123話 芽衣さん
編集部に呼ばれた僕は、新人賞の原稿を読み、その評価をつけた。
5000作くらいあったけど、手分けしてやったおかげで、一日で全部作業は終了!
あとは編集長の父さんと、担当編集の芽衣さん、そしてなぜか最後は僕の三人で、大賞を決めることになるんだってさ。
それはまた後日。
「今日はありがとう、先生! わざわざ来ていただいて」
「いえいえ、ちょうど献本ほしかったですし」
献本とは、本が出版されるときに、作者に渡される本のこと。大体10冊くらいもらう。
一作目のデジマス(文庫版)、二作目の僕心最新刊が12月に同時発売されるので、その献本をとりにくるつもりだったのだ、最初から。
「すっかり遅くなっちゃいましたね。タクシー呼びます?」
白馬先生は一足先に帰っている。
僕は大賞作品の打ち合わせ会議があったから、帰るのが少し遅れたのだ。
「あ、お願いします」
「オッケー! じゃエントランスで待っててね」
芽衣さんがスマホを片手にタクシー会社に電話している。
僕はエレベーターに乗りながら、ふと考える。
「芽衣さんって彼氏とかいないのかな?」
なんかいつも仕事してるイメージある。
メールを休日に返しても、その日のうちに帰ってくるし。
もうすぐクリスマスだし、デートとかするのかな。どうなんだろう。
エントランスで待ってると、芽衣さんが降りてくる。
「もうちょっとで来てくれるみたい。あたしも途中まで乗せてくれないかな? 先生送り届けた後、あたしんちに寄りたいの」
「いいですよ」
ほどなくしてタクシーが来た。
僕と芽衣さんは乗り込んで、出発する。
「このまま帰るんですか?」
「ううん、着替えとりにかえるだけよ」
「え? こんな遅いのに?」
「最近ずっと家に帰ってないのよねえ、あたし」
なんてことのないように芽衣さんが言う。
い、いやいや、問題発言でしょこれっ。
「そんな……どうして?」
「最近仕事忙しくてさ。新しいレーベルの立ち上げに関わったし、先生のアニメ作品もあるし、新人賞も始まったからね」
「で、でもちゃんと休まないと……父さんはなんて?」
「うん。上松編集長もちゃんと休みなさいって何度も何度も言ってくれてる。だから、これはあたしの問題なのよね」
「芽衣さんの……?」
「うん。仕事、頑張りたいんだ。今は」
どこか、切羽詰まった感じがあった。
なにかプライベートであったのかな……?
そこまで踏み込んでいいものか迷う。
そんなふうに考えてると、僕んちに到着した。
「あ、ここで降ります。じゃあ、芽衣さん」
そのときだ。
すると芽衣さんが、ふらっ……と僕に寄りかかってきた。
「芽衣さん? 芽衣さんっ!」
赤い顔をして、芽衣さんが目をつむっていた。
額には脂汗が浮かび、苦しそうに呼吸を繰り返してる。
「た、大変だ……!」




