50話 幼馴染みも一緒にご飯
僕んちに、幼馴染みのみちるが、ご飯を作って差し入れにきてくれた。
僕は彼女を連れて、由梨恵たちのもとへいく。
『かみにーさまが、新しい女連れてきたー! さすがラブコメ主人公、モテモテー!』
神絵師こうちゃんがロシア語で何事を叫ぶ。
「初めましてだよね、みんな。彼女は僕の幼馴染みの大桑 みちる」
「こ、こんばんは」
ぺこっと頭を下げるみちるに……僕は違和感を覚えた。
「初めまして!」「……どうも」「えと、、こ、こんばんわ……」
三者三様がアイサツをする。
「みちるは……その、この人達知ってるかな」
「え、ええ……そうね。有名人だものね。そこの二人は」
由梨恵、アリッサはどちらも超人気の有名人だ。
知っててもおかしくない。
こうちゃんは顔出ししてないので知らなくて当然だ。
だとしても、やっぱり違和感があった。
「あのさ、みちる。なんか……リアクション薄くない?」
由梨恵とアリッサはテレビに出るほどの人物だ。
そんな彼女たちが一般人の家に居たら、普通はメチャクチャ驚くと思うんだけど……。
「あ、えっと……そ、そ、そうね。わ、わー、び、びっくらぽんだわー」
みちるが動揺しまくりながら言う。
違和感はあるけど、まああんまり追求してもよくないよね。
「はい! じゃあ自己紹介! わたしは駒ヶ根 由梨恵! 由梨恵って呼んでね!」
「……アリッサ・洗馬」
「み、みさやま、こう……です」
それぞれがみちるにアイサツをする。
幼馴染みはペコッと頭を下げた。
「勇太の……幼馴染み。大桑 みちるです」
初顔合わせを終えた彼女たち。
「で、勇太……なんなの、これ……?」
リビングのテーブルの上に乗っている物体を、みちるが指さす。
「特にこの……暗黒物質は……?」
『い、言っちゃったー! 誰もが言いにくいことを平然と言ってのけるぅ……! そこにしびれるあこがれるぅ……!』
こうちゃんがロシア語で何かを言ってる。
けどなんだかみちるにキラキラした目を向けた。
「……なんのことですか?」
ずいっ、とアリッサが一歩前に出る。
隠しきれない不機嫌オーラがダダ漏れだった……!
「……人が愛情込めて作った料理に、ケチをつけるって言うのですか?」
『ひー! アリッサ怖いよぉ~。かみにーさまのお母さん並に怖いよぉ! 鬼みたいだよぉう』
こうちゃんは僕の腰にしがみついてブルブル震える。
僕もまた怖かった。
「別に。ケチはつけてないわ。ただ……これ食べれるの?」
「……もちろん」
「ふーん……味見させてもらうわよ」
みちるは取り分ける用のお皿を、キッチンから持ってきて、一口分掬う。
匂いを嗅いで、顔をしかめる。
くいっ、と一口飲んだ。
『い、いったぁ! みちる選手、暗黒物質を飲み込んだこれはどうなるぅ……!』
こうちゃん、ロシア語でノリノリで何か言ってる。
「ゲホッ! ゴホッ! ゴホッ!」
みちるが急に咳き込みだした。
「だ、大丈夫!?」
僕は慌ててコップに水を入れて、みちるに差し出す。
彼女は水を5杯くらいおかわりして……やっと元に戻った。
「あ、あんた……これ……ヤバすぎる。うぷ……苦みと……辛さと……生臭さがミックスして、とんでもない物体になってるわよ」
「……何をバカなことを」
「じゃああんた、食べてみなさいよ」
アリッサはうなずいて、一口啜る。
「どう?」
「…………………………食べれます」
「いや、食べれる食べれないを聞いてるんじゃなくて……」
「……食べれます。………………ギリ」
「あんた……せめて作ったら味見くらいしなさいよ」
はぁ、とみちるがため息をつく。
「……偉そうに。そんなに言うなら、あなた、カレー作ってみなさいな」
アリッサがじろりとみちるをにらみつける。
「はぁ? なんでよ。アタシが持ってきたお弁当もあるし、唐揚げもあるから十分でしょ?」
だがアリッサはふるふると首を振る。
「……人に難癖つけるのですから、さぞ料理がお得意なのでしょう?」
「人並みよ。……まあ別に良いわ。作ってあげる」
みちるがキッチンへと歩いて行く。
『これは……メインヒロインと幼馴染みヒロインとの直接対決だー! ラブコメでよく見るやつぅ……!』
こうちゃんがさっきからノリノリだった。
★
ややあって。
「「「「ごちそうさまでしたー!」」」」
リビングのテーブルには、カラになったお皿が並ぶ。
