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【完結】高校生WEB作家のモテ生活 「あんたが神作家なわけないでしょ」と僕を振った幼馴染が後悔してるけどもう遅い  作者: 茨木野
第1章

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19話 幼馴染は動画配信で墓穴を掘る



 僕は新作の短編を投稿した。

 連載版をどうしようか、ひとり、部屋のベランダで考えていた。


「……ユータさん」


 隣の空き部屋から、歌手のアリッサが顔を出す。

 彼女は母のパジャマを着ていた。


 普段見ない彼女の姿にドキッとして、そして月明かりに透ける彼女の裸身にドギマギしてしまう。


「……新作投稿するか、迷っているんですか?」


 先ほど短編をなろうであげた新作、【僕の心臓を君に捧げよ】のこと。


「うん……母さんは書きたいかどうかで決めろって言ってたけど……さ」


 現実問題、それ以外のことを、どうしても考えてしまう。

 たとえば……。


「……みんなの期待を裏切ってしまわないか、不安なのですね」


「えっ……?」


 僕は驚いて、アリッサの顔を見やる。

 彼女は微笑んでいた。


「……いい作品を過去に作ってしまうと、期待値がどうしても上がってしまいますものね。けど次も受けるかどうかわからない。期待を裏切ってしまったら……怖い。でしょう?」


「な、なんでわかるの……?」


「……わたしも、同じですから」


 そうだ。アリッサも歌手。僕と同じようにクリエイターだ。


 新作に掛かるプレッシャーのことを、彼女は理解してくれるんだ。


「……ユータさん。お気持ちすごくよくわかります。けど……不安に怯えるだけでは、何も変わりません。前へ前へと、進んでいくんです」


「新作が、こけるかもしれなくても?」


「……ええ。創作物を世に公表する以上、批判はどうしてもつきもの。でもその不安を抱えながら新しい物を生み出していく。そして楽しみにしてくれる、大勢の人の心を救っていく……それが、才能あるクリエイターとして生まれた者の、使命だと……わたしは思います」


