146話 来る、クリスマスイヴ
僕、上松勇太は高校二年生。
そして、今日はクリスマスイヴだ。
彼女ができて初めてのクリスマス……うう、き、緊張する。
学校は冬期休暇入ってるので、僕と幼馴染のみちるは、朝から一緒だ。
アリッサ、由梨恵は朝からお仕事。
「あ、ゆーくんみーちゃん、おっはー!」
二階から降りてきたのは、最近恋人になったばっかりの芽衣さん。
芽衣さんはモンエナを片手に、元気いっぱいで挨拶してきた。
「芽衣さん、大丈夫? 最近夜中もずっと起きてるけど」
「大丈夫! 3徹くらいならまだいける!」
「無理しないでね」
「もちろん。またゆーくんに迷惑かけたくないしっ」
編集さんって大変だ。いつも終電で帰ってきて、家に着いてからも仕事してるし。
そして今は……。
「で、そこでゲル状になってるのって……おちび?」
芽衣さんに引きずり下ろされて、リビングに現れたのはこう……ちゃん?
身体の力を抜いて、丸くなってる。その姿がなんか銀のスライムっぽかった。
「ど、どうしたの芽衣さん。こうちゃんは……?」
「滞ってたラノベの締め切り二つ終わらせたの」
「こ、こんな短期間で! す、すごい……」
「こうちゃん先生、やればできる子だから。あたしもついつい、やらせちゃうのよね~」
芽衣さんは穏やかなお姉さんだけど、実は結構Sだ。
当日にSS書いて、1時間以内にとか普通にいってくるし(まあ1分で書き上がるから別に支障ないけど)。
「おちびだいじょうぶ?」
みちるがゲルこうちゃんに近づいて、背中をつつく。
『もう絵なんてかかない。もう絵なんてきらいだ。絵なんて……絵なんて……』
ロシア語だけど、多分結構ストレスを感じてたんだろうなぁ。
死にそうな顔してる。
「大丈夫かな」
「大丈夫でしょ。おちびの場合、こうすれば元気になるから」
みちるはこうちゃんのスマホを手にする。
顔認証でロックを解除し、ツイッターの画面をあける。
「ほら、おちび~。いいねいっぱいついてるわよ~」
『うひょひょひょぉおおおおおおおおおおおおおおおおい! いいねきたー!』
こうちゃんがゲルから人間の姿に戻る。最近思うんだけど、こうちゃんって僕の恋人……なんだよね?
「何の絵にいいねついたの?」
「おちびが担当してるVTuberの、クリスマス配信の絵だって」
「へー……」
僕もツイッターを見てみる。たしかに、こうちゃんがガワを書いてる、VTuberたちの絵がアップされていた。
エグいぐらい拡散されてる。さすが。
『有名VTuber本編まだ10月の半ばで、こうちゃんたちのいる世界線は12月24日だから、二ヶ月先のことだけど、あまり気にしないでくれよな』
「こうちゃん良いねいっぱいで元気になった?」
「じゃんぼーりじゃんぼーりじゃんぼーり!」
こうちゃんが立ち上がって、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
じゃんぼーり……? まあ元気になったのだったらいいか。
「さ、ゆーくんみーちゃん、お昼からデートでしょ。しっかり準備して挑むのよ~」
24,25のスケジュールは、芽衣さんが管理してくれている。
まずは、みちるとのデートだ。
「じゅ、準備って、別にいつも通りのデートじゃないの」
「ちゃんと勝負下着はかった?」
「にゃぁああああああああああ!」
みちるが顔を真っ赤にして叫ぶ。ま、まさかまさか。僕らまだ高校生だし、そういうのは……ね?
『ギャルの人はもうやってまっせ、かみにーさま』
こうちゃんが僕の背中をつんつんと指でつついてくる。なんだろうか。
「ゆーくんには、はいこれ」
芽衣さんが僕に何か箱を手渡してきた。
『わーお、幸せ家族計画~。あれ、世代バレる?』
「こ、これ! こ、こ、こ……ゴムじゃないですか!」
性行為のときにつけるゴムだった!
な、なんつーものを!
「あら、避妊は大事よ」
「わかってますけども!」
「ま、やるやらないは自由だけど、せっかくの聖夜だし、羽目くらいはずしてもいいんじゃあないの? ねー、こうちゃん先生もそう思わない?」
こうちゃんはニヤリと意味深に笑う。
「なに?」
『ここで意味深に笑うことで』
「こうちゃんよくわからないって」
『あーん、かみにーさまー。ヒロインの扱い雑いよ~。正ヒロインですよこうちゃんは!』
まあ、何はともあれ、クリスマスデートです。




