびソフトを一口食べる。
……なんだか、妙に甘い気がした。
彼女が食べかけたからってのもあるのかな?
ああわからん、いつものわさびの味が全くしない……。
ややあって、食べ終える。
緊張してることもあって、味がさっぱり感じられなかった。
「……ユータさん。頬にクリームがついてますよ」
「え? ほんと?」
「……はい、とりますので、動かないでください」
アリッサがハンカチを取り出す。
頬を拭いてくれるのだろう。
ちゅっ……♡
「へぁ!?」
な、なんと……ハンカチではなく、口づけで、僕の頬についてクリームをとったのだ!
てゆーか、キスじゃんこれ!
「……取れました。ン……♡ あまいです」
「あ、アリッサ……公衆の面前なんですが……」
「……お嫌でした?」
可愛らしく小首をかしげる。
うう……いやなんて言えないよ。
「「じ~~~~~~~~~~~~」」
……僕らの様子を、黙って見守っていたのが、若干2名ほどいた。
「な、なんだよっ?」
詩子とななおちゃんが、ニヤニヤしながら僕らを見ている。
「いやぁ、青春だなーって思ってさー、ね?」
「おにーちゃん夫婦みたいだに! いつ結婚するのかやー?」
「い、いやいや結婚なんてそんな……ねぇ?」
だがアリッサは頬を染めながら、いやんいやんと体をよじる。
「……いつでもアリッサ・上松になる準備してますよ♡」
おいいいいいいいいいいい。
何を言ってるんだこの人はっ!
すると……。
「アリッサ?」「……あの美人さん、アリッサって?」「いやでも……あの金髪、もしかして……?」
わさび農場に来ていた観光客達が、アリッサに注目しだしたぞっ。
まさかこんな場所に有名歌手がいるとは微塵にも思ってないだろうけど……あんまじろじろ見られたらバレちゃう!
「み、みんな移動しよう! 川釣りへレッツゴーだよ!」
僕らは足早にその場を後にするのだった。




