106話 白馬父・母
僕は由梨恵の結婚を取りやめてもらうため、白馬邸へとやってきた。
21世紀、しかも令和の日本だって言うのに、まるで異世界の貴族の家みたいな、広くて洋風なお部屋に通される。
ほどなくすると、1組の男女が現れた。
父親は、白馬先生にどこか似ている。
背が高く、淡い色の髪。
けれど先生よりも鋭く、どこか冷たい目をしていた。
母親は由梨恵に似ている。
黒髪の美女。
こちらはその瞳に、少しばかりの怒りが見て取れた。
「…………」
隣に座る由梨恵が、ぎゅっ、と唇を噛んでうつむく。
両親ともに苦手なのだろう。
彼女の手が冷たくなっていることから、伝わってくる。
父親の方は感情がうかがえないけど、母親の方は明確に娘……として僕に対して憤っているのが見てわかるくらい、にらんできている。
でも……ここで怖がってちゃ駄目だ。
「はじめまして、上松 勇太と申します」
僕は立ち上がり、頭を下げる。
「夜分遅くに、すみません。また……娘さんを連れ回して本当に申し訳ありません」
事情はどうあれ、僕は部外者で、彼女たちの時間に水を差したのは事実だ。
「全く本当よ!」
先に声を上げたのは、由梨恵の母親だった。
「嫁入り前の大事な娘を、夜中中連れ回すなんて!」
「おまえは、少し黙ってなさい」
由梨恵の父親が静かにそう言う。
「でも……!」
父親ににらまれて、母親黙ってしまう。
力関係で言えばお父さんの方がうえなのか。
「初めまして上松君。私は白馬 五竜。由梨恵の父だ」
お父さん……五竜さんは淡々と挨拶をしてくる。
「はじめまして、五竜さん。お母様の御名前は……」
「んまっ! お母様ですって! 他人のアナタにそこまで言われる筋合いは」
「黙っていなさい。二度目だぞ。3度目は無いと思え」
うぐぐ……と母親が口ごもる。
【やっぱり】、と僕は半ば確信を得た。
母親の方はわからないけど、五竜さんのほうは、わかる。
彼は話を聞いてくれる。
ならば僕は言う。
「今日ここに来たのは謝罪と……お願いがあってきました」
「ほぅ。謝罪」
「はい。お父さんたちの気持ちを考えず、娘さんを連れ回したこと、深くお詫び申し上げます」
下手すれば誘拐事件と思われてもおかしくなかった。
でも【そうしなかった】。
それがカギだと僕は思ってる。
「……お父さん、お母さん。わたしも……ごめんなさい」
由梨恵も立ち上がって二人に頭を下げる。
「……勝手に出てって、その……」
けれど五竜さんは静かに首を振る。
「良い。先に上松君の言いたいことを全部聞こう。それで……お願いというのは何かね?」
静かに、僕を見つめてくる五竜さん。
僕は、由梨恵を見て、目を閉じて、そして言う。
「娘さんを、僕にください……!」
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