100話 白馬兄妹の事情
こうちゃんと遊んだその日の夜。
僕の携帯に、白馬先生から電話がかかってきた。
『我がライバルよ。至急頼みたいことがあるんだ。指定の場所にきてくれないかい?』
僕と白馬先生は作家友達であり、仲間であり、ライバル。
そして恋人の、由梨恵のお兄さんでもある。断る理由がない。
僕はラインに送られてきたURLの住所へと向かう。
都内にある高級ホテルだった。
「ここの……男子トイレ?」
なんでトイレの中に呼び出されたんだろう……。
なんとなくきな臭さを覚えながら、僕はホテルの男子トイレへと入る。
「ふはは! 久しぶりだね、我がライバルよ!」
お手洗いに腰を下ろしていたのは、白スーツのイケメン作家。
白馬 王子。
大人気ラノベ作品、【アーツ・マジック・オンライン】、通称【AMO】の作者だ。
甘いマスクに、胸には赤いバラが特徴的の、かっこいい先生!
「こんな夜分に呼び立ててすまない。また、急な招集に応えてくれてありがとう。感謝してもしきれない」
「いえ、そんな……どうしたんですか、急に? しかも、トイレの中なんて」
「うむ、君を巻き込んでしまうのは非常に申し訳ないのだが、我が妹、由梨恵に関わることなのだ」
「由梨恵に?」
真面目な表情で、白馬先生が僕を呼んだ理由を語る。
「実は今日、我々はこのホテルにて、両親と会っていたのだ」
「ご両親と食事会ですか?」
「表向きはね。実際は違う。……両親が、由梨恵を連れ戻しにきたのだよ」
「つ、連れ戻す!? 由梨恵を!?」
現在、僕の家には、複数の女子達が一緒に住んでいる。
みちる、アリッサ、こうちゃん、そして……由梨恵。
僕が借りた家に、5人で同居している状況なのだ。
「我が両親は、君たちと由梨恵を一緒に置きたくないらしい」
「そんな……どうして……?」
「我々は会社の社長の息子、そして娘なのだ。両親としては息子達によりよい結婚相手を用意したいらしい」
それだけで、なんとなく言いたいことがわかった……。
「由梨恵に……お見合いとか、そういう話があるんですか?」
「ま、簡単に言えばそうだ。さすが我がライバル、話が早くて助かる」
「でも……由梨恵が反対してると」
つまりだ。
由梨恵の両親は、由梨恵にお見合いの話をするため、彼女をここに呼んだんだ。
お見合いするんだったら、僕の家にいるのは……駄目だよね。
ふっ、と白馬先生が笑う。
「そんな顔をするな、我がライバルよ。君は一つ勘違いしてる」
「え?」
「由梨恵が、反対してるのではない。由梨恵【も】、反対しているのだ」
も……?
つまり……兄である白馬先生も、お見合いには反対してるってこと?
「ど、どうして……? だって、結婚相手は、僕なんかより、良い条件のひとなんでしょう?」
「社会的な地位で言えば、相手もまた会社の息子。上と言える。しかしね……私は言いたい。だからどうした、そんなのは関係ない……ってね」
白馬先生は優しく微笑むと、僕に言う。
「我がライバルよ。君は知らないだろうが、由梨恵は少し前まで辛い時期があったんだ。大企業の社長令嬢ということで、いろいろとしがらみがね」
……いつも屈託なく笑っている彼女に、そんな時期が……。
「でも我が妹は君と出会って変わった。毎日笑っている。それは君が、そして君の友達たちが、招いたことだと思う」
白馬先生は微笑んで、僕の前で頭を下げる。
「ありがとう、カミマツくん……いや、勇太君。そしてどうかお願いしたい。私の可愛い妹を、君の手で、幸せにして欲しいと」
お兄さんである、白馬先生から、ここまで愛されてるんだ……由梨恵は。
そんなに大事にされている、彼女を……僕は任された。
僕は……どうする?
どうしたい……?
答えは決まってる。
「もちろん、僕は、由梨恵も幸せにしてみせます!」
僕は決めたんだ。
みんなで幸せになろうって。
「それでこそ、我がライバルだ」
にっ、と白馬先生が笑う。
そしてまた深々と頭を下げる。
「協力してほしい、我が妹をここから連れ出すのを」
「はい! 具体的には?」
「ここへ来る前、トイレのとこに、屈強なボディガードがいただろう?」
「はい、黒人レスラーっぽいひとが、いました」
「彼は私と由梨恵の監視さ。今、隣の女子トイレには由梨恵がスタンバっている」
男子トイレは女子トイレと隣接しているのだ。
「私がここで騒ぎを起こし、ボディガードの注意を引く。そのすきに君は由梨恵を連れて風のように立ち去るんだ」
「おとり作戦ってことですね……」
でも、これだと……。
「嘘だってばれたら、大目玉ですよね」
「だろうね。ボディガードは由梨恵を連れ戻そうとするだろう。ま、私がさせないがね!」
身を挺して、妹の時間稼ぎを買って出ようとしてるんだ……!
