108話 真相、一件落着
声優の由梨恵の家にて。
僕は自分がカミマツであることを明かした。
由梨恵の母親が驚愕の表情を浮かべている。
「カミマツって……あの? デジマスの作者じゃない!」
一般人もデジマスって知られてるみたいだ。
「思ったより知名度あるんだなぁ」
「「「「いやいやいやいや」」」」
その場に集まった、僕の彼女たちや、御嶽山監督が首を振る。
「先生。あんた思ったよりってそりゃあねえよ」
「……そうですよ、ユータさん。デジマスは老若男女、幅広い人たちに愛される世界的コンテンツじゃないですか」
アリッサがうんうん、とうなずきながらいう。
一方でこうちゃんも、ロシア語でつぶやきながら言う。
『おっと久々の無自覚無双。最近この設定使われて無くてごめんなそーりー』
みちるがあきれたように溜息をつく。
「勇太……ほら、話進まないから」
あ、そうだった。
「僕がただのガキじゃないって信じてくれましたか?」
由梨恵の母親は「たしかに……」とたじろいでいる。
「世界的映画監督に歌手を、一般人が簡単に呼び出せるわけがない……じゃ、じゃあ……本当に、あの神作家の?」
由梨恵母が動揺している。
一方で由梨恵父はフッ……と余裕な感じを保ちながら笑っていた。
「それでカミマツ君。君は……本気かね?」
父親……五竜さんが、僕に問うてくる。
覚悟を。
「はい。僕は、由梨恵さんをこの先ずっと支えていきます」
続いて五竜さんは、自分の娘、由梨恵を見やる。
「彼はそう言ってるが、由梨恵。おまえはどうなんだ? 彼氏が覚悟を見せているのに、泣いてるだけなのか?」
由梨恵が体をこわばらせる。
不安げにゆれる彼女の瞳。
僕は彼女の手をぎゅっと握った。
この先も、ずっとこうして、彼女が迷っていたら手を握ったり、背中を支えてあげるよ。
だから、迷わないで。そう言う意味を込めて、僕は彼女の目を見つめる。
由梨恵は、覚悟が決まったらしい。
ぐいっ、と目元を拭うと、父親に向かって頭を下げる。
「お父さん、お母さん……私、勇太君が好き! 勇太君と……結婚したいの!」
由梨恵が強く自分の意思を伝える。
母親は無言で、けれど動揺していた。
「あ、あなた……」
どうするかは、父親に任せるようだ。
五竜さんはフッ……と笑う。
「合格だ」
「ご、うかく……?」
由梨恵も、そしてその場のみんなも、五竜さんの【真意】に気づいてないようだ。
「カミマツ君……いや、勇太君。君は気づいてたのだね」
「はい」「気づく……?」
五竜さんを見やると、笑ってうなずいた。
「最初から、由梨恵を試してたんだよ。この人【たち】」
「た、たち……?」
「うん。多分ね、五竜さんと王子先生は、ぐるだったんだ。ですよね、先生?」
僕がそう言うと、ばーん! と扉が開く。
「お、お兄ちゃん!」
「やぁマイシスター」
きらん、と白い歯を見せる白馬先生。
彼は無事だった。
「あ、あの屈強なボディガードさんたちに、捕まって、酷い目に遭わされてたんじゃないの……?」
「ノープロブレム! 心配させてすまないね、我が妹よ」
彼の後ろには、ボブサップ似のボディガードさんたち。
うん、やっぱそうだ。
「これ、最初から、全員ぐるだったんですよね」
先生はフッ……と笑ってうなずく。
「その通り。さすが神作家。何でもお見通しってわけか」
僕は展開、呈示されている情報、そして……キャラクター達。
それらから未来と、そして意図を読み解き……。
今回の一連の騒動が、作り話だったことに、気づいたのだ。
「作り話って……どこからどこまで?」
「最初から全部だよ。多分婚約者なんてそもそもいなかったんですよ、ね?」
うんうん、と先生と五竜さんがうなずく。
「由梨恵の覚悟を知りたかったのだ」
「我がシスターが本気なのか確認しておかないと、ということで、父と一緒に一芝居打ったのさ。ま、見事我がライバルに見抜かれてしまったがね」
……最初から、オカシイとは思ったんだ。
白馬先生は、とても紳士的な人間だ。
誰に対しても気遣いができる人。
それは親に対しても。
もしも婚約話が本当にあったとして、逃がしたとしたら、父親、そしてグループ全体に迷惑をかけてしまう。
だというのに、妹のためとはいえ、わがままを通した。
そんな独りよがりなこと、するような人じゃない。
「お兄ちゃんも含めて、全部嘘だったのね……」
「まあ、でも由梨恵を思う気持ちは本気だから、恨んだり怒ったりしちゃ駄目だよ由梨恵」
「でもぉ……」
さすがに大がかりすぎたのは否めない。
「君の覚悟、能力、きちんと見せてもらった。カミマツ君」
五竜さんが微笑んでうなずく。
「君を認めよう」
「ふふ……父上。こんなことせずとも、最初からカミマツ君を認めていたくせに」
あれ、そうなの?
「一時期塞ぎ込んでいた由梨恵が、元気になった。声優という自分の夢を見つけた。それくらいの力を持っている男だ。認めざるをえないだろう?」
そっか……五竜さんは、最初から認めててくれたんだ。
試されていたのは、僕だけじゃなくて、由梨恵もだったんだな……。
「お父さん……本当に、いいの?」
「ああ、もちろん」
由梨恵からの問いかけに、五竜さんが笑顔で答える。
「声優……続けていいの?」
「ああ。続けなさい」
「でも……会社は……」
「私は会社を、世襲させるつもりはない。能力がある、ふさわしい人材に次につなげるよう手配はすんでいる。おまえは、気にせず、好きな男と結ばれなさい」
五竜さんは立ち上がって、由梨恵のそばまで行く。
「声優も、そこの彼も……おまえが自分で選んだ道だ。親として、それを阻むつもりは毛頭無い」
「お父さん……う、うう……うえええええええええええええええん!」
由梨恵が父親に抱きつく。
彼は微笑んであたまをなでる。
「とはいえ……私の真意を見抜けぬような愚図なら、容赦なく由梨恵は家に連れ戻すつもりだったが、やはり……カミマツ君、君は素晴らしい」
「五竜さん……」
「私のことは、お義父さんと呼びなさい」
「そして私のことはお義兄さんと! 呼ぶことを許そう、我がライバル……いや! 我が義弟よ!」
五竜……お義父さんも、お義兄さんも、笑っている。
母親も「まあカミマツ様がグループの一員になるならいっか……」と許してくれたようだ。
「勇太君……!」
由梨恵が笑顔で、僕に抱きついてくる。
「ありがとう! 君のおかげだよ! 大好き……!」
こうして、一連のゴタゴタに、一応の決着がついたのだった。
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