44話 酔った超有名歌手に押し倒される
こうちゃん主導で、Vtuberとしてデビューした。
数日後、僕は超有名美人歌手、アリッサ・洗馬のお家にやってきていた。
「……こんにちは、ユータさん♡」
出迎えてくれたのは、長身の美女。
長くふわふわとした髪質の金髪。
外国の海を彷彿とさせる青い瞳。
大きな乳房にくびれた腰、抜群のプロポーションと美貌を持つ彼女こそ、今日本で一番勢いのある若手歌手さまだ。
「こんにちは。遊びに来たよ」
僕はここまで運転してくれた、使用人の贄川さんに礼を言って、家に入る。
「……さぁどうぞ。お待ちしてました」
今日は別に遊びに来たわけじゃない。
僕心関係で、1つ。
もう一つ、【別の目的】がある。
長い廊下を抜けると、学校の体育館並に広いリビングへとやってくる。
「由梨恵んちも凄かったけど、アリッサの家も大きいなぁ」
僕が率直な感想を漏らす。
「…………っ」
ぴくっ、とアリッサが体をこわばらせる。
「どうしたの?」
「……いえ、なんでもありません」
アリッサは微笑をたたえているだけだ。
まあ気のせいかな。
ちら、と僕は背後を見やる。
使用人の贄川さんは、そのまま台所へと消えていった。
僕の持ってきたものを、冷蔵庫に入れてくれたのだろう。
「えっと、じゃあさっそく用事からすませようか」
部屋に設えた大きなソファセットに、僕らは対面になるように座る。
「歌詞、作ってきたよ」
「……ありがとうございます」
「しかし、御嶽山監督も、無茶ぶりするね。僕心のエンディングの歌詞を、素人に書かせるなんて」
来月末、書籍版・僕心の第2巻が発売される。
限定版には、30分のオリジナルアニメが付くそうだ。
監督はアリッサにエンディング曲の作成を依頼した。
そこで監督から提案されたのだ。
つまり、原作者が歌詞を書いて、アリッサが曲を作ってみないか、と。
「……わたしは素晴らしい提案だと思いますよ。ユータさんは誰よりも文芸の才能がおありになりますから」
「うーん……でも僕ができる事って小説書くくらいだよ。歌詞は無理だと思う」
「……一芸に秀でる者は、万に通じる、と昔から言うそうですよ」
「なにそれ?」
「……一つのことの極めた者なら、そのノウハウをつかって、別の物事を極めることも容易いということです」
うーん……どうだろう……。
でもほんと、僕なんて素人も素人。
「プロであるアリッサに任せるのが一番だと思うけどね」
「……とりあえず、作った歌詞を見せてくれませんか?」
まあ多分ダメだろうけど、読んでもらってダメならダメで、アリッサに書いてもらえばそれでいいか。
僕はリュックからルーズリーフを取り出す。
「これが作ってきた歌詞だよ」
「……拝見いたします」
アリッサは僕の作った歌詞に目を通す。
どうだろう。まあダメなのは目に見えているけど、やっぱり作ったものの反応って気になるよね?
しばし沈黙があった。
「…………」
アリッサは、泣いていた。
ただ静かに、ボロボロと大量の涙を流している。
「ど、どうしたの!?」
そんなに酷かったのかな!?
「アリッサ?」
「…………」
「アリッサ!」
「……はっ。す、すみません……」
放心状態だった彼女は、目元をぐしっと拭う。
「……大変、素晴らしい歌詞でした。こんなにも美しく、心に響く歌詞を……わたし、初めて読みました」
彼女は夢見心地の表情で、歌詞の書かれたルーズリーフを胸に抱く。
国民的な超有名歌手が、僕なんか素人が作った歌詞に涙するなんて……。
「ほ、本当に? お世辞じゃない?」
「……ええ。本当に素晴らしい歌詞です。世界に誇れる一曲になりますよ、これは」
「い、いや大げさな……。だって歌詞の勉強なんて僕一度もしたことないし、それだって執筆の合間に考えたやつだよ?」
それがここまで評価されるなんておかしいよね?
