156話 妹とカレシ
クリスマスの夜、僕はこうちゃんと一緒に、実家の方へ向かっていた。
母さんから、ケーキ作ったから取りに来てと言われたのだ。
『みんな聞いてくれ……ついにこうちゃん、漫画デビューします!』
僕の隣を、ダウンジャケットを着込んだモコモコのこうちゃんが歩いてる。
『神作家はコミカライズやってて、ヤングガンガンで連載中! そして! ついに! 連載開始から1年が経過した今! こうちゃんがやーっと出番回ってきたんですぅう!』
こうちゃんがバッ、と両手を挙げている。
ロシア語でつぶやいてるから多分意味は無い。
「こうちゃん、寒くない?」
『漫画になったみさやまこうを、ぜひ見て欲しい。ヤングガンガンを買おう、それか、マンガUPでも連載してるから、そっちをチェケラ!』
まあ多分寒くはないんだろう。
僕の実家、上松家は、家から歩いて徒歩数分のところにある。
「ただいまー」
「あれ、勇太さん?」
2階から、見知った顔が降りてきた。
あら。
「聡太君じゃない」
詩子のカレシ、塩尻 聡太君だ。
すこしぬぼっとした顔つきに、寝癖が目立つ髪の毛。
背は僕よりやや高い。
『描写が細かいのは、イラストレーターさんからキャラデザがきたからやで。VTuber、そのうち書籍版でるから、みんなよろしくな!』
「あ、みさやま先生もいたの?」
「こうちゃん、ヒロイン、ですからな」
ふふん、どやぁ……とこうちゃんが胸を張る。
仲良いなこの子ら。
ああ、そういえば、聡太君VTuberなんだっけ。
こうちゃんがそのママなんだってさ(ガワを書いたイラストレーターのことを言う)。
「聡太君、どうしているの?」
「詩子を……」
「そーちゃんっ!」
詩子が赤い顔をして、2階から降りてきた。
聡太君の口元を手で塞ぐ。
「お兄ちゃんに言わなくて良いからっ」
「もが……いやでも……将来はお義兄さんなんだし……」
「いいから! もうっ! そーちゃんはほんと、なんでもしゃべるんだから! そこが駄目だっていつも言ってるでしょ!」
「そっかー、すまんすまん」
ふふふ。
詩子、あんなに楽しそうにしてる。
詩子って結構人見知りするタイプだからね。
あんな風に誰かと気安く接することって、ないんだよ。珍しいんだよなぁ。
だから、仲良くしてくれてる、聡太君にはとても感謝してるんだ。
『VTuber時空より、1ヶ月と半くらいの時間軸でお送りしています』
「こうちゃん、あいさつは?」
「よ、息子」
しゅたっ、とこうちゃんが手を上げる。
「おっす、先生。仕事はちゃんとしてる?」
『このみさやまこうを馬鹿にするな! ちゃんとティアキンやってるぞ!』
「それゲームでしょ……ちゃんと仕事しないと鬼編集に怒られるんじゃ無いの?」
「ふぐぅう……」
鬼編集……?
「え、聡太君だれのこと?」
「勇太さんと一緒に住んでいる、編集のひとですよ。先生、俺にたまに愚痴ってくるんです」
「こうちゃん……芽衣さんの悪口いっちゃだめでしょ?」
するとこうちゃんは、ふけもしないのに口笛を吹きながらそっぽむく。
まったく……。
「あとで芽衣さんに報告するからね」
『やめろぉお! 殺す気かぁ!』
「用事が済んだらすぐに戻って仕事だよ。こうちゃんまだいっぱい仕事抱えてるんだから」
「のぉおおおおおおおおおおおお!」
やれやれだ……。
聡太君も、そして詩子も笑っていた。
うん、ふたりはほんとに仲良しだなぁ。




