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運命の出会い

 汗で張り付いたTシャツも、光に群がる虫たちも、今の俺には気にならなかった。

 その出会いはそれほどにセンセーショナルな出来事だった。


 お世辞にも立派だとは言えない夏祭りのメイン会場。テレビのひな壇でお笑い芸人と一緒に座っているようなアイドルにも太刀打ちできないであろう彼女たち。


 パイプ椅子でビール片手に騒いでるおっさんや、休憩がてらたこ焼きに舌鼓を打っているおばさんたちの前でも全力でパフォーマンスをしている姿には感動すら覚えた。


「「「ありがとうございました」」」


 パチパチとまばらな拍手の中、キレイにお辞儀をして舞台袖に戻ってきた彼女たちの表情はとても清々しいものだった。


「今日はありがとうございました! お疲れ様でした!」


 ただのアルバイトの俺たちにまでしっかりと挨拶をして帰って行くその姿は、間違いなくプロそのものだった。


♢♢♢♢♢


 なんと退屈な、なんと無駄な時間を過ごしているんだろうか。

 広い講義室、教授の話しに耳を傾けながら大学ノートに板書を書き写す。

 なぜ一コマ90分を一日4、5回も繰り返さなければならない?


 実に無駄な時間だ。


「こらっ、全然授業に集中してないじゃない。ただ書き写すだけじゃ意味ないわよ」


 コツンと頭を小突かれて我へと帰る。


「お前はエスパーかよ。的確に俺の心を読み取るな」


「ただの腐れ縁でしょ。ほらっ、テストが終わったからって気抜いてると後期で痛い目見るわよ?」


 呆れたような物言いだが、少しは俺のことを気遣ってくれているのがわかるので返す言葉もない。


 俺とは違い、真剣な表情をしているのは小学校からの腐れ縁、織田加奈(おだかな)

 肩甲骨あたりまで伸びた茶髪には緩やかなウェーブがかかっており、若干タレぎみな眼は見る者におっとりとした印象を植え付ける。


「ほらっ、私じゃなくて前見なさいよ和志くん」

 

「自意識過剰かよ」


 内心、焦りながらも悪態をついて平静を装う。こいつ、実は俺のこと好きなんじゃないか? そんなことを思いながら織田をチラ見すると冷たい眼差しを向けられていた。


小早川和志(こばやかわかずし)くん? 私はあなたの彼女じゃないんだからしょっ中お世話してあげる義理もないんだけど?」


「……おぉう。考えただけでもおぞましい。お前とはただの腐れ縁以上の何ものでもないかんな」


 こんな悪態つけるのもこれまでの付き合いの長さ故。そこそこモテるんだからとっとと彼氏でも作ってリア充すりゃあいいのに、サークルにも入らずにバイト三昧。


 プライベートで一緒に出かけることはあるが、未だに謎多き女だ。


「美人には謎がつきものでしょ?」


 いや、ほんとにお前はエスパーかよ。


♢♢♢♢♢


 大学の講義が終わり、寄り道することもなく自宅に帰る。

 車で片道15分。距離だけを聞くと一人暮らしと思われるかもしれないが、ここは両親といもうとと暮らす実家だ。


 この家に引っ越してきて10年。そろそろ胸を張って地元と言えるだけの経験は積んできたつもりだ。


 母親の再婚により隣の日進市から、義父といもうとの住む長久手市に新居を構えることになったのだ。


 大学進学にあたり、最初は一人暮らしも考えたが、母の連れ子という負い目と、家を出てしまうと家族という形を保てる自信がなかったため自宅から通える公立大学へと進学することにした。

 

 義父は仕事、母はパート、いもうとはまだ学校にいるため、家には俺ひとり。冷蔵庫からペットボトルを持って自室に入りPCを立ち上げた。


 あの夏祭りから俺はずっと彼女たちの情報を集めているが、有力な情報は得られていない。唯一、検索エンジンに引っかかったのは『勝負池商店街夏祭り』のサイト内にあるイベントスペースの参加者に小さな写真とともに『SYO-BU が〜るず(仮)』というユニット名。


 白を基調とし、それぞれのイメージカラーなのだろうか、ピンク、イエロー、ライトブルーで幾何学模様が描かれていたコスチューム姿の美少女が3人。写真は小さい上に画質がイマイチ。