「……では第三者の意見を聞いてみますか?」
アリッサはスマホを操作する。
がちゃり、とリビングの扉が開く。
黒スーツの大男、使用人の贄川さんが入ってきた。
「お嬢、お呼びですかい?」
ターミネーターですかあなたは、って感じのマッチョ男が、僕らに近づいてくる。
「……贄川さん。これ、読んでみてください」
アリッサが僕のルーズリーフを彼に手渡す。
「……新曲です」
「なるほど。では失礼しやす」
贄川さんはルーズリーフを手にすると、ぶわ……! と涙を流した。
「ぐふ……ふぐぅうううう~……うぉおおおおおおおん!」
突然贄川さんが泣き出したのだ!
「す、素晴らしい! なんて……ぐす……心に……響く……歌詞なんだ! お嬢! すごいですぜこれはぁ……!」
チンピラもビビる威容を持つ大男が、ガチ泣きしてる……。
「さすがお嬢、今回も良い曲になりそうですな!」
「……ありがとう。わたしもそう思います。ですが、作ったのはユータさんです」
「なっ……!? わ、若旦那がお作りになったのですかい!?」
若旦那って……え、僕のこと?
「すごいですぜ!」
がしっ! とゴリラのような男が、僕の手を掴む。
「さすが神作家は、作り出す歌詞すらも神の仕上がりになるんですね! 見事でございやした!」
「う、うん……ありがとう……」
厳つい見た目だけど、悪い人じゃないんだよなぁこの人。
「……ありがとう、贄川さん。下がって良いですよ」
スーツの大男はぐすぐすと泣きながら部屋を出て行った。
「……ね? わたしが言ったこと、お世辞じゃなかったでしょう?」
「そ、そうだね……ここまでとは思わなかったけど……」
「……ユータさんは素晴らしいです。作詞の才能までお持ちだなんて……素敵♡」
ま、まあとりあえず、これでここに来た理由の1つは達成できたのだった。
★
「……この後どうしましょう。今日の予定はもう終わってしまいましたが」
僕らはコーヒーを飲んでいる。
今日の用事、つまり僕心の曲作りだ。
本当は歌詞を、アリッサに添削してもらう予定だった。
けど作ってきたものが、一発で審査を通ってしまい、やることがなくなった。
「あ、じゃあ。ちょっと待ってて。アリッサに渡したいものがあるんだ」
「……渡したい、もの?」
僕は一度立ち上がり、台所へと向かう。
巨大な冷蔵庫のなかに仕舞ってあった紙箱を手に取って、彼女の元へ行く。
「はいこれ。じゃーん」
箱の蓋を開けると、チョコレートケーキが入っていた。
「……ケーキ?」
「うん。アリッサ、誕生日おめでとう!」
突然のことに、彼女は目を丸くしていた。
「……どう、して? 誕生日知ってるんですか。公にはなってないのに」
「贄川さんから聞いたんだ」
アリッサのお家には何回か来ている。
その際、送り迎えを贄川さんにしてもらっている。
あの人厳ついみためしてるけど、結構話すのだ。
車の中での話題で、彼女の誕生日を知った次第。
「ごめんね、手作りで。もっと高い店のケーキ買ってくれば……って、アリッサ?」
ぽろぽろ……とまたアリッサが涙を流している。
「ど、どうしたの?」
「……ご、ごめんなさい。うれしくって……つい……」
彼女が両手で顔を覆う。
頬を伝う涙を手で何度も拭う。
そ、そこまで……?
「……わたし、嬉しいです。贄川さん以外から、誕生日祝われたの……はじめてです」
……どことなく、闇が垣間見えてしまった気がした。
けどプライベートの詮索はよくないよね。
「……ありがとう、ユータさん。最高のプレゼント、わたし、とてもうれしいです」
「それは、よかった。作ったかいがあったよ。早速食べよ」
キッチンでチョコケーキを切り分けて、お皿に載せてリビングへと戻る。
ソファセットの前にある、大きなテーブルにお皿を置く。
「……ユータさん、ケーキまで作れるんですね」
「うん。小さい頃から母さんと一緒に作ってたんだ」
母さん何でも手作りできるんだよね。
「さぁ食べて」
「……はい。いただきます」
アリッサは上品にお皿を手に取って、フォークで一口食べる。
「……美味しいっ」
アリッサが声を弾ませる。
「……すごいです。お店で売ってるケーキより何倍もおいしいですっ! こんな美味しいの……初めてです!」
「あはは、ありがとう。師匠の腕がいいからね」
アリッサはパクパクとケーキを食べ勧める。
僕も自分の分を口に含む。
うん、うまい。やっぱ母さん直伝チョコケーキはうまいなぁ。
「はぁ……はぁ……♡」
あとで贄川さんにもごちそうしないと。
「んっ……♡ はぁ……♡ はぁ……♡」
「アリッサ? ……え?」
彼女が頬を赤くして、はぁはぁと艶っぽい吐息を漏らしていた。
「ど、どうしたの?」
「……わからないれす。体が……とても……熱くって……」
目を潤ませ、彼女が熱い吐息を繰り返す。
どこかとろんとした目元、口の端からよだれが少し垂れ、ろれつが回っていない。
「……ユータさん♡ ユータさぁん……♡」
彼女は立ち上がると、正面から僕に抱きついてきた!