「そんな……危ないですよ! あんなボブサップみたいな人と戦うなんて!」
「フッ……いいかい我がライバルよ。男には、たとえ負けるとわかっていても、体を張らねばならぬ時があるのだ……!」
ばっ……! と先生がかっこいいポーズを取る。
「私にとって体を張ってまで戦うべきは今なんだ。勇太君。君は私に気にせず、由梨恵と合流できたら、まっすぐにホテルから離脱するんだ。【助っ人】は用意してる」
「助っ人……」
白馬先生は、覚悟が決まっている。
僕も……決めないと。
「わかりました!」
「よし、では作戦決行だ!」
白馬先生がスマホを操作する。
そして、胸の赤いバラを僕のポケットにねじ込むと、ウインクをする。
それが合図だ。
「うぐ、ぐあぁああああああああああ! く、苦しいぃいいいい! 助けてぇええええええええええええ!」
ボブサップのボディガード……ボブが入ってくる。
僕は入れ違うように外に出る。
ボブからすれば、僕なんて、ただの一般人だと思っているだろう。
「胸が! うぐ……くるしいい……!」
「大丈夫デスカ、王子サマ」
今のうちだ……!
僕はすぐさま女子トイレへと駆け込む。
手洗い鏡の前に、ドレスを着た由梨恵がいた。
「由梨恵!」
「勇太君!」
由梨恵の顔には、涙が見て取れた。
ぎり……と歯がみしてしまう。
由梨恵を泣かすなんて……!
でも、ここでもたついてちゃ駄目だ。
「いくよ、由梨恵!」
僕は彼女の手を引いて、その場から走って逃げる。
「お嬢様!? 待テ!」
「おっとそうはさせないよ! ふんぅ!」
ばきぃ!
「ぐええええええええええええええ!」
白馬先生の悲鳴だ!
由梨恵が立ち止まろうとする。
だがのそり、とトイレからボブが出てくる。
「いきたまえ!」
白馬先生がボブの足にしがみつく。
頬から血がでていても、キランと笑う!
「うん!」「ごめん、お兄ちゃん!」
白馬先生はボブの足にしがみついて、逃がさないようにする。
そのすきに僕らは走り出す。
「はぁはぁ……! このまま外に出れば……!」
「勇太君! 前!」
僕らを塞ぐように、ボブ2号が待ち構えていた。
くそ! ボディガードは一人じゃなかったのか!
「おとなしくかえりましょう、お嬢様。ご両親を、困らせないで」
「…………」
由梨恵がうつむく。
なにが、困らせないでだ!
「ふざけんな! 由梨恵にこんな悲しい顔させやがって!」
僕は立ち向かおうとする。
ボブ2号は溜息をつきながら、しかし、拳を握りしめる。
「邪魔」
ぶんっ! と拳が振り下ろされそうになった……そのときだ。
「そっちがね」
どがっ!
という音とともに、ボブ2号が華麗に宙を舞う。
どさり……とボブ2号がボールみたいに、遠くに倒れる。
「あなたたち、大丈夫?」
そこにいたのは、綺麗な女の人だった。
サングラスをかけた、長身の女性。
黒髪で、ポニーテールにしている。
「は、はい……」
「そう、良かった。さぁこっちよ!」
黒服のお姉さんに連れられて、僕らはホテルの外へと向かう。
リムジンが止めてあった。
僕らは車に乗り込むと、ポニーテールの女性が運転席に入り込む。
「シートベルト締めて!」
僕らは急いでベルトを締める。
女性が思いきり、アクセルを踏み込む……!
ぶろぉおおおおおおお…………!
間一髪で、車が走り出す。
ボブとボブ二号が、追跡を諦めたようだ。
良かった……。
「間に合ったみたいね」
黒服サングラスの女性が車を運転する。
どうやら、白馬先生が言っていた協力者だろう。
「助かりました。あの……お名前は……?」
「アタシ? アタシは……贄川よ。弟たちがいつも世話になってるわね」
どうやら僕を助けてくれたのは、あの贄川さんのお姉さんらしかった。
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また新作の短編、書きました!
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