193話 白馬王子
《勇太視点》
僕……上松勇太は、大桑みちるに、プロポーズすることにした。
場所は……お台場。
りんかい線の改札で、僕は彼女が来るのを待ってる。
「…………」
1月だって言うのに、寒さはあまり感じない。
まあ地下鉄の改札口だからってのもあるんだろうけど。
でも……僕の手は震えてる。
緊張してるんだ。これからみちるにプロポーズする。
大丈夫……だとは思う。
けどみちるがもし、僕を拒んだら……。
そのときだった。
ポンッ、と誰かが僕の肩をたたいたのだ。
「え?」
「ふはは! どうした我がライバル!」
「白馬先生!」
ラノベ作家であり、モデルでもある、白馬王子先生が、隣に立っていたのだ。
いつもの白いスーツの上から、かっこいいコートを羽織っている。
「白馬王子だ!」「か、かっこいい!」「きゃー! 素敵ぃ!」
あっという間に見つかってしまう。
そりゃそうだ! 先生は有名人だもの。
集まってくるギャラリーに対して、白馬先生が言う。
「すまない、みんな。今日は私はプライベートでね。今からこの我が友と大事なお話をしたいのだ」
「「「そっかぁ~……」」」
「終わったら! みんなにサインをする! だから、一時静かにしててほしい!」
「「「はーい!」」」
離れていくギャラリーたち。
相変わらず先生は紳士だ!
「え、えと……どうしたんですか? 先生?」
「我が友が、これから決戦に挑むと聞いてね。励ましの言葉を贈ろうかと」
「先生……!」
って、あれ?
「なんで僕がプロポーズするって?」
「マイシスター由梨恵から聞いたのだよ」
ああ、そうだった。
先生と由梨恵は兄妹だったんだ!
「我が友、勇太くん。頑張るのだよ。今日君は、愛する人に、愛を伝えるんだ」
「はい……」
でも、僕の顔は緊張でこわばっている。
そこへ……先生が肩を優しく抱いてくれた。
すごい、いい匂いがする。
そして……暖かい。
「大丈夫だ、我が友。君ならできる」
「…………」
「私だってプロポーズのときは、緊張したものさ」
「先生でも?」
白馬先生はこないだ、昔なじみと結婚することになったと教えてくれた。
そんな……こんな完璧超人の先生ですら、緊張するなんて。
プロポーズってやっぱり誰でも緊張……。
「あ」
ようやく、僕は気づいた。
そうだ、先生だって……ううん、白馬王子ですら緊張するイベントなのだ。
だから……僕だって、緊張しててもいいんだ。
そりゃそうだ。誰かの、人生を預かる、そんな大きな決断をするんだから。
「少し気が楽になったかい?」
「はいっ!」
「それはよかった」
にこっ、と白い歯を見せて、笑顔を浮かべる。
先生……。
「僕のために、どうして? 先生だって忙しいのに、応援に来てくれて……」
「? 友のために動くことに、何か理由がいるのかい?」
「…………」
この人は、ほんとに僕のこと、友達って思ってくれてるんだ。
……ああ、優しくて、かっこよく、いい人だなぁ!
「さぁ、私にできるのはここまでだ。もうすぐみちる嬢がくるのだろう? そんなしょぼくれた顔をしてはいけない。もっと堂々と、胸を張るんだ!」
白馬先生が後ろから、背中をばしっとたたいてくれる。
その部分に熱が、こもる。体に力が戻り、手先があったかくなる。
「ありがとう、先生。僕……がんばる!」
「ああ、頑張りたまえ。そして、今日のこの出来事を糧に、さらにもっと大きく、作家として成長するのだ!」
びしっ、と白馬先生が僕に指を突きつける。
「君は私の永遠の親友! 常に最強の敵として、立ち塞がってもらわないと困るからね!」
「はい! 僕も……ずっとあなたの友達でいます!」
僕らは笑う。
先生は手を振ると、颯爽と去って行く……。
「さぁ、サイン会は駅の外でやるよぉ! ほしい人はついてくるんだ!」
「「「はーい!」」」
残っていたギャラリーが、移動していく。
僕に注目してた人も含めてだ。
……先生、最後まで、ほんとうにいい人だった。
僕はあの人と同じ時代、同じ作家として、競えてることが……ほんとうにうれしいし、幸運だなって思う。
「ありがとう……先生!」