「わっ!?」
「……はぁん♡ 好き♡ ユータさん♡ 好き♡ 大好きです♡」
彼女が僕に抱きつくと、すりすりと頬ずりしてくる。
「……ユータさんのにおい♡ 好き♡ ユータさんの肌もすべすべしてて好き♡ ユーさん……あぁん♡ ユータさぁん♡」
いつもの控え目な性格の彼女はどこへいったんだ!?
急に顔を赤くして、妙な行動を取ってきて……!
これじゃ、まるで……
と、困惑しているそのときだ。
「お嬢、若旦那、どうなさったんですかい?」
「に、贄川さん! 助けて! アリッサが変なんです!」
彼女は僕をギュッと抱きしめて、頬ずりしている。
「……えへへ♡ ユータさんユータさん♡ 好き~♡」
贄川さんも困惑の表情を浮かべる。
「もしかして……」
彼はお皿に載っているチョコケーキを手に取り、すんすんと匂いを嗅ぐ。
「若旦那、このケーキ、もしかしてブランデー入ってます?」
「え、香り付けのためにほんの1滴」
「なるほど……理解しやした」
得心したように、贄川さんがうなずく。
「お嬢は、酔ってらっしゃいます」
「よ、酔う!? 嘘でしょ……香り付けの料理酒だよ?」
「お嬢はアルコール類にめっぽう弱いんです。匂いを少し嗅いだだけでベロンベロンになるほどです」
「そ、そうなんだ……」
これ、酔ってるんだね。
「……ユータさん……はぁはぁ♡ わたし……もう……がまんできない!」
ぐいっ、とアリッサが僕の肩を押して、ソファに倒す。
「……ユータさんが、いけないんですよ♡ あなたが素敵なお方なのが、いけないんです」
僕のお腹の上に馬乗りになって、熱っぽい視線を向けてくる。
目の奥に♡が浮かんでいる。
や、ヤバい……これは、見たことある!
主にエロマンガで!
「に、贄川さん助けて!」
このままのこと描写したら、なろうでBANされちゃうよ!
しかし贄川さんはうなずくと、ぐっ……と親指を立てる。
「お嬢は初めてです。どうか……優しくしてやってくださいや」
「おいいいいいいいいいいい」
「あっしは空気の読める男でさぁ。男女の仲を邪魔するほど下世話ではないんですぜ」
贄川さんはすすす、と部屋から出て行った。
「……ハァ♡ ハァ♡ ユータさん♡」
するり……と彼女が着ていた上着を脱ぐ。
彼女の上半身がさらされ、大きな胸と、黒くてエッチなブラがさらされる!
で、でかい!
メロン……いやスイカほど大きなおっぱいだ。
右の胸元にほくろがあってえろい!
「……他の女の子のお家にも行ったのでしょう? どうしてわたしじゃ不満なんですか? ずるい、ずるいずるいです……」
上裸のままぼくの体の上にのしかかってくる。
ふにょりと、極上の柔らかさが!
「わたしも……したいです……あなたと……ふたりで……♡」
「あ、アリッサ……落ち着いて」
どこか肉食獣を彷彿とさせる眼光で、僕を見下ろす。
「……だぁいじょうぶ♡ 初めてですもの、痛くしないですよぉ」
「それ君が言うセリフじゃないからぁああああ!」
……その後、酔った彼女は眠ってしまった。
何もありませんでしたよ、うん。危なかったけど……。