「みちるちゃん! すっごいよ! どれもプロ級に美味しかったぁ!」
由梨恵が笑顔でみちるに話しかける。
『みちるの姉御! めちゃうまだった! 美味すぎて……馬になるところだったー!』
こうちゃんも、みちるの料理に大満足のようだ。
「…………」
唯一アリッサだけが、複雑そうな表情で、カラになったお皿を前にしている。
『アリッサ選手ダウーーン! みちる選手との圧倒的な料理の技術の差を前に完・全・敗・北だぁ……! 愛しの彼の前での敗北、これは悔しいぃい!』
こうちゃんがフンスフンスと鼻息荒く、ロシア語で何かを言う。
「どうよ? お味は?」
「……料理は美味しかったです。文句なしに」
「あらどうも。お粗末様」
ぎゅっ、とアリッサが唇をかみしめる。
「……負けました。悔しいけど、完敗です」
ぺこり、とアリッサが頭を下げる。
「あ、アリッサ……勝ち負けとかないから。うん、美味しかったよ……アリッサのカレーも」
みんなアリッサカレーに手をつけようとしなかった。
僕だけは頑張って食べてみた。
味は…………………………うん。
「……ユータさん」
目を潤ませながら、彼女がテーブル越しに、僕の手を握ってくる。
「……ありがとうございます。やっぱり、あなたは誰より優しい……素敵な殿方です。……大好き♡」
チュッ……♡ とアリッサが僕の手の甲にキスしてきた。
「んなっ……!? ななっ!」
みちるが目を剥いて僕とアリッサを見やる。
「な、何やってるのよっ」
「……あら、何か問題でもおありですか?」
すました顔でアリッサが元の位置に戻って言う。
「ひ、人目がある中で、なにあんな大胆なことしてるのよ! き、キスなんて……」
「……別に良いではありませんか。わたしはユータさんが好き。大好き。死ぬほど彼を愛してます」
アリッサが真剣な表情で言う。
彼女のストレートすぎる好意の言葉に、こそばゆさを覚える。
「……あなたはユータさんのこと、どう思ってるんです?」
アリッサは真っ直ぐにみちるを見て問いかける。
「アタシ……アタシは……」
彼女は目を泳がせる。
真っ直ぐに見るアリッサとは対照的だ。
「……ただの幼馴染みなんですよね?」
ぱちっ、とみちると僕との目が合う。
彼女はぎゅっ、と下唇をかみしめる。
「アタシだって、ユータが好き……大好きよ!」
顔を真っ赤にしてみちるが叫ぶ。
目を涙で潤ませながら言う。
「わ、わわ……す、すごい……ストレートだね……」「姉御……まじかっけー!」
由梨恵が顔を赤らめながら、こうちゃんは興奮気味に言う。
「えっと……その……ありがとう」
「~~~~~………………!!!」
かぁ~……とみちるが顔を赤くしてうつむく。
勢いで告ったけど、正気に戻った……みたいな?
「……やはり、あなたもそうでしたか」
アリッサは顔をしかめる。
「……わたし、一発でわかりました。この人、ユータさんのこと好きだなって」
「え、そ、そうなの?」
「……ええ、見ればわかります。好意がだだもれです。あなたのことが好きで好きで夜も眠れず、ユータさんを思って毎晩自慰にふけっている……そんな感じがしました」
「じ、自慰……って! ちょっ!? あ、あ、あんた何バカなこと言ってるのよ!」
みちるが顔面真っ赤にしてアリッサにくってかかる。
「……その過剰なリアクション。間抜けは見つかったようですね」
「なっ!? か、カマかけたのねあんたー!」
すました顔のアリッサ。
「え、えっと……みちる……?」
僕と彼女とが、バッチリと目が合う。
き、気まずい……。
え、ぼ、僕でその……してたって……マジなの……?
「な、なによ! 悪い!? 好きな男の子を思って自分を慰めちゃ!?」
なんかとんでもないこと言ってるー!?
「現実じゃあんたのまわり可愛い女の子ばっかりで! 入り込む余地がないんだから! 妄想の中くらい勇太に抱かれてもいいじゃない!」
「み、みちるちゃん……落ち着いて」
由梨恵がみちるの肩を掴んで言う。
「れ、冷静になろ? とんでもないこと言ってるよ、わりと?」
「ふぇ…………………………あ」
みちるがこれ以上無いくらい、肌を真っ赤にする。
「………………………………きゅう」
ばたんっ! とみちるは机に突っ伏す。
ショックが大きすぎて頭がショートしちゃったのか!
「だ、大丈夫かみちるぅー!?」




