160話 帰宅
実家に帰って、妹のカレシと会った。そこでこうちゃんへの気持ちを再認識した。
「ただいまー」
僕はみんなの待ってる家へと帰ってきた。
『四天女の設定使わないまま、終わってしまったぁ!』
こうちゃんが寒そうに体を震わせ、リビングへと向かう。
『最初の想定だとこうちゃんの、学校での様子を描きたかったんだよぉう。無念……』
こうちゃんのロシア語が今に始まったことじゃあない。
あれが彼女の魅力の一つなんだしね。うん。
「勇太おかえり」
「みちる、ただいま」
幼なじみのみちるが僕を出迎えてくれる。
僕の手に持ってる紙の箱をみて、彼女が尋ねてきた。
「それなぁに?」
「母さんが作ったケーキ」
「へえ、ケーキ! あんたのお母さんって料理上手だものね。楽しみだわ」
「ありがとう。あとでみんなで食べようか。ところでアリッサは?」
今日は12月25日、クリスマス。
ほんとだったらアリッサ、そして由梨枝とデートする予定だった。
でも当日になってアリッサが風邪ひいてしまったのである。
「薬がきいたのか、熱は下がってるわ」
「そっかぁ」
ふぅ、良かったぁ。
あ、でも今インフルとかはやってるしなぁ、気を付けないと。
でも熱が引いたみたいで、一安心ではあるなぁ。
「勇太、外から帰ったら手ぇ洗いなさいよ」
「うん、そうだね。うつらないようしないと」
「そのとおり。ほら、おちびー! 手洗いうがいしなさいよ! 風邪ひいたらどーすんの!」
みちるがずんずんとリビングへいき、こうちゃんの首根っこをつまんで、洗面所へと向かう。
子猫みたいでラブリーだ。
『こうちゃん風邪ひきたいなぁ。そしたらみんなからチヤホヤしてもらえるしぃ、学校も休めるしぃ』
多分ろくでもないことを言ってるこうちゃん。
みちるもなんとなく察しがついてるらしく、ため息交じりに言う。
「みんなが楽しんでるなか、冬休み・お正月をひとり寝て過ごす羽目になるわよ」
『なにぃい! この聖☆ヒロインにして、四天女がひとり! みさやまこうを差し置いて、お正月イベントをたのしむだとぉお! ゆるせねえ!』
しゅた、とこうちゃんが自分の足で立つと、洗面所へと向かう。
僕も後ろからついていって手を洗った。
ほどなくして。
「あれ、由梨枝?」
「むにゃあ~……」
リビングにあるこたつに、由梨枝が足を突っ込んだ状態で眠っていた。
テーブルに頬を乗せて寝息を立てている。
「疲れてるのかな」
思えば由梨枝が一番忙しくしてるような気がする。
デジマス2期がもうすぐ始まるし。
「そうね。オーディションの準備で大変ってこないだ言ってたしね」
「オーディション? なんの?」
「僕心にきまってるでしょ?」
ああ! 僕の二作目か。
そういえばあれもアニメになるんだった!
「1巻発売PVでは、声優を務めたけど、アニメでは主役オーディションで決めるらしいじゃない」
「え、そうなの?」
「あんた……芽衣さんから何も聞いてないの?」
「うん。なにも」
芽衣さん、僕に執筆以外の負担がかからない様、気を使ってくれるんだよね。
アニメ関係についても、細かいチェック作業や、アニメ会社とのやりとりもふくめ、こまごまとしたことを全部やってくれるんだよね。ありがたい。
「ふーん、ラノベ作家ってアニメ化に対してそんなスタンスなのね」
「うん、まあ、作るのはアニメ会社とカントクさん、スタッフの皆さんだからね」
脚本だって脚本家さんが担当するわけだし、アニメ化に原作者ってほんとうになんにもかかわらないから、どういう内部事情になってるのかわからないのである。
「まあ話を戻すと、由梨枝は僕心のメインヒロインの声を勝ち取るために、レッスン増やしたんだって」
「へえ……そっか。すごい頑張ってるなぁ」
ただでさえ人気も実力もある由梨枝が、僕の作品のために、頑張ってくれる。
ほんと、ありがたいなぁ。って思った。
「てゆーか、みちるいろいろ知ってるのね」
「まあ、あんたがいないとこで割と話すしね」
そうだったのか!
知らなかった……。
『このいびつな同居生活、表では由梨枝が、裏ではみちるんが支えてることによって、衝突事故が起きないようになってるんやな。ちなみに真の黒幕はこうちゃんだから、ここ、ネタバレな』
こうちゃんがどや顔&したり顔で、ロシア語でボソッと何かを言うのだった。
多分意味はない。




