124話 倒れた編集
クリスマスが近づいてきたある日の夜。
僕は担当編集の芽衣さんと一緒に、タクシーで帰ろうとした。
そこで芽衣さんは急に、タクシーの中で気を失ったのである。
話しは数十分後。
実家の方の、僕の部屋にて。
「すぅう……ううん……うう……」
ベッドで眠る芽衣さんを、僕たち家族が、心配そうに見ている。
「あなた、病院に連れて行った方がいいんじゃなくて?」
母さんが、父さんにそう尋ねる。
神妙な顔つきで父さんが首を振った。
「いや、見たところ寝不足だろう。熱もない。今は年末だ。救急車を呼んでもすぐにこないだろうし、ほかにも重篤な病気の人たちが世の中にいる」
「……そうね。お父さんの言うとおりだわ」
父さんがいつになく、真剣だった。それでいて……ぎゅっ、と唇をかみしめている。
たぶん、芽衣さんが寝不足になるまで働かせてしまったことを、悔いているのだろう。
そっ……と母さんが父さんの手を取って、首を振る。
「……芽衣さんは大人よ。体調管理は自分の仕事。あなたばかり、自分を責める必要はないわ」
「そう……だね。ありがとう、母さん。起きたら仕事量について話してみるよ」
お互い支え合う関係。やっぱり、ふうふっていいなぁ……。
「ぼくは佐久平君の両親に事情を説明してくる。勇太、君はどうする? 戻るかい?」
「ううん、芽衣さんのそばにいる」
「そうか……わかった。あとは頼んだよ勇太」
父さんたちは部屋を出て行く。
あとには僕と芽衣さんだけが残された。
寝不足って……言っていた。
そんな寝る間も惜しんで働かなくちゃいけないくらい、芽衣さんは追い詰められてたのかな。
「…………」
考えてみれば、僕、芽衣さんのこと何にもわかっていなかった。
いつも僕をサポートしてくれる、優しいお姉さん。
でも僕は知らない。彼女のプライベートとか、仕事に対する思いとか。
改めて聞かれても、何も答えられない。彼女はパートナー……担当編集なのに。




