185話 勇気をだして
僕んちに来てる。
父さんは母さんの一撃を受けてノックアウトした。
その後。
上松家リビングにて。
僕は母さんに、みちるにプロポーズをしようと思ってることを打ち明ける。
母さんは黙って僕の話に耳を傾けてくれた。
やがて、僕が話し終えると……。
「なるほどねえ……ついにねえ……」
と母さんはポワポワ笑いながら言う。
……以上。え!?
「い、いや母さん……その、何か無いの?」
「何かって?」
「反対だー、とか。高校生で結婚なんて! とか」
「無いわねえ~。本人同士が、良いって思ってるなら、それでいいんじゃない?」
母さんは僕のやろうとしてることを、否定しなかった。
……思えば、母さんに否定されたことって一度もない気がする。
ラノベ作家になる、って言ったときも、母さんは反対しなかったし。
アニメになる、映画になる、ってときも絶対に反対しなかった。
……あれ、これって特別なことなんじゃないか?
「どうしたの?」
「あ、ううん……えっと……みちると結婚したいんだけど、どうすればいいかな」
「どうすれば……? プロポーズして、おしまいじゃないの?」
「いやまあ……。で、でもそれだけでいいのかなって、なにか、特別なことしなきゃいけないのかなって」
母さんはニコニコと笑ったまま、首を横に振るった。
「特別なことなんて必要ないわ。あなたの隣に、一生居たいと思えばそれでいいし、一生側に居ますって、宣言すれば良い。それだけよ」
「……たった、それだけ?」
なんかこう、覚悟を決めるとか、凄いイベントを起こす! みたいなこと……。
しなくていいの?
「ええ、それだけ」
……別に母さんを疑うわけじゃないけど……。
でも、やっぱり気になる。
「父さんと結婚するときも、そんな感じだったの?」
「そうねえ」
隣で転がっている父さんをチラ見して、母さんが苦笑する。
「この人の場合は、随分プロポーズするまでに時間掛かったわぁ。なにせへたれだから、この人。でもね……ちゃんと、言ってくれたの。あなたの側に居たいですって」
母さんは昔を思い出しているのか、本当に……本当に嬉しそうに笑っている。
……側に居たい、そう伝えるだけで、嬉しいって思うんだ……。
「ゆーちゃんは、みーちゃんとどうなりたいの?」
「僕は……」
どうなりたい、か。
……側に居たいとは思ってる。
どんなことをしても、側にいて、ツッコミを入れて……僕を、ただそうとしてくれる。
そんなみちると……僕はこれからも、人生を歩んでいきたい。
「答えはもう胸の内に、あるんでしょう?」
……そうか。
これが答えなんだ。
みちると側に居たいって、この気持ちを持っていれば……それでいいんだ。
「あとは、その気持ちをただ伝える。それだけでいいの。特別なことはしなくていい」
「……うん」
「あ、でもちゃんと、男の子から言わないとだめよ?」
「なんで?」
「そーゆーもんだから♡」
……そっか。
うん。そうだよね。みちるに言わせるのは、間違ってる。
ちゃんと僕は、ハッキリと、僕の心にある気持ちを、僕から伝えよう。
「ありがとう、母さん。頑張ってくる」
「ええ、頑張って♡ 勇気出して♡」
よし……。
僕は決めたぞ。みちるに、この思いをストレートに伝えるんだ!




