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【完結】高校生WEB作家のモテ生活 「あんたが神作家なわけないでしょ」と僕を振った幼馴染が後悔してるけどもう遅い  作者: 茨木野
番外編

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115話 白馬王子の、産声



 季節は大学1年生の夏。

 前期試験を終えた白馬は、一花、岡谷おかやを誘って海にきた。


 この頃になると三人でよくあちこちでかけるようになった。


 それは白馬が、岡谷と一花をくっつけようとしていたからだ。


 この日、彼らは江ノ島に来ていた。


 1泊2日の旅行と言うことで、海辺の民宿を借りて、海で遊んでいる。


 一花の見事なプロポーションに思わず見とれる白馬。


 けれど岡谷はあまり女性の体に興味が無いようだった。


 最初、恋人がいるから、他の女に興味を持たないのか、と思ったがどうにも違うように思えた。


 彼はどこか【枯れている】ように覚えた。

 それは彼が苦労を重ねているからであろう。

 岡谷は同世代と比べて、少し老けているように見えた。


 原因は彼の恋人だろう。

 岡谷の恋人はたいそうわがままであるらしく、いつも彼は振り回されていた。


 だから疲れているのだろうし、女性に対して、あまり興味を抱けないのではないか、と白馬は推察した。


 そんな彼を少しでも元気づけたいと、今回の旅行を計画した白馬。


 3人で海に来て、楽しく時間を過ごした。


 普段あまり感情を表に出さない岡谷も、この日は楽しそうにしていたように思えた。


 ひとしきり海で遊んだあと、3人は宿へと戻ってきた。


 飲み会の途中で、白馬は中座。


 一花たちを二人きりにしてあげた。


 1時間くらい外をぶらついて、戻ってきたのだが……。


「おや? 我が友よ。一花くんは?」


 部屋には岡谷しかおらず、一人黙々と、小説を書いていた。


「おまえが出て行って、10分くらいしたら、あいつも出てったよ」


 おそらく、一花は照れてしまったのだろう。

 一花は結構【純】なのだ。


 白馬と三人で居るときは普通に岡谷と話せるのだが、いざ白馬がいなくなると、はずかしがって何もしゃべれなくなるのである。


 熟れた極上の体を持つ女神も、中身は女子中学生のような女なのだ。


 まあゆっくり仲を深めていけば良い。


 そう思って、白馬は岡谷の前に座る。


「それで、君は一人で何をしてるのだね」


「投稿作品を書いてる」


「小説かい?」


「ああ」


 岡谷は空いてる時間があると、すぐに小説を書き出す。


 ポメラという小型ワープロを持ち運び、隙間時間を使って執筆をしてるのだ。


「君はマメだね」

「そうか?」


 かたかた……と岡谷が小説を書いてる。

 ふと、気になって聞いてみた。


「我が友よ。君はどうして小説を書くのだね? お金でも欲しいのかい? それとも名誉?」


 岡谷は手を止めて、少し考えたあと、こういう。


「強いて言えば、自己表現……かな」

「自己表現……」


「ああ」

 

