107話 覚悟を見せる
僕は由梨恵の両親に、娘さんが欲しいと宣言した。
「んな! 何を言ってるのあなたはぁああああああああああ!?」
彼女の家の来賓室にて、由梨恵母がぶちぎれしてそういう。
「大事な娘さまを、僕に下さい! 僕は彼女と結婚したいんです!」
僕の発言に、その場にいた全員が別のリアクションを取る。
母親は烈火のごとく怒り散らしている。
由梨恵はまだ僕の言葉を飲み込めていないのか、呆然としていた。
その中で唯一冷静だったのが、父親の白馬 五竜さんだ。
彼はじっと僕の目をまっすぐに見ている。そこに動揺は見られない。
すごい人だ。会社の社長ってだけある。
「ちょっとあなたねぇ! ふざけないで!」
由梨恵の母親が僕のもとへやって詰め寄ってくる。
意外と背が高いので、ナチュラルに見降ろされているような体制だ。
「あなたみたいなただのガキに、うちの大事な娘を譲れるわけないでしょぉ!?」
まあ、当然こういう反応されると思う。
驚いたり、怒ったり。
逆に冷静な五竜さんが一番おかしいのだ。
「この子の結婚相手はもう決まってるの!」
「その婚約を、破棄してもらいたいです!」
「こ……!?」
「はい!」
僕の態度に愕然とする母親。
由梨恵がようやく事態を飲み込めたのか、僕に恐る恐る聞いてくる。
「結婚って……ほんき?」
「うん。僕は君が好きだ。変わるきっかけをくれた、君が」
夏休みの終わり、僕はとあることに悩んでいた。
それは、好きな女の子がたくさんいるということ。
みちるも、アリッサも、こうちゃんも、そして由梨恵も。
みんな大好きな僕はしかし、どうすればいいのかわからないでいた。
「そんなときに君が道を示してくれたんだ。みんなと付き合えばいいって」
それから、僕は楽しい日々を送っている。
みんなが幸せな毎日を送れている。
由梨恵は、思えば僕が初めて参加したパーティでも、僕に代わるきっかけをくれた女の子だ。
いつだって僕に驚きと喜びを教えてくれる。
「そんな君が好きなんだ」
「勇太君……」
僕の言葉が彼女に届いたのか、ぽろぽろ……と彼女が涙をこぼす
「うれしい……うれしいよ、勇太君!」
彼女が僕に抱き着いて、ぎゅっ、と抱擁してくる。
ああ、良かった。思いが一方通行じゃなくて。
本気が伝わってくれて、良かった。
「って! よくない! よくないわよぉおおおおおお!」
由梨恵母が怒り狂ったように叫ぶ。
「なんでこんなただの小僧に! 白馬家の令嬢たる由梨恵を渡さねばならないのよ!」
と、そのときである。
「おっと!そいつはどうかな!?先生はただ者じゃあないぜ!」
ばん! と扉が開くと、そこには……。
「な!? 誰よあんた達!」
ターミネーター三郎さん!…と、その後ろには…
「み、みちるん! みんな!」
みちる、アリッサ、そしてこうちゃん。
さらに芽依さん、父さん、そして御嶽山監督。
『すごい平成ライダーみたい!』
ロシア語で変なこと言ってるこうちゃんは置いといて、由梨恵母は驚いてるな…特に、アリッサと御嶽山監督を見て。
「て、テレビで見たことあるわ……世界的歌姫ホタカ・有明の娘に、それに世界的な映画監督まで……」
ホタカ・有明というのは、アリッサのお母さんの名前だ。
「こ、こんな有名人が、どうして?」
「それは、彼に呼び出されたからだろう?」
五竜さんが母親に向かって言う。
なるほど、彼はもう最初から知ってたわけだ。
「呼び出された……? そこの子供に?」
ふっ、と五竜さんが無知な母親に向かって言う。
「彼は、上松勇太君は、神作家カミマツ先生その人じゃないか」
ぽかん、と由梨恵母が口を大きく開く。
「あ、あんたみたいなのが、神作家なわけないでしょぉおおおおおおおおおお!?」
そんな母親のリアクションを見て、みちるが「ま、普通はこういうリアクションになるわよね、わかるわ……」と共感しているのだった。




