117話 小説家と小説家志望
白馬王子は、ラノベ歴一年で、ライトノベル作家になって見せた。
その日の夜。
白馬は、親友である岡谷を呼び出していた。
場所は大学近くのバー。
白馬は、深刻な表情でうつむきながら、岡谷が来ることのを待っていた。
「…………」
彼が岡谷を呼び出した理由、それは……自分がラノベ作家になったことを、報告するためだ。
親友に、いつまでも隠し事はできなかった。
白馬は知っている。岡谷が長年作家になろうと努力してきたことを。
その努力を、たった一年で追い抜いてしまった。
追い抜かれた当人からすれば、いい思いはしないだろう。ましてや、一年前は小説を趣味で読む程度、ラノベなんて存在すら知らなかったやつに抜かれたのだ。辛いのは目に見えてる。だから……謝りたかった。
「王子」
「光彦」
そこへ、岡谷がやってくる。この頃になると、お互い舌の名前で呼ぶようになっていた。
ハッ……と白馬がさせられる。
その手には、赤いバラの花束が握られていた。
「デビュー……おめでとう」
「光彦……君は、知ってたんだね」
岡谷がさみしそうな表情でうなずく。
「あのペンネームで、よく気づいたね君は」
王子は投稿作品と自分(この当時から王子は、白馬製薬のイケメン御曹司モデルとして有名だった)とを切り離したかった。だからペンネームで投稿していたのだが……。
「バオウハクジ……アナグラムだろ? 気づくよ、友達の名前くらい」
普通は気づかないだろう。気づけたのは、彼のいうとおり友達だったからか。
自分を、社長令息ではなく、一個人として、友として接してくれる岡谷を、白馬は好ましく思っていた。
……だからこそ。
「すまない、光彦」
白馬は、深々と頭を下げた。
岡谷は自分が辛いだろう気持ちをぐっと抑えて、白馬を祝福してくれたのだ。
親友の心を傷つけてしまった。だから、謝るのだ。
でも……。
「なに謝ってるんだよ王子。おまえは何も悪くないじゃないか」
「しかし……君を傷つけてしまった。私たちは友達だというのに」
岡谷はさみしそうに笑って首を振る。
「おまえが気にする必要ねえよ」
……強い人だと、白馬は思った。
故意ではないとはいえ、傷つけられたとしても、気にするなと言ってくれる。
いい友をもったと思う一方で、やはり……彼に申し訳なさを覚える。
岡谷は微笑んで、ばしっ、と王子の背中を叩く。
「今日は飲もうぜ。祝杯だ」
「光彦……そうだね」
いつまでも気にしていたら、だめだ。彼は前に進もうとしている。気にするなと言ってくれた。ならもう、これ以上掘り返すのはやめておこう。
「おめでとう」
「ありがとう、友よ」
バーテンダーから渡されたグラスを、ふたりは合わせるのだった。
【★お知らせ】
異世界恋愛の新作短編、投稿しました!
『偽の聖女は本物の悪女を目指す〜冤罪で破滅する運命の私、2周目は開き直って世界最高の悪女になるつもりが、なぜかめちゃくちゃ感謝されてた〜』
すごい頑張って書きました!自信作です!
よろしければぜひ!
【URL】
https://book1.adouzi.eu.org/n3625hr/
(※広告下↓にもリンク貼ってます!)