 ……自分に才能があるとは到底思えない。

 けど新作を楽しみにしてくれている人がいることは事実。


 そして……現実の嫌な気持ちを忘れて、楽しんでくれたって人が、大勢居た。


「……みんなあなたの作品を、心待ちにしてますよ」


「アリッサも?」


 もちろん、とアリッサが静かに笑う。


 ……不安はある。

 けどアリッサとの会話で、クリエイターとは、期待に押しつぶされず、ファンに向けて、常に新しい物を発信していく使命があると気づかされた。


「僕……書くよ。新作」

「……そうおっしゃってくださると信じておりました。さすがユータさん、わたしの最も尊敬する、最高の神作家です♡」


 僕はアリッサに笑いかける。


「ありがとう、悩み聞いてくれて」

「……お力になれたようで、うれしいです」


 幼馴染みに振られて辛かった時期もあった。

 けどそれがきっかけで、こうして最高のクリエイター仲間ができた。


 みちるに感謝しなきゃだね。


    ★ 


 勇太が連載を決意した、一方その頃。


 大桑みちるは家でひとり、悶々としていた。


「うー……」


 ベッドに横になって、スマホを見ている。

 なろうの日間総合ランキングのページだ。


 一位には、敬愛する作家カミマツの新作短編がアップロードされている。


 以前のみちるなら、喜んで読んでいた。


 けれど……その日は読む気になれなかった。


「……気晴らしに、配信でもしよ」


 みちるはパソコンを立ち上げて、動画配信の準備をする。


 Our TUBEという動画投稿サイトで、みちるは時折、生配信をしていた。


 顔出しでやっており、そこそこの外見をしていることから、登録者数が5万人とそこそこいる。


「どうもみんな。ひさしぶりね」


 配信をスタートすると、すぐに視聴者が付く。


 彼女のファンはなかなかに多い。


 画面端には、ファンからのコメントが流れていく。


『みっちー! おひさしぶりー!』


【みっちー】とは、みちるのハンドルネームのことだ。


『最近配信しなかったからさみしかったー!』『みっちー元気ぃ!』


「……そうね。ちょっと最近ブルーになってて、配信サボっちゃった」


『まじか!』『どうしたの~?』『つらかったら吐き出して良いんだぜ?』


 ファン達が自分を構ってくれる。

 チヤホヤしてくれる。


 みちるは最近、自信を失いかけていた。


 幼馴染みの男の子、勇太。

 彼の心を、すごい美女美少女たちに、取られてしまったから。


 自尊心がベコベコに凹んでいたのだ。


「ありがとうみんな。やっぱりファンのひとは大切にしなきゃね……!」


 ファンからのコメントにすっかり気をよくするみちる。


「さて今日は雑談配信なんだけど……何の話しようかしら……?」


『さっき言ってた落ち込んだ話してよー』

『どうして凹んでたのー』


「……まあ、なんてーの? アタシほら、美人じゃない?」


 なんとも傲慢な発言。

 だがそのキャラで通しているので、ファン達は大喜びだった。


「だからこの間、幼馴染みから告られちゃったの。ま、とーぜん断ったんだけどさ」


『なにぃ!』『みっちー可愛いからね、仕方ない!』『幼馴染みうらやま』


 チヤホヤされすぎて、みちるは気分が大きくなっていた。


「でさ、そいつ一週間後にもう他の女好きになってたの! え、ひどくない?」


 ……みちるは、事実を隠して言った。


 そう、被害者ぶりたかったのだ。

 都合の悪い部分は全カット。


 言えば非難を浴びるとわかっていたからだ。


『うっわなにその幼馴染み!』『くそじゃん』『みっちーそいつの名前と住所おしえて、ぶっころしてやる!』


 さすがにみちるも、勇太の個人情報は漏らさない。

 そんなことしてもみちるが原因となって、責任追及されるだけだから。


「ま、別にぃ。アタシはどーでもいいんだけどね。男なんて腐るほどいるし。それに……ファンのみんながいるしぃ~」


 ちょっとこういう、男をその気にさせる発言する。


『うひょ~w』『みっちーきゃわぃー!』『一生みっちー様についていきますぅ!』


 それだけで、ファンからのコメントが雪崩を起こしていた。


 ……チョロいなぁ、ネットの陰キャどもは。

 みちるは内心でほくそ笑む。


「話聞いてくれてあんがとね。楽になったわ」


 すっきりしたところで、配信を切ろうとした。


 だが……そのときだった。


 ふと、こんなコメントが眼に入ったのだ。


『ところでみっちー。カミマツ様の新作短編、読んだー?』


 ……ここで配信を辞めておけばよかったのだ。


『読んだよねー当然』『みっちーカミマツ様の大ファンじゃん?』『おれらの中での共通認識だもんなぁ』『そうそう、いつも感想言ってるし』


 みちるはカミマツの大ファンを公言している。


 カミマツの作品の感想を、よく配信していた。


「ま、まあ……」

『あれ? でも最近感想動画なくね?』『そーいやそーだな』『なんかあったの?』


 ……なんかあったのか、だと?


