116話 王子に至る物語
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ぜひ!読んでほしいです!
神作家の同僚……白馬王子の過去。
大学時代、彼は愛する女性を見つけた。だが彼女には思い人がいた。
それは彼の親友……岡谷という男だった。
白馬は彼を応援する一方で……愛する女、贄川一花への秘めたる恋心を抱いていた。
彼女に、少しでも振り向いてもらえるため、彼は小説を……ライトノベルを書いてみる決意をしたのである。
「おお、これがラノベ……」
王子は大学近くの書店へと足を踏み入れていた。
ラノベを書くのならば、まず、ラノベを知らねばならない。
「しかし世の中……これほどたくさんのライトノベルがあるのか……」
本屋の一角には、カラフルに装丁されたラノベが置いてある。文庫本だけでなく、大判のものもあった。
「ジャンルも多い……多種多様だ。これは……理解するのに骨が折れるぞ」
王子はラノベやアニメと言った、いわゆるオタク知識がまるでなかった。ゼロからのスタートと言える。
普通なら無理な道程。
だが……彼は諦めない。
「失礼、そこのレディ」
書店員に声をかける。
ばっ、と懐から財布を取り出し、上限無しのクレカを取り出して言う。
「そこのラノベ……すべて一冊ずついただこう!」
白馬は、白馬製薬という巨大企業の御曹司であると同時に、モデルの仕事もしていた。
親の金ではなく、自分で稼いだ金で、彼は本を大量購入。もちろん他のお客さんに迷惑にならないよう、1巻の、一冊だけ。
本屋を回ってたくさんの、世に出ている本を買い……そして読んだ。
彼は学業、モデル業、そして友達との時間。そのすべてをこなしながら、空いてる時間を利用して、読んだ。
ひたすらにラノベを読み、研究する。
分析する。
いったい世の中で、何が求められているのか。何を書けば、みなが喜んでくれるのか。
天才カミマツと違って、彼は凡人だった。
何も考えずに書いたデジマスという神作品が、大爆発ヒットを起こす……タイプの作家ではない。
世の中の人たちが、望むものを、調べて書く。
彼に才能があるとすれば、その財力、そして……分析力だった。
彼は世の中のラノベのほとんどを読んだあと、次にやったことは、なろうのアカウントを取って、小説を投稿することだった。
「インプットだけでは駄目だ。仕入れた情報をアウトプットせねば……」
投稿サイトにアカウントを取って、その日のうちに投稿。
だが……。
「くっ……! ゼロポイント。だが……面白い! この白馬王子が、この程度で諦めるとでも思っているのかい!」
彼はモデルとしての知名度を、利用しなかった。名前を伏せて、純粋に、ゼロからお話を作り上げた。
空いてる時間を執筆にあて、投稿。
失敗、投稿……失敗……。
そんな日々を繰り返す一方で、小説を読み、研究する日々……。
彼は努力を努力と思っていなかった。これは必要なプロセスだと思っていた。
この業界において自分が一番下だと思っていた。
だから誰より努力するのは、当然。
結果が出ずに苦しむ日々を送りながらも、少しずつ……彼はファンを増やしていった。
そして、ある程度ネットでの人気が獲得できるようになってきた、ある日。
彼は一本の投稿作品を作り上げる。
「ネットでの評判もいい。これなら……!」
王子は一度ネットにアップしたそれを、手直しして、ラノベレーベルTAKANAWAの新人賞に応募。そして……。
ラノベ作家を志して、一年後。
二年生の夏。
「わ、私の作品が……大賞、ですか」
それは編集部からの連絡だった。
自分が書いた投稿作品が、見事、新人賞を獲得したという連絡だった。
「やった……やったぞ……! ついに……!」
ずぶの素人だった彼が、たった一年で、大手出版社の新人賞を獲得するまで進化した。
恐るべき進化速度。
誰もが彼を天才だと称した。
さらに、ネットにあげて連載していた物語の書籍化まで決まった……!
「やった……やったぞ! これで……少しは一花くんも……!」
自分を、見てくれるだろう。
喜びいさんで、彼は一花に報告しにいこうとした。
だが……。
「あ……」
王子は、見てしまった。
うなだれる、親友……岡谷の姿を。
それは大学のカフェ。
岡谷はひとり、テーブルに小説雑誌を広げている。
それは……自分が投稿した新人賞の、一次選考の結果が載ってる雑誌だった。
王子は雑誌を見る前から、自分が大賞を取ったことを知っている。
どこの新人賞も、とても才能のある作品は、すでに選考して結果が出ているのだ。
そう……。
「我が友よ……まさか、その新人賞に、応募したのかい?」
岡谷は小さくうなずいて、弱々しく言う。
「……駄目だったよ」
残酷なことに、白馬には才能があって、親友には……まったく、小説家の才能が無かった。
そして……悲しいことに。
「そうかい……残念だった。なぁに、次があるさ!」
白馬王子は、悲しいくらいに、白馬に乗った王子だった。
友達が落ち込んでいる一方で、自分の結果をみんなに祝って貰おうとするような、人間ではないのだ。
誰かが悲しんでいるなかで、自分だけが幸せを享受できるような人間ではない。
「一花くんと私、そして光彦。三人で旅行へ行こう! 元気を出したまえ!」
彼に女を奪うという選択肢はない。
彼は王子だから。
自分の手柄をひけらかすことはしない。
そう……彼は、王子だから。
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