154話 風邪クリスマス
12月25日。
昨日はみちる、こうちゃん、編集の芽衣さんとデートした。
「うーん……今日は由梨恵とアリッサとデートだ! たのしみだなぁ」
パジャマ状態のまま、僕は部屋を出て行く。
あくびしながら一階に降りると、私服姿のみちると由梨恵が、並んで朝ご飯を作っていた。
「ふたりともおはよー」
「勇太、おはよ」
幼なじみのみちるが微笑む。
そのとなりで、ぱぁ……と明るい笑みを浮かべるのは、声優の由梨恵だ。
「ゆーたくん! おっはよーん!!!!」
だだっ! とエプロン姿のママ走ってきて、抱きついてくる。
むっぎゅーっと強く抱きしめてきた。
由梨恵は今朝も早くから元気である。
ちゅっちゅ、とキスまでして来ちゃって、照れますね。
「芽衣さんは?」
「仕事行ったわ」
「まじで……?」
「うん、まじ。あの人ロボットね、絶対」
昨日デートして、今日は朝から仕事なんて……ほんと、お疲れ様です。
編集さんって忙しいんだなぁ。
「こうちゃんは?」
『ヒロインは……おるぞー!』
リビングのソファの上に、こうちゃんが丸くなって、スイッチをやっていた。
「おはよ」
『やあかみにーさま。クリプレてんきゅーね!』
にこーっとこうちゃんが笑ってる。
多分、僕が昨日買ってあげたクリスマスプレゼントで遊んでいるのだろう。
『ティアキン楽しみね。おっと! 神作家時空では、ティアキン発売は二年後だが、それは気にすんな!』
相変わらずロシア語で何を言ってるのかさっぱりだけど、まあ喜んでいるようで何より。
「おりょりょ? ありっちゃんは?」
由梨恵が周囲を見渡してつぶやく。
アリッサが確かにいない。
「ほんとだ。部屋かな?」
「おこしにいこー! 朝だぞーって!」
由梨恵が笑顔で、僕の手を引いて進んでいく。
『っぱ、こういう引っ張っていくヒロインがいないと、ラブコメって進みませんね。なぬ? こうちゃんは何属性かって? おいおい、介護系ヒロインってしらんのかね?』
ロシア語で意味不明なことをつぶやくこうちゃんはほっといとて、僕は由梨恵と一緒に、アリッサの部屋にやってきた。
「朝だよありっちゃん! って! ありっちゃん! 顔真っ赤だよ! 大丈夫!?」
「! ほんとだっ!」
ベッドに横になっているアリッサは、汗をかいて、ぜえぜえ……と苦しそうにしている。
これは……。
「風邪ね」
「……ごめんなさい、ユータ様……みなさん……」
ぽろぽろ……とアリッサが泣き出した。
え、な、なんで泣いてるんだろう……。
「せっかくのクリスマスなのに……楽しい気分だいなしにして……わたしのことは良いから、ユリエとデートに……」
「何馬鹿なこと言ってるんだよ!」
「……ユータ様?」
僕はアリッサの側にしゃがみ込んで、手を握る。
「君を置いて、のんきにデートなんてできるわけないだろ?」
それは本心だ。
僕はみんなに幸せになって欲しい。
そこに格差も、不平等さも産んで欲しくないんだ。
「……でも、ユリエさんが」
「由梨恵、デートはまたの機会で良い?」
「もっちろん! ありっちゃんが心配だもん! 後日でぜんっぜんOKOK!」
じわ……とアリッサが涙を浮かべる。
「……でも、声優は……忙しくて、休みなんて全然取れないって」
「取れないよ! でもありっちゃんをよそに、デートなんて絶対できないもん! デートなんていつだってできるし! ありっちゃんがさみしがるようなこと、したくないです!」
「……ユリエさん」
僕も由梨恵も同じ気持ちのようだ。
気持ちが通じ合うのっていいよね。
「今日は家にいるよ。さみしくならないように、僕が側に居る」
「私もー!」「しっかたないわねぇ、アタシも」
「皆さん……!」
うんうん、やっぱりみんな仲良しだよね。
僕はみんなのことが、大好きだなぁ。
『もちろんこうちゃんもおそばにいますよ? なぁに、鬼の居ぬ間にサボりたいわけじゃないすよ? さみしくならないように側でゲームしてあげるやつっすよ? どや? ヒロインぽいやろ? おん?』
こうしてクリスマスデート二日目は、アリッサ風邪でスタートするのだった。