 岡谷はポメラから目を上げて、窓の外を見やる。


「俺、田舎出身なんだよ」

「長野県、だったかな」


「ああ。何にも無い田舎でさ。家もあんまり裕福じゃなかった。だから図書館で本を借りて一人で読んでたんだよ」


 岡谷はそのとき、色んな本に触れて育ったという。


「そのうち、自分でもこういう人たちみたいに、自分だけの世界を表現したいって思ってさ」


 そう語る岡谷の目は、キラキラ輝いていた。

 普段から、枯れ木みたいな雰囲気と、冬の曇り空みたいな目をしてる彼が。


 その目に未来を、希望を携えて、自分の思いを語っている。


「本当に君は、小説家になりたいんだね」


「ああ。と言っても、全然芽が出ないんだけどな」


 さっきまでの綺麗な瞳から一転、また曇り空のような目に戻る。


「わかってるんだ。俺の書くのが、時代遅れ……というか、俺の書きたいものしか書いてないから、読まれないんだってさ」


 彼はあくまで、自己表現のつもりで小説を書いている。


 自分の書きたいもの、自分の言いたいことを、自分の思いをぶつけている。


 ともすれば独りよがり。


 だから、受けないのだと、彼は自覚はしているのだ。


「でも、俺が書きたいのは、表現したいのは、俺が書きたいって思ってる……この情熱なんだよ」


    ★


 深夜。白馬は眠れず、ひとり宿を出て海へ向かった。


「一花くん……?」


「白馬君……」


 一花は一人海を見ながら、黄昏れていた。


「女性がひとり、夜に出歩くなんて不用心だよ。それに海からの風は体に応える」


 白馬は自分が来ていた半纏を、一花にそっ……とかけてあげる。


「本当に紳士ね、君は」


「ふっはっは! まあね!」


 白馬は一花の隣に座る。

 はぁ~……と彼女は深く溜息をついた。


「ごめんね、二人きりにしてくれたのに……」


 一花は白馬の気遣いに気づいていたようだ。

「照れちゃって……何も言えなくて……結局……」


「いやなに、次があるさ。落ち込むことはない」


 ぽんぽん、と白馬は落ち込む一花の肩をたたく。


「ありがとう……はぁ……岡谷君……どうしたら振り向いてくれるのかなぁ」


 白馬が協力者となってから数ヶ月が経過した。


 その間彼のアシストがあったおかげで、一花は今まで以上に岡谷と接近できた。


 だが……仲は全く進んでいるようには思えなかった。


 友達としては仲良くなれても、しかし男女の仲にまでは発展できない。


 数ヶ月もアプローチしまくっているのに、無視されて、普通だったらもう諦めるだろうに。


 この一花という女性は、それでも彼を愛し続けた。


 ふと……気になったことを口にする。


「なぁ、一花くん。我が友の……どこが好きなのだい?」


 一花は照れながらも答える。


「彼の、ひたむきに頑張って、夢を追ってるところ……かな」


 夢。

 それはつまり小説家になる、ということ。


「彼ね、ずっと昔から小説、書いて投稿してるんだって。空いてる時間は全部小説に費やして……でも、それでもなれない」


 それだけ努力していても、なれないなんて。

 小説家は狭き門なのだろう。


「彼、すごいのよ。授業は寝ずに、サボらずきちっと聞いててね。レポートも他人のうつさないし、研究もちゃんとする。……恋人の相手もする。そのほか空いてる時間、ぜーんぶ小説に情熱を捧げてるの」


 岡谷という人間を近くで見てきて、白馬が彼に抱いた印象は……生真面目すぎる、というものだった。


 大学生は普通、もう少し手を抜く。

 レポート、課題、そのほか諸々。


 だが彼はすべてをきっちりとこなす。

 その上で、夢を追っている。


「あんなふうに頑張って、夢を追ってる男性ひとは、素敵だなって、思うんだ」


 頑張って夢を追ってる……人。


 白馬は一花の言葉を反芻する。


 自分は、果たして夢を追っているだろうか。

 白馬製薬の御曹司として生まれ、勉強もスポーツもできた彼。


 金持ちで、将来も約束されている。


 地位も名誉も、人がうらやましがるものはすべて持っている……。


 ……けれど。


 一つ持っていないものがあった。

 それは、夢だ。


 何を犠牲にしても手に入れたいという、大いなる目標というものが、彼には、なかった。

 岡谷にあって、自分にないもの。


「……そうか、それ、か」

「白馬君?」


「いや、なんでもない。そろそろ戻ろう。美しい君を狙ってナンパする野郎たちから、君を守らないとね」


「いないわよ、そんなの人」


 ……いいや、いるよ。

 白馬が小さく、本当に小さく、つぶやいた。

 夜の月に照らされて、きらきらと輝く黒髪。

 白く滑らかな肌。

 愁いを帯びた表情。どれも、魅力的に、白馬には映った。


「いこうか」

「そうね」


 二人は夜道を歩き出す。

 恋人として二人歩けていたら……と思う。


 だがそれは叶わない。


 一花の心は岡谷おかやのなかにある。


 ……自分と、岡谷。

 二人を分けているものはなんだろう。


 ーーあんなふうに頑張って、夢を追ってる男性ひとは、素敵だなって、思うんだ



 夢を追う姿勢。

 夢……。


「……私も、書いてみようかな」


 小説を。

 おってみようと思ったのだ。


 夢を。彼女が、もしかしたら、振り向いてくれるかも知れないから……。


 このとき、作家【白馬王子】は産声を上げるのだった。

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挿絵(By みてみん)

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★新連載です★



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『キャンピングカーではじめる、追放聖女の気ままな異世界旅行』

― 新着の感想 ―
[一言] 岡谷は白馬が一花を好きな事に気づいてないはずないのにずっと対応がおかしいですね。
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