公開放送
待ちに待った公開放送当日。朝一から配られるという整理券をゲットするため、8時に現地入りした。
まだ若干の恥ずかしさがあるため、知り合いに会ってもバレないように、キャップと伊達メガネで変装までする念の入れよう。
今日のイベントに参戦すると表明していたハルクくんとまりりんちゃんに『よかったら一緒に見ない?』と誘ったところ、ハルクくんは恥ずかしいからと、まりりんちゃんに至っては『出会い目的?』とからかわれた挙句に断られた。
『12時からの整理券をご希望の方〜、こちらにお並びください』
イベント自体は誰でも観覧できるのだが、パイプ椅子の並ぶ『アリーナ』で見るためには先着30名に入る必要があるのだ。
元々の番組リスナーとが〜るずのファンを合わせてどれだけの人数が集まるかわからなかったが、地元ローカル局の番組と観覧自体は誰でもできるという気楽さからか、まさかの最前列の席をゲットできてしまった。
「この整理券も記念にとっておこう」
いつもならばズボンのポッケにでも突っ込みそうな紙切れだけど、折り目がつかないように愛用のクリアファイルに挟み込んだ。
さてと、整理券もゲットしたことだし一度、家に戻ろうかとも考えたが、ひょっとしたら会場入り前のが〜るずに会えるかもと淡い期待を胸に抱きながらモール内をブラブラすることにした。
日曜日の朝ということもあり、食品売り場は卵や牛乳などの特売品を求める主婦でごった返していた。
「げぇっ、飲み物買うだけでこの列に並びたくないな」
買い物は体力使うって母さんが言ってた意味がやっとわかった気がするわ。
諦めて自販機でペットボトルのお茶を買い、時間までゲーセンにでも行こうかと悩んでいると、バックヤードからなぜか奏ちゃんが小走りで近づいてくるのが見えた。
「あれ? 和志さん?」
俺の顔を見て、キョトンとした表情をした奏ちゃんがフリーズしてしまう。
「おはようさん。今バックヤードから出てきたみたいだけど、奏ちゃんバイトしてたんだ」
高校生になったんだからバイトくらいしていてもおかしくはない。でも、それだったらこの前きたときに教えてくれそうなんだけどな。
「へっ? あっ、おはようございます。バックヤード? バック? ヤード? えっ? 何を言ってるんですか和志さん。私はいま入り口から入ってきたんですよ?」
前半、あたふたとしていたのに、何かを思い出したかのように普段の落ち着いた、というよりは有無を言わせないような、反論は許されないような口ぶり。
「いや、あそこの銀色の扉がね?」
「自動ドアです」
「……いや、銀色の———」
「自動ドアです」
「あっ、はい」
美人の真顔って怖いのね。
取り出し口からペットボトルを回収し、釣り銭から150円を投入口に入れた。
「ほい、なに飲む?」
「ふぇっ?」
「飲み物買いにきたんだろ?」
「あ、でも……」
「年上の見栄だから素直に受けってくれればいいよ」
ほれっ、とボタンを押すように促すと「じゃあ」と遠慮がちに紅茶のボタンを押した。
「そういえば舞華も朝早くから出かけたみたいだけど一緒なの? 最近、秘密にしてることが多くて「クラブ活動」とやらも何してるか教えてくれないし。あれかな? 兄離れをしようと———」
「それはないですね。舞華ちゃんは重度のブラコンですから」
自他共に認めるブラコンってどうなん? それにしては隠し事が増えたし、なんだか最近キレイになってきたし……
「まさか、知らない間に彼氏が⁈」
「ありえません。お兄ちゃんが世界一の舞華ちゃんですよ?」
親友に秒で否定されるのってどうなんだろう? それに舞華の愛が重すぎる。
「兄妹だぞ?」
「義理ですけどね?」
「一緒に暮らしてるんだぞ?」
「うらやましい限りです。私と一緒に暮らしませんか?」
なぜそうなる?
