表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

お兄ちゃんといもうと

 森林堂書店でチラシを見つけてから数日。


 いつものように彼女たちの情報をさがしていると、『長久手発 ご当地アイドル SYO-BU が〜るず(仮) 応援サイト』なるものを発見した。


「お〜! 昨日できたばかりじゃん!」


 非公式のサイトらしく、布教用のチラシに載っていた情報以上のものはまだなかったが、撮影OKだった夏祭りの写真は20枚程アップされていた。

 一眼レフのカメラで撮影されたものらしく、彼女たちのイキイキとした表情が印象的で、さらに狙ったようなローアングルの写真がなかったのが好印象だった。


 サイトの運営者は『マスター』さんというらしく、カメラが趣味で祭りの風景を撮影に来たところ、俺と同じように彼女たちに心を奪われたようだ。


 サイトマップを見るとほとんどの項目はcoming soonとなっていたが、掲示板は開設されていて、最初の投稿はマスターさんの挨拶と利用上の注意だった。


 ここになら俺の思いの丈をぶちまけられる!


" K´z

 はじめまして。俺も夏祭り見に行ってました。彼女たちサイコーでしたね! 何か情報があれば書き込んでいきます!   "


「こんな感じでいいかな?」


 恐る恐る投稿してみると即レスがあった。


" マスター

 K´zさん、はじめまして。投稿ありがとうございます〜。『が〜るず』ちゃんたち、まだ夏祭り以外の活動がないからサイト立ち上げるの早すぎたかな?って思ってたんですげど、反応あってよかったです。これから一緒に応援して行きましょう! "


「なんか、同志ができたみたいでうれしいな。URL、スマホにも送っておこう」


 こういう私設サイトでファン同士の繋がりってできていくんだろうな。

  CDなんか出すようになったら感想書き込んだり、イベントの参加報告したり、グッズの購入報告とか、それこそオフ会なんてしたりして。


「……いい。なんか、ファンになった気してきた!」


 厳密にいえばチラシゲットして、サイトの掲示板に書き込んだだけなんだけど、ここには俺の明るい未来があるような気がしてきた。


「うぅ〜、書き込みできるような情報ゲットしてぇ〜!」


 胸が高鳴るというか、やる気がでてきたというか。B型気質なのだろう。俺は居ても立っても居られなくなり、情報を求めて商店街へと走り出した。


 平日の夕方ということもあり、買い物中の主婦や学校帰りの学生、仕事帰りの会社員など、賑やかってほどの人通りではないにしろ、商店街にはいろんな年代の人がいた。


 振興事業の一環として、商店街は月単位で店舗を借りられるようにしたり、銀行の融資を受けられるようなサポートをしたりとシャター店舗の改善に乗り出した結果、大学の服飾学部が運営する服屋や、高校の調理部のお菓子屋、若手クリエイターのゲームセンター、1人バーテンダーが切り盛りするバーなどが商店街に仲間入りした。


 その中のひとつに『コスタ』というバルがあり、俺もたまに織田や大学の友達と来たりする。


 とは言え、こういった新しい店舗は駅側に多い。

 この前のことを参考にすれば、組合に入っていそうな昔からの店舗の方が情報を集められそうな気がする。

 と、いうことで、まずは前回収穫のあった森林堂書店から覗いてみることにした。


 この日の森林堂書店には買い物帰りの若いお母さんと小さい女の子がいた。


「ママ、あのね? わんちゃんもかあいいけどね? おひめしゃまもきれいなの」


 小さな絵本を両手に持って説明する女の子に、お母さんは「うんうん」と頷きながら笑いかけていた。


 こういう姿を見ると、舞華の小さな頃を思い出してしまう。

 

 まだ一緒に暮らし始めた頃のこと。


 それまで、お義父さんが仕事の時は祖父母に預けられていた舞華は、再婚によって環境がガラっと変わってしまった。

 再婚前に何度か母さんとは会っていたらしいけど、長時間一緒にいたことはなく、はじめの頃は泣いてばかりいた。

 当然のように俺にも懐いてくれてなくて、話しかけても固まってしまうか、泣いちゃうか。


 そんな舞華が俺を「お兄ちゃん」とはじめて呼んでくれたのはある雨の日のこと。


「ごめんねカズくん。牛乳買い忘れちゃったからちょっと買いに行ってくるね。舞華ちゃんのこと、よろしくね」


「う、うん」


 小学5年生。


 留守番はできてもお兄ちゃん1年生。子守には自信がなかった。


「ま、舞華ちゃん。何してるのかな〜?」


 ビクッ!


 そこまで驚かないでよ。


 俺のことは視界に入ってたはずなのに、話しかけられると思っていなかったのか、小さな身体を大きく震わせた。


 あ〜、お母さん早く帰ってこないかな〜。


 商店街までだから往復でも30分もあればお釣りがくるくらいだろう。

 帰りを待ちながら外をじっとながめていると、ピカッと光った直後、ドーンという轟音が鳴った。


 あ〜、びっくりした。カミナリ落ちたかな?


 キョロキョロと辺りを見渡していると、両足をギュッと掴まれる感覚がしたので、振り向いてみると、泣き出しそうな顔の舞華が抱きついてきていた。


「怖かった?」


 俺の問いかけに答えることもできない舞華を、フンッと抱き抱えてソファーに移動した。


「大丈夫だよ。お兄ちゃんが一緒にいるから」


 向かい合わせで舞華を膝の上に乗せ、ギュッと抱きしめながら頭を撫でた。


「……お、おにいちゃん? いっしょに、いてね?」


 震える声だったけど、しっかりと聞き取れた「お兄ちゃん」の言葉。


 この時が舞華を「いもうと」として守ろうと思った瞬間だった。


「ん? お兄ちゃん? 何してるの?」


 回想シーンを遮る舞華の声。


 はっ? 舞華の声?


 バッと顔を上げるとうれしそうな顔をしたJK舞華がいた。


「げっ!」


 まだ『が〜るず』の情報がないかチェックできてないぞ?


「なによげって。 あ〜、まさか妹系のエッチな本探してたんじゃないよね〜」


 左腕をホールドされ、ジト目を向けられる。


「なんだよ妹系って。そもそもだな、そういうのは電子で———」

「へ〜、ちょっとお兄ちゃん、スマホ貸してくれるかな?」


 ズボンのけつポッケからスマホを抜き取ろうとする舞華の手をかいくぐり、距離を取ろうとするが、ガッチリと腕をホールドされて逃げられない。


 仕方ない、奥の手を使うか。


「やましいことがないなら見せてよ」


「仕方ないな〜。はい」


 スマホを寄越せと出してきた手をギュッと握ると、一瞬キョトンとした後、ふにゃっと口元を緩めた。

 

 小さい頃から俺と手を繋ぐのが好きなんだ。まあ、未だに好きなのはどうかと思うけどな?


「たまには手を繋いで帰るか?」


「う、うん!」


 繋いだ手を眺めながらうれしそうな舞華を見ながらも、抜け目なく店内をチェックしてから本屋をあとにした。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