141話 お引っ越し
僕、上松勇太は、新しく恋人となった佐久平芽衣さんのおうちにて、引っ越しの手伝いをしている。
と言っても、手伝いに来てくれた贄川次郎太のおかげで、荷物はあっという間に部屋から撤去された。
「す、すごい……さすが次郎太さん! めちゃくちゃ手際がいいです!」
物が無くなった芽衣さんの部屋。
こうちゃんが肘をついて、スマホで動画を見ている。
「こうちゃん何してるの?」
「息子の、配信」
息子?
「だれ?」
「ふっ……」
こうちゃんが意味深な笑みを浮かべる。
『ここで意味深スマイルすることで、こうちゃんもしかして他に男作ってて、子供産んじゃってるんじゃないかってかみにーさまを不安がらせる作戦。っかー! 策士だねぇみさやまこうは!』
「若、荷物詰め込み完了でございやす」
「ありがとうございます! じゃ、いきましょうか」
『あーん、まってよぅ』
ぽてぽて、とこうちゃんが僕の後についてくる。
「で、結局息子って?」
「兄貴」
「息子なの、兄貴なの? ……って、ああ。あの子」
息子とは、こうちゃんがイラストを描いたVTuberのことだ。
彼女は時たまに、彼の配信におじゃましたりする。
『詳しくは有名VTuber~をチェケ! 書籍化、コミカライズまで決まってて、現在第五章まで連載中! まだ間に合う! みんな読もうぜ!』
「こうちゃんいくよー」
こうちゃんが後ろから着いてくる。
芽衣さんに鍵締めを行ってもらった後……。
僕らは芽衣さんマンション入り口までやってくる。
「やーやー勇太君!」
「あ、三郎さん」
黒スーツにサングラスをかけた、次郎太さんそっくりのターミネーターが現れた。
贄川三郎さん。次郎太さんの弟さんである。
三郎さんの隣にはトラックが置いてあった。
「まさか、三郎さんトラック運転してきてくれたんですか? ありがとう!」
「え、トラック持ってきたのは次郎太兄ちゃんだよ?」
「そ、そっか……じゃ、じゃあ荷物をトラックに運ぶのを手伝ってくれたとか?」
「え、おれ今来たとこだけど?」
じゃあこの人何しに来たんだろうか……?
意味がわからない……。
「すいやせん若。三郎は寝坊したんでさぁ。ほんとは一緒に片付けるはずだったのですが」
「荷物下ろしは手伝うぜ★」
ま、まあ……手伝ってくれるのはありがたいか、うん。
次郎太さんが三郎さんと一緒にトラックに。
僕とこうちゃんは、芽衣さんの運転する車に乗り込む。
「じゃ、いざしゅっぱつ! ゆーくんのおうちへ!」
『新しい女の参戦。しかも大人のお姉さんか。こうちゃんとキャラかぶるね』
こうちゃんがロシア語で何か言っていたけど、多分何の意味もないだろうことは確かだと思ったのだった。