奏ちゃんの父親は世界に冠たるKOROMO自動車の重役さん。
うちのお父さん同様、娘を溺愛している。
どこの馬の骨ともわからない……いや、何度か会ったことはあるか。
なんにせよかわいい一人娘の同棲なんて認める訳がない。
「あははは。そんなことしたら奏ちゃんのお父さんに殺されちゃうよ」
「4月から両親は3年間の海外赴任で、私、一人暮らしなんです。だからその間に既成事実さえ作っちゃえば……」
「そ、そうだ奏ちゃん。走ってたくらいなんだから急いでるんでしょ? 早く戻らなくて大丈夫?」
腕時計なんてしていないくせになぜが左手首を見ながら促すと、奏ちゃんは焦ったように俺の背中に抱きついてきた。
「あ、あの。これありがとうございました。それではまた後で」
パタパタと走り出した奏ちゃんは、やっぱり銀色の扉を開けてバックヤードに消えて行った。
「後で? 用事終わるまで待っててってことか?」
背中に柔らかい感触を残していった奏ちゃん。
即死クラスの武器を備えていても、走る姿は変わっていないことに、懐かしさと安心感を覚えた。
♢♢♢♢♢
『みなさ〜ん。こんにちは! FM長久手パーソナリティの麻宮夕陽です』
アリーナの観客が入れ替わり、俺はドキドキしながら周りをキョロキョロと見渡した。
この中にハルクくんとまりりんちゃんもいるんだろうな。
買い物ついでの観客も多いだろうが、アリーナ以外の立ち見スペースにも一眼レフカメラを構えている人がいる。関係者なのか、はたまたが〜るずファンなのか。
隣に座った長身の女の子は、ボーイッシュな見た目に反して両手を胸に抱いてが〜るずたちが出てくるのを待っているようだった。
『それではみなさま、お待たせしました! 先日デビューしたばかりのアイドルユニット SYO-BU が〜るず(仮)のみなさんです!』
司会者に紹介され元気よく登場したが〜るずたち。
その見た目だけでも十分に人を魅了でき、観客からは歓声が上がる。
『きゃ〜! かわいい!』
『ローカルアイドル? まじかよっ! レベル高っ!』
『スタイルいい!』
かくいう俺もスマホを掲げてが〜るずちゃんたちを激写している。
『みなさん、はじめまして! 私たちは勝負池商店街親善大使 SYO-BU が〜るず(仮)です。よろしくお願いします』
真ん中に立つ一番小さな女の子が手を振りながら元気よく挨拶をした。
ピンクのツインテールに、ピンクのカラコン。身長は140センチ台だろうか? きっと高校生でも小柄な部類の女の子。
ピッタリとした白いオリジナルTシャツから浮かび上が……らないくらいにスレンダーな体躯(推定Aカップ)。
元気な妹系だな。
左に立つのはミディアムな金髪をポニーテールにし、目にはイエローのカラコン。身長は160センチに届かないくらいだろうか? Tシャツの裾をキュッと縛っているので白いお腹がチラリとしている(推定Cカップ)。
これはギャル系だな。
右に立つのは銀髪のストレートのロングヘアに、ライトブルーのカラコン。身長は165センチくらいだろうか? 女子はうらやみ、男子は目が釘付けになるナイスバディ(推定Eカップ)。
涼しげな目元のお姉さま系。
『は〜い。こちらへお座りください』
司会者に促されてパイプ椅子に腰掛けると、ショートパンツから覗く白い生足が眩しい。
『『『よろしくお願いします』』』
『こ〜んな美少女が長久手にいたんだねっ! びっくりしちゃった』
興奮気味に話す司会者だけど、それは演技というわけじゃなく、素で興奮しているようだ。
『それでは自己紹介してもらいましょうか。じゃあまずは真ん中の子から!』
最初に指名された小さな女の子が立ち上がり……、やべっ! 目が合った!
『はじめまして! SYO-BU が〜るず(仮)のマイ———』
目が合った瞬間、ビクッと身体を震わせた彼女の口が止まり、目線を宙に彷徨わせた。
『マ、マイラで〜す』
緊張しているのだろうか? しどろもどろになりながら自己紹介するマイラちゃん。
『えっ? っとマイラちゃん?』
狼狽えたように確認する司会者と、他の2人は口に手を当てて震えている。
『は、はいっ! マイラです!』
ヤケクソ気味に答えると、司会者はぶつぶつと言いながら資料に何かを書き込んでいた。
「いきなり改名とか聞いてないんですけど?」
マイクを外して独り言を言っているが、最前列の俺の耳には微かに聞こえてきた。
『よしっ! 気を取り直して次の子いってちょうだい!』
マイラちゃんの隣の金髪の子が笑いを堪えながら立ち上がる。
あっ、また目が合った。
『あ〜、なるっ。こんにちは! ヒッキーです。よろしくねぇ』
パチッとウインクのサービス付き。
これ、絶対に俺に向けてだよな。
『あ〜、うん。そうなるよね。よろしくねヒッキーちゃん』
呆れ顔の司会者がまたもや資料に何かを書き込む。
『はいっ、じゃあラスト!』
司会者と頷き合いながら立ち上がった銀髪の子が俺に一礼。
俺に?
『みなさん、はじめまして。お会いできてうれしいです。SYO-BU が〜るず(仮)のカティです。よろしくお願いします』
ほおっというため息が会場から漏れる。
皆、妖艶な姿に魅了されてしまっているようだ。
今回のイベントはトークのみだったので歌を聞くことはできなかったが、明日から公式HPが開設され、それに伴いSNSも展開していくとのこと。
『あっ、このTシャツ。勝負池商店街にある『ファッション北条』さんで明日から販売されるので、ぜひっ、買ってくださいね〜』
イベントの最後にはヒッキーちゃんがしっかりと商店街をアピールして会場は笑い声に包まれた。