 みちるの胸に苦い思い出が広がっていく。

 ありまくりだ。

 勇太がカミマツと知って、その後告白したが振られてしまったと……。


 せっかく良い気分だったのだが、水を差されて、みちるは不機嫌になった。


「べ、別に……」


 でもここでかんしゃくを起こしてもよくないと、みちるは打算的に考えていた。


『で、短編だけどさ、最高だったね!』

『ああ。まじ神の内容だった』

『さすがカミマツ先生だねw』


 みちるのファン達は、彼女に影響されてカミマツ作品を読み始めたものが多い。


 だからこの場において、みちるのファン=カミマツファンとも言えた。


「…………」

『あ、あれ? どったの?』『短編の感想ききたいなー』


 みちるは、カミマツの短編を読めていない。


 否、読もうとしない。


 理由は単純明快。

 この短編が、傑作だと、読まずともわかるからだ。


 なろうでは、内容を読まずとも、感想を読むことができる。


 そこにつけられている絶賛コメントの嵐。

 稼いだポイント数、ランキング……。


 それを複合すれば、カミマツの新作【僕の心臓を君に捧げよ】。


 これが超大傑作であることは間違いない。

 だからこそ、読めない。

 読んでしまったら、カミマツを逃したことを、さらに後悔する羽目となるからだ。


 デジマスだけじゃない、僕心も、ふたつも超凄い作品を作れるような作家ゆうたを……振ってしまった。


 後悔が大きくなり、自分を苦しめる結果になることが目に見えていた。


 だから、読んでいなかったのだ。


『みっちー?』『どうしたの-?』『早く感想はよはよ』


「……るさい」


 脳天気にコメントを垂れるファン達が、憎らしくなった。


「うるさいっっっっ! こっちの気も知らないで……!」


 ……みちるは冷静さを欠いていた。

 

「カミマツがなんなのよ! 読んでないわよあんな……あんなヤツの、あんな幼稚な作品を読んで騒いでるなんて……バッカみたい!」


 ……みちるは、怒りを吐き出した。

 それはため込まれていた、自分を拒んだ勇太への負の念も込められていた。


 言いたいことを言えてスッキリした反面……襲ってきたのは、更なる後悔だった。


『は? なんだよ今の……?』


 そう、リスナー達が、今のみちるの発言を聞いて、不快な思いを抱いたのだ。


『バカってなんだよ』『せっかく話題振ってやったのに』


 さぁ……と血の気が引いてく。

 ファン達のご機嫌を損ねてしまったのだ。


 まずい……! とみちるは大いに焦る。


「ご、ごめん……今の、なかったことにして」


 だが一度不快にさせてしまったことで、ファン達は怒りをあらわにする。


『なかったことってなんだよ』『こっちは聞きに来てやってるんだぞ』『謝れよ』


「なっ!? あ、謝れって……あんたら何様よ! こんな動画配信くらいしか楽しみがない、リアルが充実してないくそ陰キャなんかに命令されたくないわよ!」


 ……更なる墓穴を掘ってしまう。


 するとファン達たちから、アンチコメントが滝のように押し寄せてきた。


『ざけんな』『ちょっとツラがいいからって調子乗りすぎ』『登録者5万人の雑魚ごときでいい気になるなよ』


 そう……愛と憎しみは表裏一体。

 さっきまでの自分のことを愛してくれていたファンは、みちるの失言もあって、アンチに転じてしまったのだ。


 みちるはそのことに気づいて……さらに顔を青ざめる。


「えっとその……も、もうしらない!」


 みちるは強制的に配信を切った。


 ベッドに突っ伏して頭をガリガリとかく。


「やっちゃった! 発言には気をつけてたのに……」


 みちるは恐る恐る、スマホを開き、OurTUBEのページを開く。


 ……案の定、アンチコメントであふれていた。

 そして、登録者数も、もの凄い勢いで減っていった。


「あ……ああ……どうして……こんなことに……」


 みちるは一人さめざめと泣くのだった。

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★新連載です★



↓タイトル押すと作品サイトに飛びます↓



『キャンピングカーではじめる、追放聖女の気ままな異世界旅行』

― 新着の感想 ―
[一言] まあ振られた時点でへこんでるしここまで追い込まなくてもとは思います 手のひら返しは正直あまり褒められたものではありませんがみちるの事情を知らない主人公だとしてもあっさり手のひら返しちゃって…
[良い点] こんな面白いエピソード、なんで書籍や漫画では消したんですか?漫画でこれが読みたかった
[良い点] 展開自体が早く見てて飽きずに読めて楽しいです [気になる点] 作者だと知ってからの二人とみちるで対応に差がありすぎて ここまでする必要はあるのかな?とは、配信で叫んでとかは人間味強くて好き…
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