「画素! そしてせめて、個人の名前くらい載せてくれよ〜」


 イベントでもユニット名しか名乗ってなかったので、検索できるワードが少ない。せめて個別の名前がわかればTwitterなどのSNSで引っかかる可能性が上がる。


 夏祭りから10日程経ち、毎日のように彼女たちの情報を集めているが、未だに新しい情報は得られていない。


「やっぱり足で稼ぐしかないか……」


 情報化社会においても、警察の聞き込み捜査のようにアナログ的な方法は有効な手段なわけで、夏祭りを主催していた勝負池商店街ならばなんらかの手掛かりが得られるはずだ。


「よし、行くか」


 PCの電源を落とし、飲みかけのペットボトルを持って自室を後にした。


♢♢♢♢♢


 愛知県長久手市勝負池。


 天正12年(1584年)に行われた『小牧長久手の戦い』の折、この地方に陣を敷いた武将が戦勝祈願のため、刀を投げ入れられたという池は自然公園内にあり、町名となるとともに地元のシンボル的存在になっている。

 

 俺が向かった勝負池商店街は、その自然公園からリニアモーターカーの走る、通称『リニモ』の『しょうぶ池駅』までを約40店が連なっているアーケード街である。


 義父曰く、昔は活気のある商店ばかりだったが、近年はショッピングモールの台頭によりシャッターを下ろしたままの商店が目立つようになってきている。


 俺にとっても、この商店街には思い出が詰まっており、小さな頃はいもうとの手を握り駄菓子屋に通い詰めたものだ。


 自宅から徒歩10分。商店街にやってきた俺は公園側から調査を開始した。

 

「商店街振興組合の本部なんてものがあればわかるんだけどな」


 夏祭りを主催していたのが振興組合だということはサイトに載っていた。そこに夏祭りのチラシでも残っていれば何か得られるかも知れない。


 最近、ピアノ教室から各種楽器や歌のレッスンまでやるようになったという音楽教室の前を通り、いくつかのシャッターが下りた店舗を越えると、昔よくきていた『森林堂商店』が目に入った。


「懐かしいなぁ、最近はデカい本屋しか行かねぇからな」


 店先の週刊誌を眺めながら店内に入り、昔のようにコミックの陳列棚に向かう。

 何冊か日に焼けて背表紙が色褪せているのはご愛嬌だろう。一通り店内を巡り店を出ようとしたところで、レジの前にあるポップに目が止まった。


『勝負池商店街発 アイドルユニット! SYO-BU が〜るず(仮)。勝負池商店街夏祭りでデビュー!』


「あっ、あった!」


 まさかの本屋にて情報ゲットだぜ!  


 飛びつくようにレジに近づきポップをまじまじと見る、その下に布教用のチラシがあることに気づいた。


「お、おぉぉぉう」


 震える手で折り目が付かないように3枚手に取り、鞄から出したクリアファイルに挟み込んだ。


「あははは! 兄さん、彼女たちのこと知ってるのか? えらい興奮してんな」


 チラシを食い入るように見つめてると、レジにいた店主らしきおじさんが声をかけてきた。


「あっ、す、すみません。その、夏祭りで見て、全然情報なくって。やっと見つけたもんでつい」


「あ〜、そりゃそうだ。あの夏祭りでお披露目だったからな。かわいい子たちだったろ?」


「ですね! あのっ、彼女たちのこと知ってるんですか?」


 昔からある店だ。組合にも入ってるだろうから、何かしら彼女たちの情報を持っているかも知れない。


「あ〜、まあ、組合の組長やってるからそれなりにはな。でも、わりぃな。最近じゃあ個人情報やらなんやらでいろいろと難しくてよぉ。そのうちHPやらSNSなんかで情報出す予定だから、もう少し待っててくれや」


「そ、そう、ですか。わかりました」


 悪いな! と声をかけてくれた店主に頭を下げて店を出た。


 商店街のほぼ中央には少し開けたスペースがある。そこには簡易なステージと石造りのベンチがあり、夏祭りのときにはメイン会場となっていた。


 ベンチに座り、先程本屋でゲットしたチラシを見ながらあの日を思い出していた。


 澄み渡る歌声。飛び散る汗。揺れる胸……、いやいや、雑念は捨てろ!

 10年ぶりに上った花火よりも鮮やかだった彼女たちの輝きは、いまでも色褪せることなく俺の脳裏に焼き付いている。


 目を閉じてステージに思いを馳せていると、なにやら騒がしい声が聞こえてきた。


 振り返ってみると、そこには制服姿の男女がなにやら揉めているようだった。


「カラオケくらい、いいだろ? ちょうどこっちも3人、そちらも3人」


 男のセリフでナンパが行われていることを理解し、されているだろう女の子を見ると、なんともまあ、納得。


 黒髪ロングの眼鏡をかけた正統派美少女に、少し明るい栗色のゆるふわパーマのギャル系美少女、ショートボブの妹系美少———、もとい、俺の義妹、小早川舞華(こばやかわまいか)が困り顔で抗議の声を上げていた。

 

 

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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