105話 神作家の力
僕は由梨恵の悩みを聞いて、彼女のためになんとかしたいと考えた。
お台場の夜の公園にて。
PRRRRR♪
スマホに着信が入ってきた。
画面を見ると、みちるからだった。
『ちょっと勇太、帰り遅いけど大丈夫?』
突然家を出たのでみちるが心配して連絡を寄越したのだろう。
ちょうどいい。
「うん、大丈夫。実は……」
僕は今起きていることを手短にまとめる。
由梨恵が無理矢理お見合いさせられそうなこと。
声優業までやめさせられそうなこと。
『なにそれ! ひっどい両親ね!』
「だよね。だから僕、なんとかして由梨恵の両親を説得しようって思ってるんだ」
『説得って……できるの?』
「わからない。でも、ただバカ正直に行っても追い返されるだけだと思う」
『まあ勇太って見た目ただの高校生だし、いくら出版業界の神だとしても、信じてくれないかもね』
神とか以前に、
僕ごとき小僧が突然行ったところで、みちるの言うとおり追い返されるだけだ。
「だから、僕は頼ろうと思う」
『頼る?』
「うん、信頼できる仲間とか、おとなにね」
相手は一企業の社長だ。
そもそもとして単なる高校生の僕が、会うことすら普通はできない。
あくまで僕一人では、での話だ。
「みちる……。それに、みんなの力も、貸して欲しいんだ」
僕は作戦の内容を伝える。
電話口の向こうでみちるが息をつく。
『そりゃまた大がかりね……でも、わかったわ。とりあえずアリッサとおちびにはこっちから伝えておく』
「いいの?」
『あんたは他の準備もあるんでしょ?』
「ありがとう。愛してるよみちる!」
『にゃ゛……! へ、へんなことゆーなぁ~♡ ばか~♡』
その後僕は【準備】に取りかかる。
といっても、お願いするだけなんだけど。
ややあって。
「うん、完成」
ベンチに座っていた僕と由梨恵。
そしてちょうど目の前に、僕らをここに送り届けてくれた、贄川さんのお姉さんがいる。
「何が完成したの?」
「シナリオさ」
「「シナリオ?」」
はて、と贄川お姉さんと由梨恵が首をかしげる。
「安心して由梨恵。君の問題は全部解決するから」
婚約者の件、声優を諦める件、そして同棲生活が解消される件。
そのすべての問題は、取りのぞかれる。
「なっ!? ど、どうして……わかるの?」
「え、だって与えられた条件から、最適な展開を作るのって、小説家なら誰でもできる必須技能だよ」
「そ、そっかぁ~……」
由梨恵はまだいまいち信じてない様子。
「一花さん」
「なぁに?」
僕は背後を指さす。
ここはお台場にある公園で、僕の後ろには茂みがある。
「真後ろに多分追っ手の人がいます。上に連絡されたら面倒です。ちょっと制圧してきてください」
「は、はぁ……? 追っ手?」
「はい。たぶん由梨恵を捕まえて、両親の元へ連れてこうとしてるんだと思います」
一花さんは首をかしげている。
暗くて、たぶん姿が見えないんだろう。
「お願いします、信じてください」
一花さんは戸惑いつつも、うなずいてくれた。
「……わかったわ。あなたを信じる」
「ありがとうございます。トイレに行くフリして、時計回りに回り込んでください」
こくん、と一花さんがうなずいて離れる。
僕と由梨恵だけが残される。
「だ、大丈夫かなぁ……追っ手って」
「うん、大丈夫。一花さんなら勝てるから」
どがっ! ばきっ!
「ほらね」
黒服の大男を引きずりながら、一花さんが茂みからでてきた。
「嘘みたい……本当に追っ手の人がいたわ……」
ホテルで見かけたボディガードの人たちだ。
やっぱり。
「ど、どうして追っ手がいるってわかったの?」
「まさか未来予知の超能力者……?」
一花さんと由梨恵が首をかしげる。
「あはは、そんなんじゃないよ。僕は単に次の展開を予測しただけ。ほら、小説を読むときって、次の展開を予測しながら読むでしょ?」
「それは……まあそうだけど」
一花さんが首をかしげている。
「それと一緒。与えられた手札から、次のキャラクターの動きを予測する。僕のシナリオだと、これで数時間は時間が稼げる。その間に準備は整うから、悠々と、両親の元へ行けば良い」
二人がなんだか、とてもびっくりしたような顔になる。
「え、どうしたの?」
「す、すごいよ……勇太くん。まるで神様みたい……」
「予想通りに世界を動かすなんて、本当に神作家なのね……」
由梨恵と贄川さんが驚いている。
え、何言ってるんだろう……?
「僕が世界を動かす? 違うよ、単に次の展開を予測してるだけ。予測が出来るなら回避できるでしょ?」
「いやでも……それでも望む未来に変えてるんだから……すごいわよ、あなた」
お姉さん、すっごい驚いている。
そんなに驚くことだろうか……?
シナリオを考えるのも、小説家の必須技能だよね?
「じゃ、とりあえず作戦開始と行こうか。大丈夫、僕は君を、すべてから解放するから」
由梨恵の不安げな表情は、完全には晴れない。
でも、少しだけ微笑んでくれた。
「ありがとう、勇太くん」
よし、じゃあ行動開始だ。
彼女の未来は、僕が変えてやる。
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